「これって日常だよね?」

 




ここは時定市。平日の何とものどかな時が流れている。
青色の髪を木製の飾りがついた髪留めで二つに結んでいる女子高生と茶色いセミロングの女子高生が歩いている。
歩きながら茶色いセミロングをした女子高生は明るい表情でもう一人の少女にずっと話し続けている。
青い髪をした女子高生はそれを手慣れた様子で相槌を打って答えている。

「はは、そうなんだ。でもそれってゆっこらしいよね」
青髪の少女が言う。茶色い髪をした少女はゆっこと呼ばれているようだ。
話の内容のほとんどはゆっこのバカ話である。
老後の趣味は何が一番カッコいいかということについて熱弁を続けているようだ。
「違うんだよみおちゃんっ!老人にとっては盆栽なんかもはや通じゃないんだよっ!常識を覆さないと…」
青髪の少女はみおというらしい。ゆっこよりも少し背が低くより幼く見える。
どちらの女子高生にも共通して言えることはどこにでも居そうな普通の女子高生であることだ。
そんな普通の女子高生二人の下校中という日常。

しかし、そんな日常にも些細な事で信じられないような事態が訪れる…。


「でさー、私はやっぱりトライアスロンとかやりたいと思うわけなんだよねー」
「えぇ~、ゆっこそれは無理だよ…」
「いや、やってみないとわからな…あれ?はかせ…?」
「どーも!はかせです!」

二人の前にダボダボの白衣をまとった幼い女の子が現れた。
自ら「はかせ」と名乗り、ゆっこからも「はかせ」と呼ばれるこの女の子。
どう見ても「はかせ」と呼ばれるような風貌ではない。

「どうしたの?はかせ?」
みおが少し腰を屈めてはかせの目線になって尋ねる。
「あのねっ!あのねっ!ちょっと二人に協力してほしいことがあるんだけど!」
「協力?なになに?遊びたいの?」
バタバタと身振り手振りをしながら訴えかけてくるはかせ。
そんなはかせの無邪気で可愛らしい姿にニコニコと笑ってしゃがんで話を聞く二人。

「あっ、あれ…?」

突然、二人の視界がぼやける。
瞼が重い…。目の前のはかせの顔もぼやけて確認できない…。

「コホン!ちょっと眠ってもらいます!」

「ぇ…?どゆ…こ…と…?」
薄れて行く意識の中、博士の言葉だけが頭の中に響き二人はその場に倒れこんでしまった。



             ____
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「うぅ…何?何が起こったの…?」

「わっ、わかんない…大丈夫?みおちゃん?」

「うっ、うん…ゆっこは?」

「大丈夫…。でも…なんか聞こえない…?」

「えっ…!?」

みおはゆっこの言葉にハッ!として耳を澄ましてみた。


「………だー!」

「…じんだー!」

「…ょじんだー!!」

「巨人だー!!!」


「きょっ、巨人!?えっ!?えっ!?えーっ!!?」
「巨人だー!」と騒ぎ立てる大勢の人達の声。
何事かと周りを見回すとまるでおもちゃのような小さな街並み…。
そして、小さな小さな人々が足元でチョロチョロと逃げ回っているのがわかった。

「ちょっ!これみおちゃん…!」
ゆっこの驚いた声が聞こえる。
「うっ、うん!ゆっこ…!私達…とんでもなく大きくなっちゃってる…!」
みおが逃げ惑う小人達を目で追いながらゆっこに答える。
「ほらっ!あれ!時定高校だよっ!」
ゆっこの指さした先には確かに自分達の通う時定高校が…。
「私たちの住んでる街がこんなに小さいだなんて…私…信じられないよ…」
みおが愕然として呟く。
ついさっきまで二人でくだらない話をしながら歩いていたあの道も今ではやっと片足が収まる程度の大きさ…。
二人がゆっくりと立ち上がればパラリ…とお尻や肘から自分達の体で崩壊した家屋の破片が落ちる。
そして、立ち上がって見下したその街は本当に小さい。
本当に玩具の街に迷い込んだような…しかし、ミニチュアのように小さくともいつも見慣れたその街並みは確かに自分達の慣れ親しんだ時定市…。
自分達が巨大化してしまったのだという現実を思い知らされる。


