Tellus

※ちょっと破壊します

 

 比較的大きな商業都市、国境にあって交易の要所、物が行き交い人が溢れる町、ディヴァはそうして栄えた街だ。街道沿いには宿や商店が立ち並び、どこもかしこも賑わいでいた。交易の要所だけにさまざまな物に溢れ、そこは豊かさの象徴のような街だった。
 影が街の上を横切り、黒い羽根の天使が街の中心に静かに舞い降りてくる、そこには街のシンボルともなっている議事堂があるのだが、天使は構わずにゆっくり降りてくる、ヒールの高いサンダルが議事堂の天井を突き破り、短めのスカートから伸びる白い脚がさらにその天井にあいた穴を広げながら降りてくる、身体が全て入る頃には天井の殆どが崩れ落ちていた。その高さ50mはある天井の下はホールになっていて、そこに天使は立っていた。
「街の中心にこんなもの作るなんていい度胸ね」
 足元に小人達が逃げ惑っている、彼女から見れば7センチほどの矮小な存在。
「逃げると追いかけたくなるじゃない、それとも追われたいのかしら」
 小人の逃げる先、正面玄関の入り口の方に身体を向ける、羽根がホールの壁を容赦なく破壊し、瓦礫が床にばらばらと落ちる、かろうじて支えられていた天井も一気に落下した。
「あら、足で塞いであげようと思ったのに残念ね」
 クスッと笑い逃げ場を失った小人たちを見下ろす。
「でも…あいにくだけれど、ここってリストに載ってないのよね。」
 議事堂の壁を手で押して壊し、足元に残った壁を蹴り壊すと一歩外に出て埃を払う。そして指先を唇に当てながら街を見渡す。“リスト”に載っているものを探しているのだが、どれも同じに見えてしまう。
「あの辺かなぁ…」
 少し先の街の一角、街道沿いの少し古そうな建物のある辺りを見た。
「私の進路上からにげてくださいね~じゃあ歩きますよ~」
 わざとらしく力を入れて街道に左足を踏み下ろす。ヒールが街道に穴を開け、足が地面に沈み込む。
「ずいぶんと軟弱なのね」
 周囲の建物にも壁にひびが入り反対側の建物なんかは部分的に崩れかけていた。
「危ないので潰しておきますね」
 くるっと向きを変えてその建物を見下ろすと、右足を高く上げてゆっくりと建物の上に下ろす。三階建てくらいだろうか、少し大きな建物で、。
「中にいる人は出てくださいね」
 念のため警告して少し待つと数名の小人が慌てて出てきた。そして誰もいなくなったようなのでゆっくりと体重をかけていく、屋根が軋み圧迫されて歪んでついには中の支柱ごと折れて踏み抜いた。その勢いで建物の床を一階まで踏み抜き、辛うじて残った外壁も丁寧に足で崩して更地のように均した。
「あっちも壊しておきますね」
 街道を塞ぐように足を踏み下ろし、街道の反対側にある建物に向かって立つとそれを見下ろした。そして無造作に踏み潰す。
「あ…」
 忠告する前にやってしまったことに自分が驚く、それと同時に笑みがこぼれた。
「そろそろ本番いきますね」
 誰に言うでもなく呟くと街道に戻り歩き出す、目的地までそう離れているわけではない、ただ今しがた過ぎった破壊衝動を抑えながら歩いた。
「あの子が来たら楽しめるかな…」
 と、十歩ほど歩いたのだろうか目的地に着いた。振り向くと街道にははっきりと足跡が残っている、馬車も踏んでしまっていたようで無残に潰されていた。馬はとっくに逃げてしまったようだ。
 目的の建物を見る、それは自分の胸元まである割と大きな建物だ。そんな大きなものは城や要塞くらいしか見たことはなかった。
「小人のクセにこんなもの作って」
 つま先が建物のエントランスに突き刺さり、膝まで建物の外壁を破壊していた。軽く蹴ったつもりだったが建物の殆どが崩れ落ちた。
