夢葉のある初夏の奇跡
プレリュード:夢葉ちゃん、ケスキテタリーヴェ



誰でも小説とかを読んで自分が物語の中に存在してみたらどうなろうかと想像したことがあるだろう。でも、物語はいいことばかりとは限らずトラウマなこともある。ドラマは突然幕が開くこともある。自分がどんな役をやることは自分で決めるわけではない。それでも物語の中に携わりたいのか?

これは私の物語・・・というか、主人公は全然私じゃないけど。

私は、市波湖由梨(いちなみこゆり)という普通の中学2年生。昨日突然風邪ひいて一日中学校を休みになった私だけど、今日は学校に戻ってきた。

「おはよう」
教室に入っていつもみたいにクラスの友達に挨拶をした。

「おはよう。湖由梨。昨日はどうしたの?」
「盟子、おはよう。昨日はちょっと風邪だけ。何かあったの?」
クラスメートの藤井盟子(ふじいめいこ)は何か用があるみたいな様子で私に聞いた。

「昨日、朝から夢葉は湖由梨のことを探してたよ」
「夢葉ちゃんは私を?」
盟子が言ったのはもう一人のクラスメート、粟野夢葉(あわのゆめは)という可愛い名前の女の子。クラスも一緒で、それに私と一緒に生徒会をやっているからクラスでは一番仲がいい友達。背が小さくてこどもっぽくて可愛い。彼女はとても本が好きでいつも読んで、時々いろんな物語を私に語っている。

「慌てるように見えたし。たぶん何か急用が」
「そうか?」
夢葉ちゃんの席を見たら彼女はまだ来ていないよう。

「夢葉ちゃんはまだ来ない?」
「そうみたい。まだ見てない」
「そうか。おかしいな」
普通なら朝から来て鞄を席に置いて生徒会室へ行って静かに本を読むはず。でも今日は鞄すらない。

「それに昨日の夢葉は何か変だったよね」
「変?」
「遅刻ぎりぎりで登校したんだし、勉強の時も集中してなかったみたい。それに時々机の下を覗いたりしてたし」
「へ、確かにいつも勉強に熱心する夢葉ちゃんにはそれは変ね」
「だよね」
夢葉ちゃんは成績もよくて優しくて可愛いけど、友達を作るのはあまりうまくない。

「教えてくれてありがとう。夢葉ちゃんが来たら聞いてみるね」
私は自分の席に座った。盟子から聞いた話では確かにおかしい。おとといはまだ普通で異常なことは何もなかったのに。まさか昨日何かあったのかな?私のいなかった間に。気になるね。

『キーンコーンカーンコーン』
チャイムが鳴って授業が始まった。結局夢葉ちゃんは来なかった。





昼休み私は生徒会室に行ってみる。夢葉ちゃんはおととい分かれた時は確かに生徒会室に行くって言ったし。まさかあの時から何かあったんではないだろうね?そう考えながらいつの間にか私は生徒会室に着いた。

「あれ?誰もいない?」
中には電気がついてるから人がいると思ったが、部屋に入ったら人影は何一つもない。おかしいな。それに普通人のいない時は必ず鍵をかけるのに、今はかけていない。何か急用があって出て行っちゃったのかな?私は何か異常がないかと調べようと部屋の中でぐるっと見回してみた。

「これは・・・」
部屋の中心にある机の上には読みかかったように開けっぱなしの本を目撃した。でも、気になるのはその本じゃなく、その上に置いてあるもの。

「人形?」
それは人みたいな形をしているけと、本くらいの大きさしかない。そんな小さな人間はいるわけがないか。つまりこれは人形?その人形は緑色のドレスの格好をして本の上でうつ伏せに寝ているように見える。まるで本当の人間みたい。

「可愛い。よくできた人形ね」
すごく繊細に見えるから、優しく扱わないとくじけそうな気がするから、柔らかに右手で持ちあげてきた。本当に柔らかいな。しかもなぜか生きているみたいに暖かくていい匂いがした。

ドレスを着ているけど体形確かに若い。さっきはうつ伏せに寝ていたから顔はよく見えなかったけど、今はよく見えるようになった。整った顔で、背中まで長く伸びるツインテールで、一部の髪は耳の前で胸まで伸びる。眠っているように目が閉じているけど、こう見たら誰かに似ているような・・・

「夢葉ちゃん!?」
そう、この人形は夢葉ちゃんとそっくり。私はもっとよく見えるように顔の近くに持ち上げたら・・・

『あ!』
「きゃ!」
いきなり可愛らしい女の子の声が人形から出してきて、同時に人形の目は開いて身体も動き始めた。部屋には他の人がいないから確かに間違いなく声は人形から出やがった。

「湖由梨ちゃん!?」
「に、人形が動いた!しかも喋った!?」
いきなり人形は私の名前を呼んだ!しかもその声は確かに夢葉ちゃんの声に似ている。

「あの、私なの。お願いだから落ち着いて聞いて」
「わあ!本当に喋ってる!」
また喋った。今度ははっきり聞こえた。これはいったい?夢葉ちゃんをモデルにして作った人形?それとも・・・

「私よ。夢葉なの。ちょっと事情があって小さくなってるの!」
「な、何言ってるの?いきなり人は小さくなるわけないじゃない!」
あれ?なんで私は人形と話せるほど頭がおかしくなってしまった?でも、まるで本当に夢葉と話しているみたいだから、つい普通のように返事した。今私は夢でも見ているのかな?