<おーい!おーい!二人ともきこえるー?はかせだよっ!>

「えっ!?はかせっ!?どこ?」
どこからともなくはかせの声が響き二人はあたりを見回す。
しかし、はかせの姿は見えない…。

<はかせの声は二人にしかきこえていません!なぜならはかせは安全な所にいるからですっ!>

「ねぇ!私たちを巨大化したのははかせなんでしょ?どういうことか説明してっ!」

<はかせの新しい発明の実験ですっ!>

「実験て…早く元に戻しなさいよっ!!」
みおが大声で叫ぶ。周りの小人達はその大声量に恐れを成してさらに騒ぎ立て始めた。

<時間がたったら元に戻してあげます。だから今はおっきな自分を楽しんでください。じゃーねー!>


「えーっ!?」
みおはその何とも無責任な言葉に声をあげるとただただ唖然としていた。
「どっ、どうしよう…ね、ゆっこ?…って、ええぇぇぇぇぇ!!?」
みおの目に信じられない光景が飛び込んできた。
そこには瞳を輝かせて小さな街を見回しているゆっこが居たのだ…。
「みおちゃんっ!!こんな凄い事そうそうないよっ!!!」
「ちょっとゆっこ何言ってんの…?」
「ふふーん!私さー!一度巨大ヒーローみたいのになってみたかったんだよね~!」
右腕の袖を少し捲り上げてぺロリと舌を出す。
「ふーんそうなんだ…」(ゆっこは…バカだなあ…)
みおは呆れた顔をしながらゆっこを見て言った。

「ほら!みおちゃん見て見てっ!小さくて可愛いよ~!」
ゆっこが少し歩き出してまるでミニカーのようなスポーツカーを摘みあげて手のひらに乗せて言った。
「あっ!ダメだよゆっこ!」
「大丈夫だよみおちゃん!ほら、カッコいいと思うものー!スポーツカー!なんつってー!」
そう言ってスポーツカーを高く持ち上げる。
「なにそれ意味分かんない…」
その姿を見て完全に呆れるみおは力なくそう言ってため息をついた。

「ぎゃっ、ぎゃーっ!助けてくれー!?」

「あれれ?何だあ?」
どこからか叫び声がしたのでゆっこがあたりを見回す。
その叫び声はゆっこの手のひらからしていた。
「あっ!人が乗ってたのか!」
「もう、ゆっこがちゃんと確認しないから…」
車から出て来た小人はあたりを見回して二人の巨大な女子高生に覗きこまれビクビクとしていた。

「ははっ!こんにちはー!わあー可愛いー!」
「あっ、あのごめんなさい。ゆっこバカなんです」
ゆっこもみおも手のひらの上でビクビクしている小人に向かって話しかける。
小人はあまりのステレオで襲いかかる大声に耳を押さえつつも口を開いた。
「おっ、お願いだから殺さないでくれー!」
涙を流しながら巨大な女子高生二人に命乞いをする小人。
その姿を見て思わずゆっこが「ぷぷっ」と吹き出す。
「やだなー。そんなことしないしなーい!私たち正義のヒーローなんでっ!」
「でもゆっこ、これだけ大きさが違うと勘違いもされちゃうよ。
実際私たちこんなに街壊しちゃってるし…」
足元の自分達の体で潰されてしまった家を見下し、みおが言う。
「あっ、う…確かに…」
冷静なみおの指摘に苦笑いをするゆっこ。
一方で手のひらの上の小人は二人の様子を見てどうも殺意のある巨人ではないと理解したようだ。
「とっ、とにかく早く道路へ降ろしてくれぇ~!」
「あっ、そうか!すいませ…むぐっ!?ふあっ…!ふあっ…!」

小人はゆっこの不審な動きに気がついていた。
目の前に広がる少女の顔。しかし、その中でも鼻がムズムズと動き、巨大な鼻穴から強い風が吹いたり戻ったりとしている…。
間違いないこれは…!