「技術もないのにこんなもの作るから…」
 屋根に手を置きゆっくりと力を入れて押し潰していく、建物が軋み、歪んでいき、そして崩壊した。
「アリムさぁぁぁん」
「何?…上か!」
 上を見るとものすごい勢いで降りてくる天使の姿があった。
「あ、アユム?!」
 アリムの元に降りて来た天使はその勢いのままアリムに抱きついた。そのままアリムは彼女を抱きとめ押し倒されるように背中から倒れこんだ。
「きゃっ…もう、余計な仕事ふやさないでよ」
「す、すみません」
 周りを見るといくつかの商店や家がアリムの身体と黒い羽根によって押しつぶされていた。
「貴女のせいでいっぱい壊れたじゃない」
「後で直しておきます」
 彼女を抱きしめながら、アリムは彼女の頭を優しく撫でた。
「そうね、怒られちゃうもんね。ちゃんと直すのよ?」
「でも、まだ慣れてなくて…」
「大丈夫、たくさん壊したら、たくさん練習できるから」
 悪戯な笑みを浮かべるアリムは彼女に突然に口付けをした。
『?!』
 アリムの舌が入ってくると、それに応えるように舌を絡める。
「んっ…はぁ」
 唇が離れた時、アユムは髪をかき上げ、アリムを恍惚とした表情で見下ろしていた。
 再びアユムを抱きしめるとアリムは自分が上になるようにくるりと横に転がった。今度はアユムの身体が建物を幾つか押し潰して仰向けになった。
「悪い子ね、私は上がいいの」
「うう…」
「貴女が欲しいものあげるから」
 アリムは笑みを浮かべアユムを見下ろし、再び唇を重ね、くちゅくちゅと舌を絡める。
 そして唇を離したアリムはアユムの頬をそっと撫で、優しい目で見つめた。
「さぁ、あとは仕上げよ」
「あの、まだ終わっていないのでは…」
「そう?残りは全部貴女が壊してくれたのよ?」
 そう言ってアユムを跨いだままゆっくり立ち上がると手を差し出す、訳も分からずアユムはその手をとる。アリムが彼女の手をしっかりと握って引っ張り、強引に立たせた。そのせいで周囲に少なからず被害が出えいるようだが彼女が気づいていないようなので問題ないということにしておこう。
 アユムは足元を見てアリムの言ったこと理解した。その対象物は自分のいた場所、そこにあったものだ、その周囲も跡形もなく瓦礫になっているが…
「分かったら次は貴女の番よ」
「はい、頑張ります」
「肩の力を抜いて、精神を落ち着かせなさい」
「はい」
 アリムが羽根を広げて飛び立つ、それに続いてアユムも飛び立つ、地上から百メートルほどの高さまで来てアリムは彼女から距離をとった。
 アユムは目を閉じて深呼吸する、アユムの足下には白い魔法円が現れた。
「ん~物足りないわね…」
「え?」
 魔法円が消え、アユムは何が足りないのか考えこんだ。
「これをあげるわ」
 アユムの前にはアリムが放ったそれを咄嗟に受け取った。
「杖?」
「聖杖、ん~少しはマシになったかなぁ、あとはローブもあれば完璧だけどそれはいいか」
「銀がよかった」
「文句言わないの、その嘘っぽさがいいんじゃない」
 アユムはため息をついてアリムを見る、そして目を閉じると一呼吸おいて黄金の聖杖を左手に持ち目を閉じた。
 足元に再び魔法円が現れ文字が刻まれていく、周囲が閃光に包まれたかと思うと街は元の姿に戻り、アリムの破壊目標だけは跡形もなく消えていた。
「やるじゃない」
 目を開けると目の前にアリムがいた。
「もっと派手に壊してもよかったかしら」
 アリムがクスッと笑う。
「それはいけないと思います…」
「冗談よ」
 頭をぽんぽんと叩くと今度は撫で回す。
「後は帰って続きしよ?」
「え?」
「壊したりないもん」
 アリムはアユムの手を握って羽ばたくと、一気に天界へと飛び去った。


次回はもっと…