夢葉のある初夏の奇跡
第2話:巨大となったアミダンファンス



巨大な秘実子は目の前の光景を信じないように大きな瞳をぱちぱちと瞬いて私を眺めている。気づかれちゃった。後少し逃げられるはずなのに、今は最悪な状況になった。

「これは!?」
と、驚いたような声が響いて、秘実子は私の方へ近づいてき始めた。

「嫌!」
私は不意に、転んだ身体を立たして、即時生徒会室から必死に走って逃げ出した。けど、そとに出たとしても、まだ後ろからものすごい足音が聞こえて、私は一生懸命走っているにもかかわらず、その足音はどんどん大きくなってきて・・・

「きゃ!」
気がついたら突然巨大な手は目の前に浮いてきて、その瞬間私の足はもう床についていない。身体はどんどん高く浮いてきて、まるでエレベーターに乗っている時・・・というより、遊園地の乗り物に乗っている時みたい。そう、今私は巨大な手によって掴まられている。その手が止まった時に、私の目の前に巨大な秘実子の顔がはっきり見える。彼女は幽霊とか見えたような顔をしている。そんな反応は無理はないか。いきなりこんなに小さな人間を見たら普通に驚くもの。いや、今一番驚いたのは私の方じゃないのか。

「これは夢葉?いや、人形か?」
小さくても、私の顔だと、秘実子はちゃんとわかっているのね。でも人形じゃなくて、私本人なのよ。小さくたって、正真正銘の粟野夢葉なのです!でも人形だと勘違いされるのも無理はない。なんなら、今人形のふりをした方がいいのかな?そう考えて私は落ち着こうとして身体を動かさないようにした。動きたくても、今私は蛇に睨まれた蛙みたいに、身体が硬くなっちゃったし。

ややあって、秘実子はもう一つの手の人差し指で私の身体を触り始めた。この、私の脚ほどの太さがある指は、私の身体のそれぞれの部分を少しずつ・・・

な、な、な、ななななな何をするのよ!!

私すごくすぐったくて、恥ずかしくて、でも、なすすべもなく我慢し続けた。

お願いだから私の身体を触るのはやめて!と、ただ頭の中で呟いて、声に出していない。ばれないように・・・とういか、もうこんなに触られたから、とっくにばれているかも。

覚えてなさい。元に戻せたら返してやるから!身体を触られ続きながら、頭の中に悪態をついちゃった。

そして次にその巨大な指は私のスカートをめくろうとした。けど・・・

「もう、やめて!!」
不意に、私は叫び出しちゃって、手も秘実子の指を必死に抵抗し始めた。

「この声やっぱり、夢葉なの?」
秘実子は私の様子を見てまた驚いた。ここまではやはり隠し続けちゃいれらなさそう。人形のふりをし続けたら、また何をされるかわからないし。でも、何を言い出したらいいかまだわからない。

「本当に夢葉?ね、答えてよ。夢葉!夢葉だよね!」
巨大な口から出した叫び声はまるで大広間の大きなスピーカーみたいに大きすぎて、私は耐えられなくて、つい両手で耳を塞いだ。

「あ、ごめん」
私の様子を見て秘実子は小さい声で一応謝った。でも私、もう限界、これ以上耐えられまい。

「そうなのよ!私なの!もう、変なことも、大きい声もやめて!」
結局、私は言い出した。

「本当に夢葉だったんだ。けど、どうしてこんなに小さくなったの?」
また不思議そうな顔で秘実子が聞いた。

「それは、私も知りたいくらいなの!」
まだショックは治まっていないまま、私はどきどきを抑えながら、まだ少し震えた声で、怖さを隠すように大声で答え出した。

今目の前にいるのは私の何倍も巨大なライバルの秘実子。彼女が望むなら、いつでも私を一瞬で潰し殺すことができそうな、こういう圧倒的な感じが溢れてきた。だから、実は今私怖くてたまらない。けど、その怖さを必死に押し殺している。どうでもこの人にだけは弱音を見せたくない。とにかく今の状況では何もできない。できれば秘実子にはかかわりたくないが、仕方がない。まずは正直に本当のこと言うしかなさそう。