「ふあーっくしょーんっっっ!!!」


「あーっ!!ゆっこー!」
ゆっこの巨大なくしゃみと共にみおが大声をあげる。
小人はというとくしゃみの反動で手のひらから投げ飛ばされ宙を舞い、いったい何が起きているかわからない状態だ。
スポーツカーも宙に浮いている。

みおはとっさに宙に放り投げられた小人とスポーツカーをキャッチしようと身構える。

「ほっ!!」
スポーツカーは無事にキャッチできた。
キャッチした時に力加減を間違えて少し壊れてしまったが…。
「あれ!?こっ、小人さんは…?」
あたりをキョロキョロと窺うみお。
しかし、みおは虫のように小さな小人を完全に見失ってしまっていた。


ぽと…


「ぎゃあああー!!えっ!?なにっ!?何か服の中に入ったんだけどっ!?ねえ!ゆっこゆっこっ!」
衣服の中に侵入してきた異物に動揺するみお。
一方で大クシャミをして少し気の抜けているゆっこだったがみおの異変に気付いた。
「ハッ…!みおちゃんなにっ!?どうしたのっ!?」
「何か服の中入ってムズムズ動いてるの~っ!はやくとって~!」
特徴ある可愛らしいダミ声で大声をあげながらゆっこにすがりつくみお。
「あっ…!もしかして…小人さんがみおちゃんの服の中に入っちゃったんじゃ…」

そのゆっこの言葉に二人の間で無音の時が流れる…。

モゾモゾ…
「ヒャ…!?」

胸元で確かに動いた小人…。
その刺激に思わずみおが声をあげる。
それを見てゆっこが小さく「あっ…」と声を漏らす

「………」
「………」

「うわあああああぁぁぁぁぁ!どうしよおおお!!もう私お嫁にいけないよおおおぉぉぉ!!」
「みっ、みおちゃん落ちついてっ!とにかく小人さんを無事に救出しないと!」
「うっ、うぐ…!ゆっこ…とってっ!」
涙目でゆっこに訴えかけるみお。
「わっ、わかった!まっかせといてっ!」
フン―ッと鼻息荒く、みおの体に手を伸ばすゆっこ。
その顔は真っ赤に赤面している。

「いっ、いくよっ!みおちゃんっ!」
「うっ、うん…!はやく…はやくしてぇ…!」

「ううぅぅぅ…」とうめき声を挙げながらビクつくみお。
小人の男が胸の中に入りこみ動いているということは純粋な高校一年生の少女にとってかなりショッキングなことなのだろう。

一方でゆっこも恥じらう妙に色っぽい声を出すみおに動揺していた。
「むむむ…!」(どうしよ~…何かすごくエッチでやってはいけないような事をしてるような気分だよ~…!)
「何してんの…!?はやくしてよゆっこぉ~…!」
「うっ、うん!ではっ…!」
胸の中で小人が動くたびにみおは「ヒャッ…!?」や「うぅ…!?」と言った声をあげる。
ゆっこはゴクリ…!と生唾を飲み、みおの胸元を覗きこむとぺったんこなみおの胸から振り落とされないよう
必死にブラジャーのカップと胸の間に身を潜めブラ紐にしがみついている小人を発見した。
そして、「いた…!」と呟くとゆっくりみおの胸元へと手を侵入させた…。