「本当なの!私は夢葉なの!」
また、こういう喋り方も本当の夢葉ちゃんらしい。

「本当に夢葉ちゃん?」
「私の言うことは信じてくれないの!?」
どう考えても本当の夢葉ちゃんしか見えない。でもどういうこと?そんなことってまだ信じがたい。もっと確認しなければ・・・

「なら、ちょっと触ってもいい?」
「いいよ・・・ってちょっと!」
怖がりながら私はこの人形・・・いや、小さな夢葉ちゃんの身体を指で手柔らかに少しずつ触ってみる。

「本当に柔らかくて暖かい」
丸くて可愛らしい顔もつややかで長いツインテールの髪も細くて柔らかい腕も本当にどこ見ても本当の人間しか見えない。これは人形だったら傑作だな。

「あの、私はくすぐったいのだけど・・・」
そういえば何って格好しているだろう?緑のドレスに桃色のエプロンがついて膝の下まで長いスカート。これってメイドさんみたい。コスプレ?すごく可愛い。そういえば素足?好奇心に負けて私は彼女の足首を触ってからゆっくりと細い足に沿って指を上げてきて、ドレスのスカートをめくってまで。

「きゃ!そこは嫌!」
白くて細い足はどんどんあらわになってきた。

「いい加減に。も、もういいだろう!」
小さな彼女の手は私の指を引っ張って抵抗しようとした。小さな力であまり感じていないけど、彼女は嫌な顔をしている。

「あ、ごめん」
つい、自分がやりすぎたとはやっと気づいて、私は指を引き戻した。

「もう信じてくれる?」
まるで今度はまだ信じないのなら本当に怒るという顔・・・じゃなくて、今も随分怒ってるかも。

「どうしてそんなに小さくなったの?」
まだ完全に信じるわけでいないけど、まずは理由を聞いてからにしよう。

「それは私だってよくはわからないけど、話したら長い話になるの」
夢葉ちゃんは難しそうな顔をした。

「そうか」
その時私は机の上にはまだもう一つの人形がある。あの人形は夢葉ちゃんよりちょっと小さいくらい。

「あ、そういえばあの人形もまさか夢葉ちゃんと同じ?」
夢葉ちゃんと同様に西洋風の服を着ているけど、金髪でパッチリとした青い目、まさか外国人?違う。よく見るとあまり本当の人間とは見えない。それにさっきから全然動く気配がないし、目もずっと開いたまま。たぶんただの人形かも。

「あの人形って?」
「あれよ」
そう言って私は人形に手を伸ばしてみた。

「待って!そのフランス人形触っちゃだめ!」
いきなり夢葉ちゃんは私を止めようと声を出した。でも遅かった。私の手は人形に触ってしまった。そしてその瞬間人形から白い光が放り出されて視界が消えていく。同時に手の中にいる夢葉ちゃんはなんかどんどん重く感じてきてつい手から放してしまった。

視界が戻ったらまるで周りの風景は変貌した。さっきまで手の中にいた夢葉ちゃんももういない。下を見て探しても見つからない。

「夢葉ちゃん!どこ!?」
そんことより、ここはどこ?何が起こった?

周りをよく見たら太くて高い柱が二本聳えている。その二本の柱は同じ緑色の幕みたいなものに覆われている。その幕の端は私の頭よりちょっと高いところに浮いている。もっと上まで見たら、柱は何か白い物に収束している。そして私はその真下に立っている。だからちょっと暗くてはっきりとは見えない。でも一番はっきり見えるのは柱の基底、それは明るい肌色でそれにその形は・・・うまく説明できないが、まるで・・・人の足?ただし大きさは・・・

「わ!」
いきなり緑色の幕は高く浮いて光は眩しくなってどんどん幕の外が見えてきた。その真上に人の顔が見えた。

「夢葉ちゃん・・・?」
その顔は誰でもなく夢葉ちゃんだった。しかもすごく高いところにあるようだからその顔はずいぶん大きいはず。事情が少しずつ飲み込んできた。大きな柱は夢葉ちゃんの脚で、緑色の幕は夢葉ちゃんのドレスのスカートだった。そして白く見えるのは・・・いや、それは言わなくていいかも。どれでもとんでもなくでかく見える。さっきまで小さくて可愛かった夢葉ちゃんは今私より何倍も大きくなった。これはどういうこと?