「実は、さっき生徒会室で変な人形触れたらすぐ光が出して、気づいたらもう小さくなった」
「人形って、あ、さっきの人形のこと?」
そう聞いて秘実子は私を手にしたまま生徒会室に戻った。部屋に戻った時、私は小さくなってから初めて上の世界が見えた。今の視線は元の視線の高さとはあまり変わらない。元に戻ったみたいな感じもした。つい机の上に置かれている人形に手を伸びて掴もうとしたけど、やはりどうしても手が届かない。私はまだ小さいままで、秘実子の手の中にいるのだから。同じ視線だとしても、違うのは足元は地面についていない。今私にとってこれは数階の建物から見える高さという方が相当かも。下に見下ろしたら怖くなってきた。

「あの人形なの」
見る限りこの人形は今倒れている他には何も変わっていない・・・待って、目つきがおかしい。さっきは目つき悪いように見えたが、今はあんなに悪くないように見える気がする。気のせいかな。

「でも、さっきは私も触ったし、何も起きていないじゃない」
「え?そういえばそうなのね」
触るどころか、持ち上げたし。でも何も起こっていない。不公平なの!一緒に小さくなれよ!いや、それでいいかも。もし秘実子も小さくなったら、今度はもう誰も助けられない。

「でも、確かにこの人形の所為に間違いないと思うの。私、もう一度触ってみる。元に戻れるかもしれないの」
秘実子の手から机の上に着地した私は人形の前まで歩いてきた。今の人形は私と同じくらいサイズになっちゃった。いや、まだ私よりちょっとだけ小さいかも。もう一度触ったら元に戻るのか、それとももっと小さくなるのか?私は頭で疑問している。でも何もしなかったら、何もならない。だから、私は目を閉じて恐る恐るまた人形に触ってみた。

「ふー」
目を開けると何も変わらないと把握した私は溜め息をした。望むとおりに元に戻らなかったことは悲しいけど、もっと小さくなるよりまし。

「見たところ、異常なところはないのね。それに、光が出せるようなものはないし」
「そうね。この部屋の他のところも何も変なものはなさそう」
「じゃ、どうしたら元に戻れるのかな?」
「私に聞かれてもな」
「どうしよう。このまま戻れなかったら、私・・・」
不安のあまりに、泣きそうになるけど、我慢して抑えている。どうでも秘実子の前では泣きたくない。

「仕方ないな。かわいそうだから私は手伝ってあげる。何か方法があるはずよ」
秘実子は意外と優しい声で私を慰めた。

「本当なの?いや、秘実子は私を手伝うなんて、何か企んでいるのね」
実は助けてもらえるのは嬉しいけど、相手は秘実子にならなんか気に入らない。

「人を助けるには理由なんてないよ。特にちっちくてかわいそうな女の子」
そう言って秘実子は指で私の頭を優しく撫でた。

「気安く撫でるな!」
私はその、頭の大きさくらい太い指を飛ばそうとした。

「だって、小さな夢葉ちゅんは意外と可愛いんだもん」
「こういう時だけは『ちゃん』つけで呼ぶのは気持ち悪いの」
私が恥ずかしげな顔で不機嫌な声で言い返した。

「こんなにちっちゃくて子供みたいな感じだから、つい」
「小さくても子供扱いするのではない!まあ、可愛いっていうのは当たり前なのだけど。でも、小さくなくたって私はもともと可愛いの」
そんな自惚れそうな言い方は秘実子に対してしか言い出せないな。

「そうね。小さくならなくても、もともとは結構小さかったし」
「小さいって言うな!私よりちょっとだけ高いくせに」
秘実子の身長はたぶん150センチだから、私と6センチくらいの差がある。まだ高いとは言えないが、私ほど小柄というのではない。

「今は『ちょっと』じゃないでしょ。ほら、私の手のひらくらいしか高くないじゃん」
ようやく、大きな指は私の頭からはずした。秘実子はサイズを比べるために手のひらを張って私の前に置いた。本当に私はこんなに小さいのよね。

「そういえば、今私は何センチくらいなのかな?」
「そうね。測ってみない?」
目算ではちょっとくらいわかっているけど、詳しくは測らないとわからない。秘実子は鞄から定規を取り出して、好奇心満々で私の身長を測ってくれた。

「・・・18センチ」
「18センチ!?こんな小さいの?」
「元の身長は?」
「144センチ」
「やっぱりちっちゃい」
「うるさい!」
ということは今は元の8分の1になった。まあ、これくらいかと思っていたけど、確実にわかるとぎょっとするものね。今私から見ると秘実子は12メートルくらい大きい巨人に見える。

「次はスリーサイズを」
「それはいい!」
たぶん、体型はそのまま全然変わらないはずなので、余計なことしなくたって、簡単な数学で全部を8で割ったらすぐわかるじゃないか。といっても、そもそも知る必要があるものか。

「サイズを知ったところで何もできないのね」
「たがら、私は手伝ってあげるから。心配なく」
「嫌だ、秘実子に頼るくらいなら、私一人で方法を探す方がましなの」
と、強がった言葉で言いながら、私は机の端まで歩いて、そして下に見下ろすと・・・

高い!