「うわああああっ!?」

突然現れた巨大なゆっこの指先に摘みあげられる小人。
「ちょっと!いたいけな乙女の胸元に入るとか何考えてんですかー!」
摘みあげた小人を目の前にぶら下げて怒るゆっこ。
大口をあけて怒鳴るので小人には飛んだゆっこの唾液がかかってしまっている。
「うぷ…!いや…君がおっきなくしゃみするから…不可抗力で…」
顔にかかった唾を手で拭い答える。
「うっ…!ふっ、ふかこうりょくとか難しい言葉でごまかさないでください!
とにかくっ!みおちゃんに謝ってあげてくださいっ!」
自分のくしゃみをとにかくなかったことにしたいゆっこはそう言ってうずくまって放心状態のみおの手のひらに小人をポトリと落とす。
「あっ、あの…さっきはすいませんでし…ヒィ!?」
みおが涙目で小人の方を睨みつけている。
小人はあまりの迫力に腰を抜かしてみおの手のひらの上でガタガタと震えている。


「…んたのせいで…!あんたのせいでねえぇぇぇ!!」

みおの怒号が飛ぶ。
手のひらの上の男はとてつもなく巨大な声と強風を感じていた。
そして、その圧倒的なパワーを感じるとともに自分の今置かれているとてつもなく危険な状況を理解した。

「あんたのせいでもう私お嫁にいけないじゃないのよおおぉぉぉぉ!
えぐっ…!うぅぅ…!!これぇ!どうしてくれるのよおおおぉぉぉぉぉ!!」

泣きじゃくって訴えかけるみお。
男はかなりの迫力に押されていたが同時にいたいけな乙女心を汚してしまったという背徳感を抱いた。
「あっ、あの…ごめんっ…!でも、仕方がなかったんだ…!」
「ごめんってあんたねえぇ!!……あっ…」
みおは男の顔を見てハッと思った。
その小人が自分が想いを寄せているあの先輩とよく似た顔立ちをしている青年だったからだ。
「ほっ、ほんとにごめんっ!!」
男が手の平の上で土下座をした。
「あのねぇ~…そうそう簡単に許されるもんじゃないんですよ~っ!?ねっ?みおちゃん?」
「いや、あっ、あの…顔…上げて下さい」
「そうそう…顔上げて…ってええええぇぇぇぇぇぇー!!?」
みおの変わり身の早さに驚くゆっこ。
男も同じく驚いた顔をあげてみおの方を見ていた。
「もっ、元はと言えばゆっこがバカなことしてバカみたいに大きなクシャミをしたのが原因ですから…」
「なあぁぁんっ!」(あちゃ~!ちゃんとクシャミが原因だった事覚えてた~!)
モジモジと男に話すようになったみお。
明らかに今までの荒ぶった彼女はそこに存在していなかった。
「許してくれるのか…?」
「あっ、ハッ、ハイ!許すも何もこちらこそすいませんでした…!ほら、ゆっこも謝って!」
「えっ!あっ、すいませんでしたぁー!!」
二人の巨大な女子高生が手のひらにちょこんと乗った小人に頭を下げている。
何とも不思議な光景だ。

「いっ、いや…じゃあとりあえず降ろしてもらえないかな…」
「あっ!そうですよね!すいません…!!」
みおは焦って小人を足元に降ろす。
小人は地面に降り立ち本来の自分の目線でみおとゆっこの二人を見上げ二人との大きさの違いを再確認する。
よく生きて帰って来れたな…という想いが男の心の中にこみ上げてくる。
でもあることに気付いた男は遥か上から見下ろす彼女たちに対して口を開いた。
「あっ、あのっ!俺の車は…?」
「あっ、そうだっ!ゆっこ!私が渡した車っ!ポケットに入れてたでしょ?」
「うんっ!えーっと…ちょっと待ってね~…っと……」
「ぁ……」
ゆっこがポケットから取り出した車は既に原形もないほどに潰れたしまっていた。