「何で今度はあんなに大きくなったの?まさか・・・」
今巨大な夢葉は片手で大きな幕・・・じゃなくて、自分のスカートをめくって下にいる私を覗き込んでいる。

「いや!」
私の身長くらい長い足は一歩後ろに動いた。ただ一歩動いただけで床が震えて響いて、私はすごく怖くなってきた。こんなでかい物に踏まれたらきっと即死。これは夢葉ちゃんだとはわかっているけど、そんな巨大な姿で登場したらどうでも怖い。私は膝を崩してしまった。

「あの、湖由梨。落ち着いて聞いて」
優しい声だけど大きく響いてきた。その同時にでかい手はどんどんこっちに飛んで近づいてきた。

「いや!来ないで!」
「あ、ごめん」
その手はすぐ止まった。そして巨大な顔はつらく見える。まるで私に怖がられることに傷つくよう。それでも私の身体はまだ震えていて止まらない。

「お願いだから、怖くないで。私全然何もしないから」
私のそういうすごく怖がっている様子を見たら、彼女は慰めようとした。

「でも夢葉ちゃん、何であんなにでかいの!?」
あんなでかいのは同じ人間だとは信じがたい。

「いいえ、湖由梨こそ小さくなって」
そう聞いて私はまた周りを見回した。ここは間違いなく生徒会室の中で、私はどこにも行っていなかった。ただ身体が縮んだだけ。それに対して夢葉ちゃんは周りの風景と比べたら確かに普通に見える。どうやら夢葉ちゃんは普通の大きさに戻って、その代わりに私は人形サイズになったよう。

確かに今人間離れなのは私の方よね。いや、そんなの簡単に認めたくない。だって、私から見れば私はまだ普通のままで、周りの世界こそ大きくなった。

「何でこんなことに・・・」
まさか夢葉ちゃんは私に何をした?

「事情は後で詳しく話すよ。今はとにかく私の手に乗って」
そう言って彼女はもう一度手を伸ばしてきた。

「私に何をするの?」
「このままでは話しにくいからただ机の上に連れていくだけなの」
「本当か?」
信じるべきかどうかまだ迷っている。だって本当に夢葉ちゃんは私を縮めたということになったらどうなるかとは考えたくないし。でも、そんなわけないよね、絶対に。もしかしてさっきの人形の所為?もう今物事を考えれば考えるほど頭はおかしくなってきた。

「私を信じて!」
確かに怪獣みたいにでかいから最初は怖かったけど、よく見直したらその巨大な顔は全然怖くないかも。そうよね。事情はまだよくわからない以上、今信じるしかない。

「わかった」
そう思って私は恐る恐ると答えを出した。その時つい机に見上げてみた。

「わ!そ、そんなに高い!?嫌よ」
「怖くないよ。これはただ普通の机なの。1メートルくらいしか」
「そう言われても・・・」
そんなこと言ったって今の私にとってはまるで何階もの建物みたいに高いところにしか見えない。でも考えてみれば確かにこのまま床に立っているのはもっとまずいかもしれない。人の巨大な足に踏まれやすいし、何か物が落ちたら危ない。想像したら怖くなってきた。

「わかった。変なわがままでごめん」
「いや、湖由梨が悪いわけじゃないし」
そして私は夢葉ちゃんの巨大な手のひらの上に乗った。その手のひらは私一人が簡単に座れるくらいの広さ。座った尻の感触は柔らかくて暖かい。やはりどんなに大きくても可憐な女の子の手だからね。

その手はどんどん浮いていってやっと机の高さまで着いて私はその手から机の上に降りた。周りを見たら本当に高いところにいるみたい。ただ机の上なのに、変だな。

「この部屋ってすごく広いね。怖いくらい」
部屋が広いほどそれは私がどれくらい小さいと意味する。だから怖く感じる。私はつい夢葉ちゃんの手にしがみついた。

「夢葉ちゃんの手、暖かい」
この手の暖かさを感じたら確かに少しずつ怖さが消えていく。不思議だな。最初はあんなに怖かったのに。

「何をしてるの?湖由梨、恥ずかしいよ」
夢葉ちゃんはあんなでかい顔とはまったく似合わなく恥ずかしがっている乙女の顔をした。大きいけど可愛い。そんな顔を見たらもっと安堵した。

「さっきはごめんね」
「は?」
「いきなり持ち上げたり、勝手に身体を触ったりした。小さくなったことってあんなに大変だとは思わなかった」
今の私はあんな風にされたらどうなろうかと思ったら怖くなってきた。でも夢葉ちゃんなら優しくするだろうと思うけど。

「ううん、私の方こそごめんね。結局巻き込んじゃって」
やはり夢葉ちゃんは優しい。小さくても大きくても夢葉ちゃんは夢葉ちゃんで何も変わらないね。さっき怖がっていた自分が悪かったと思ってきた。

「そういえば、何でこんなことになっちゃったの?何でさっきの夢葉ちゃんはあんなに小さかったの?何でいきなりでかくなったの?」

「あ、そうなのね。事情は話さないとね。実はおととい・・・」
夢葉ちゃんの話はおとといに溯る。

その時私は思った。自分がとんでもないことに巻き込んでしまったって。でも・・・



-つづく-

初投稿:2014/07/31