「……すっ、すいませんでしたあぁー!!!!」
「うわわわっ!!?」
ゆっこがその場で小人の男に対して土下座をする。
そのゆっこの巨大な体の運動でまるで大地震のような揺れが男を襲った。
「もぉ~!ゆっこってば何やってんの…?」
「ごっ、ごめん~…!ちょっと壊れてたのは知ってたけどポケットに入れてるだけでこんなになっちゃうとは…」
「ゆっこはしょうがないなあ…。あっ、あの…どこか行きたいところがあるなら私が連れて行きますけど…」
みおはその場にしゃがみ込み男に手を差し伸べる。
「うっ…じゃっ、じゃあお言葉に甘えて…」
そう言うと男はみおの手のひらに乗った。
みおはゆっくりと立ちあがってほんのり赤くなった顔を近づけにっこり笑った。
「あっ、あの!手のひらの上も危ないと思うんでこの中に…」
そう言うとみおは制服の左胸についたポケットに男を入れた。
ポケットからひょっこりと顔を出す小人の男。それを見てみおはとてつもなくドキドキとした感情が高まっていた。

(もしも先輩がこんなに小さかったら…こうしていっつも一緒に居られるのにな…)

小人もバクバクと高鳴るみおの心臓の音に気付く。
そして女子高生が毎日身につけている制服の独特の香りに自分も心臓がバクバクと鳴る…。

「じゃっ、じゃあ行きましょっか…!」
「あっ、あぁ!!」

妙な雰囲気の中、二人は歩み出した。
そして、一方では全くの蚊帳の外となっていたもう一人の巨大な女子高生がその場に取り残されていた…。


(あーあ…みおちゃん行っちゃった…。なーんか変な感じっ!)
ゆっこはしょうがないので少しあたりを散策することにした。
巨人になっている今、見慣れた街であっても全く違った風景に見えるのがとても面白い。
自分が一歩を踏みしめるたびに小人達が恐れをなして逃げ出す。
それも何だか面白く、手を振って「えへへー!何もしないんで大丈夫ですよー」と何故か照れ笑いを浮かべる。
小人はそのゆっこの異様な雰囲気に呆気にとられ、ただその姿を見上げるばかりだ。

そんな中ある一軒の店が目に入った…。

「あっ…!あれは…」
その店に近づきしゃがみ込むと片目で店の中を覗きこむ。
中はお客でいっぱい。そしてゆっこの巨大な顔で自動ドアが開きコーヒーの良い香りがゆっこの鼻をくすぐる。
「わっ!わああああー!!何だあれはー!!!」
窓いっぱいに広がるゆっこのその巨大な瞳を目にした客が叫び店内はパニックとなった。
その様を見てゆっこは「イシシシシ…!」と笑った。
(私にあれだけ恥ずかしい思いをさせた大工コーヒー…!これはちょっとかたき討ちをしなくっちゃあ!)

ゆっこはまずその大パニックになっている店内へ巨大な人差し指をズブ…!と突き刺し、更なるパニックを引き起こした。
そして「ふふふ…!」と堪えられぬ笑いを漏らすと「えへん!」と咳払いをして口を開いた。
「あーええっと~…すいませーん!エスプレッソもらえませんか~?」
もう片方の手で口の横に手をあげ向こうへよく声が届くように話すゆっこの声は店内どころかその街一帯に届いた。
「あわわわわわわわ…!えっ、ええっと…サッ、サイズのほうは、どっ、どれに致しますか…?」
耳を澄ませると店員の慌てた声が聞こえる。あの時と同じ女性店員の声だ。
店員からはその巨大な人差し指しか見えてはいない。
しかし、道路側にその巨大な本体の存在を否応なく感じるこの迫力に震えながらも反射的に接客をする。
「えーっと、エスプレッソの…ティーで!早くお願いしまーす!」
「…!?ハッ、ハイ!エスプレッソのティーですね!いっ、いますぐに…!!」
その店員の対応にゆっこはとてつもない爽快感を覚えた。
(以前ならトールとかドッピオとか訳分かんない言葉ばっか返して来られたのに…!巨人って最高…!)

「あっ、あの!おっ、お待たせしました…!」
店員の声がする。
「あっ、じゃあ指の間に挟んでくださいー」
「えっ!?あっ、ああぁぁぁー!!」


ベキッ!メキャメキャ…!!


巨大なゆっこの手が店の壁をつき破り侵入してくる。
客はみな隅のテーブルの下に身を潜め震えてその様を見ている。
店内は恐ろしい巨大な女子高生に襲われる危険地帯と化していた。

しかし、ゆっこにはそんなことをしている自覚はない。
少し壁が壊れてしまったが自分の目線からみればポロっと崩れ落ちただけ。
店の中の様子もわからないし到底自分がそんなにも人々にとって危険なことをしているとは思っていない。

人差し指と親指を店内に侵入させたゆっこはその指をクイクイと動かし「はやくしてくださーい」と催促した。
「ヒィ!!?ハッ、ハイー!」
店員は目の前の巨大な指の間にエスプレッソの入った紙コップを差し出した。
すると…


「うわっぢゃあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!?」


ズガガガガガーッ!!!


想像以上のエスプレッソの熱さに思わず大声を挙げて手を引っ込めたゆっこ。
屈んだ状態から店内へと手を差し込み反射的に上へと引き上げたために喫茶店の壁や屋根は大ダメージを受け崩れ落ちる。
店内の人々も突然のことで何が起こったのかは分かっておらず崩れ落ちた瓦礫による砂埃であたりが見えない状態だ。

「うあ…ヤバッ…!」

流石のゆっこもその店の大損壊を見て事の重大さに気付いたのか小さく声を漏らす。
そして、店員はこの非常事態にすかさずにとある隠しボタンを押していた…。




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        ` -'   I       I I___/
              `‐‐‐‐‐‐‐‐′



「ふぅ…無事に送り届けられた…」
みおがそう呟いて引き返す道を歩く。
まだ胸の高鳴りは収まらずポケットにあの男のぬくもりを感じる。
みおが歩いていてもやはり小人達は「巨人だ!逃げろー!」と口々に叫び声をあげる。
それに対してみおは苦笑いで「どーもー」と返し、ため息をついた。
(ハァ…早くはかせ元に戻してくんないかな…)

そんな風に歩いているとゆっこの姿を見つけた。
でも何だか様子がおかしい。何だか蚊と格闘しているような…そんな動きをしているのだ。
「ちょっとゆっこ!何してんのそんなとこ…でえっ!?」
みおの目に信じたくない光景が映り込む。
ブンブンとゆっこの周りを飛び回る物体…それは蚊などではなく戦闘機なのだ。
蚊をはたく様な要領でその戦闘機に攻撃を加えるゆっこに対してパンッ!パンッ!と砲撃をしているのも見受けられる。
「あっ!みおちゃんいいところにっ!はやくこっちこっちー!!」
みおを見つけたゆっこが慌ててみおを手招きする。
「いいところにじゃないよっ!ゆっこ、あんた今度は一体なにしたわけっ!?」
「あっ、あの…大工コーヒー壊しちゃった…」
ゆっこは口をとがらせボソボソとそう言うともはやその面影のない建物を指さした。
「バッ、バカあああぁぁぁぁっ!!ってキャッ!?」
戦闘機はゆっこと同じく巨大なみおも敵とみなしたのかみおにも砲撃を開始し始めた。

パンッ!パンッ!

「やっ、やめて…!私たちは決して悪い者では…!」

パンッ!パンッ!パンッ!

「本当に…!ゆっこはバカだけど悪気があったわけでは…!」

パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!

「いい加減にしろおおおおぉぉぉぉ!!!」


パチイィィィィィィィンンンン!!!


巨大なみおの手のひらが戦闘機をとらえる。
少しの沈黙の後にみおが手のひらをそっと開くとそこにはペチャンコになった戦闘機が…。

「みっ、みおちゃ…ん…?」
恐るおそる声をかけるゆっこ。

「ゆっこ…」

「ぇ…?」

「もう、とことん戦うしかないでしょっ!!」

「ハッ、ハイイィィッ!!」


みおのよく分からない気合いに押され返事をするゆっこ。
みおもゆっこも両手、両足を使いキングコングさながら戦闘機を撃ち落としてゆく。

「あっ!みおちゃん!今度は戦車が来たよっ!」
「私に任せてゆっこ!」

そう返事をするとみおはズンズン!と巨大な足音をたてて迫ってくる戦車へと駆け寄るとグアァ…!と脚を振りあげた。

「あんた達しつこすぎるんですけ…どっ!」

ズシイィィィィン!!!


巨大なみおのローファーによって迫ってきた戦車もペチャンコに踏みつぶされてしまった。
圧倒的なゆっことみおの戦闘力。しかし、それにも臆することなく戦闘機や戦車は襲いかかる。
それは、それらが無人であることが大きく関係していた。

「ハァハァ…!にしてもキリがない…!これが大工財閥の力…!」
「みおちゃん…!どうしよう…もう私も疲れたよ…」
「何言ってんの!元はと言えばあんたが原因なんでしょっ!?」
「うっ…!確かにそうだけど…」

相変わらずな二人の会話が繰り広げられる。
その間も戦闘機や戦車は攻撃を仕掛けてくるがそれらはみおやゆっこはゴムで弾かれる程度の痛みしか与えていない。
しかし、倒しても倒しても現れる戦闘機や戦車を迎え撃っていた二人はそれによる疲労が積み重なっていた。


そんな中、着々と二人の元へと奇怪な足音が近づいていた…。



ガチャン!ガチャン!!

「ふっふっふ…!そろそろ疲れてきたようだなっ!!」

「だっ、誰!?」
二人が同時に振り向いたその先には二人の背丈ほどもある巨大ロボットが立っていた。

「ふふっ!俺の名前は大工 健三郎…!大工財閥の息子だっ!
お前たち…俺の親父がリニューアルした大工コーヒー時定店でなんて面白いことにしてくれたんだっ!」
「これは手強そうだよみおちゃんっ!」
「うん…まさか息子が出てくるなんて…」
「もしもの時の為に買っておいた戦闘ロボットこと大工ロボが役に立つ日が来るとは…!いくぞ巨人どもめー!」


ガチャンガチャンガチャン…!

「……」
「……」


ガチャンガチャンガチャン…!

「……」
「……」


ガチャンガチャンガチャン…!

「……」
「……」

(おっ、おせー…!)
(おっ、おせー…!)


あまりに遅いその大工ロボの動きに呆気にとられた二人であったがみおが駆け出し、いとも容易く羽交い締めにした。

「うおっ!?なっ、やめろっ!!?」

「ゆっこ!今だよっ!とどめを刺してっ!」

「わかったみおちゃん!うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

勢いよく突進するゆっこ。
しかし、ロボットの前で急ブレーキすると奇妙な構えをした。


「くらええええぇぇぇぇぇっ!く・わ・が・たー」


ゆっこはそう唱えるとまるでくわがたのように両腕をはさみに見立て大工ロボを数回はさみこんだ。

「ぐっ、ぐわあああああ!?」

健三郎の叫び声が響くと大工ロボの輝いていた目が消灯し、動きを止めた。

「ゆっこ!中の人をとらえてっ!」
「うんっ!わかった!!」

ゆっこは頷くと大工ロボの頭部の明らかに操縦席が付いているだろうと思われる個所をパカッと開き、
その中からぐったりと操縦席に突っ伏した健三郎を摘みあげた。

「ちょっと!聞こえますかっ!攻撃止めて下さいっ!」
ゆっこは健三郎を目の前まで持ち上げ怒鳴り声をあげる。
みおも腕を組みそれを見守っている。
「うっ…ごっ、ごめん!参ったよっ!」


   テレレテッテッテー♪


「え…?」

突然鳴り響いたゲームの効果音にあたりを見回す二人。


<おめでとうございますっ!ゲームクリアーですっ!あっ、はかせです。なのをつくりました。>

再び巨大化した時と同じようにはかせの声が響く。
「はかせっ!ゲームクリアってどういうこと!?」

<ゲームクリアはゲームクリアです。二人とも楽しかったでしょ?>
<ふふふ…長野原さんとか何だか幸せそうでした~!>

「…!?なのちゃん!?なのちゃんもいるのっ!?ねぇ、どこ!?どこにいるの!?
ゲームクリアならはやく元に戻してよっ!」
みおが大声でそう叫ぶと周りを見渡す。
すると…




ズズズズズズズズズズズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンンン……!!!!




「なっ、なに…これ…?」

二人は何の前触れもなく目の前に突然現れた肌色の壁に呆気を取られた。

<ああっ!!触っちゃダメですよ水上さん…!二人が潰れちゃったら大変ですっ!>
<やわらかい…………>


「麻衣ちゃんの声…!?ていうか潰れちゃったらって…」


<じゃあ二人とも。たねあかしをするので空を見上げて下さい!>

響くはかせの声に従って二人は空を見上げた。

「え…どゆ…こと…?」

信じられない光景に二人とも唖然としていた。
とてつもなく巨大なはかせとなのと麻衣の顔がこちらを見下ろしていたのだ。

<実は二人とも小さくなってもっと小さなレプリカの時定市に入ってただけなんですよ!>

なのが笑顔で二人に話しかけると指をこちらに向けて<乗ってください>と言った。
二人はまだ夢を見ているかのようなふわふわとした気分でなののゆびの上に乗った。

<ふふふ…!お二人の今の大きさは1cmくらい。はかせの開発した縮小光線銃で小さくなってもらったんです!
お二人とも小さくってかわいいですっ!>

<ごはん粒に写経…できるかも………>

笑顔のなのの顔が二人の視界いっぱいになる。
みおはビクビクと震えゆっこの体にしがみついているがゆっこは既に目を輝かせなのの方を見ている。

「超すごいよー!流石はかせー!すっごい楽しかったしっ!」
ゆっこがはかせのほうを向いて手を振り言う。

<えっへん!!>

「でっ、でも…あの街にはたくさんの人が…」

<あれははかせが開発したミクロクローンロボですっ!
写真があればその人そっくりのミクロサイズのクローンが出来て性格や行動パターン等も思うように設定できるんですよ?>

なのが答える。

「ぅぅぅぅぅ……すごいっ!!!はかせすごいっ!!東雲研究所すごいっ!!っていうかみんなでっかくてカッコいいっ!!!」

ゆっこが大声で言う。
なのもはかせもニッコリと笑ってなのの指の上にちょこんと乗った二人を覗きこむ。

「ところで…麻衣ちゃんは何でここにいたの?」
「あっ、確かにっ!麻衣ちゃんっ!どうしてー?」

二人がそう言って無表情でこちらを見下ろしている麻衣ちゃんの方を見上げた。
するとゆっくりと麻衣ちゃんがゆっくりと口を開いた。



<暇だったから……………>





(あぁ~…)

その返答に一同全員が心の底から納得した。

ちょっとビックリすることもあるけど…やっぱり、これって日常だよねっ!







 ~おわり…つづく?~




【あとがきっぽいの】
ハイ!日常をネタにした実験作です!
日常が好きすぎて、ちゃんみおが好きすぎて、ゆっこが好きすぎて、リクエストもあって…書いてしまいましたwww
全然エロくないけど…やっぱり日常キャラでエロエロにするのは難しいですw
どうなんでしょうね…?アリなんでしょうかね…?
恐いですね…?難しいですね…?

とりあえず、ちゃんみおよりもゆっこの方が動かしやすいなーって思いましたw
巨大娘ネタだったからかな?シュリものならちゃんみおも動かしやすいかも…。
とりあえず日常ファンの方にも日常ファンじゃない方にも謝っておきますっ!
すいませんでしたぁー!!