机の上から床までの高さは私にとって数階の建物みたいな高さ、落ちたらすぐ死んじゃうかも。そう考えて、私はこの『崖』から歩き返した。

「こんなにちっちゃくて自分で机から降りることもできないくせに、何強がってんのよ」
秘実子の言葉は図星だった。確かにこんな小さな身体では何も自分でできない。さっきも秘実子が来なかったらこの部屋から出られない。やはり普通サイズの人に手伝ってもらわないといけない。

「じゃ、他の人を呼んだ方がいいの。何かなるかも」
「そうね。でも、それはどうかな?確かに何かできるかもしれないけど、誰も知らないかもしれない。むしろ、おおごとになるかもしれない。何をされちゃうともわからない」
考えると、そうなのね。この身体はたくさんの人に見られたら、どうなるかな。数人の巨人が私を見下ろしている光景を想像するだけで無性に怖くなってきた。どうされるのか?まだ人間として扱いされるのかな?研究の目標にされちゃうのかな?いや、もう考えたくない。

「そ、それは。そうなのね。でも、それは秘実子も同じじゃないか?」
「そんな、私は何もしないよ」
「嘘だ。嫌いじゃないか?私のこと」
「そうね。確かにあんたとは相性が悪い」
と、はっきり言った秘実子は一瞬言葉をやめた。そして、大きな目を眇めて言い続けた。

「でもね、あんたのことは、苦しませたいとか、死なせたいとか、思ったことはない。それだけは信じて」
彼女のあまりにも案外な答えにはなぜかとても暖かい感じがする。その言葉に私は安心させられたみたい。

「でも、私たちはライバルじゃないのか?私は消えたらあんたは・・・」
何怖いことを言ったのよ、私。こんなこと言って本当に抹殺したらどうするの!?でも、多分私の心の底からは秘実子はそんなことする人ではないと、信じているから、そんなこと言い出せるかも。

「何言ってんのよ?ライバルだから、あんたがいないと勝っても意味ないじゃない?だから、仕方ないから、手伝ってあげる。絶対にあんたが元に戻るまで手伝うから。ライバルとしてだけどね」
その言葉で、彼女はかっこいいなって思わせられちゃった。でも、『昨日の敵は今日の友』って言う言葉もあるのだしね。たぶん、彼女のこと信頼してもいいかも。

「まあ、そこまで言うなら、仕方なく、手伝わせてあげてもいいの」
本当は感謝している。けど、感謝の言葉どころか、私は全然どうみても人に頼む時の言葉らしくない言葉を言い出した。

「あ、そう。琴花先輩や湖由梨にも相談したらいいじゃないかな。琴花先輩なら大丈夫なはず。それにこの人形を持ってきたのは、この生徒会の人じゃないかな」
「そうね。でも、琴花先輩は今更家に帰ったはず。湖由梨は?」
「あ、そういえば、教室で別れた。今は帰ったかな」
他のクラスメートも特に親しいわけじゃないし。今信じられるのは秘実子しかないかもしれない。

「じゃ明日まで待つしかないよね。今日は私だけ何かしよう」
「で、具体的にどうやって私を手伝うの?」
「そうね・・・実は私もわからない。へへ」
彼女のしゃしゃり出た言葉は私を幻滅させた。何か考えがあるかと楽観的に思い込んじゃった私が馬鹿。

「とにかく、この部屋調べよう。何か見つかるかも」
「わかった」
秘実子は部屋のいたるところを調べ始めた。





「何の異状もないみたい」
しばらくの時間、部屋を怪しげなところを全部調べても何も見つからないみたい。

「そんな・・・」
「何か他に心当たりない?変なものを食べたとか?」
「昼は普通に学食なの。それに身体の異常が原因なら服までは小さくならないはず」
そう、変わるのは身体だけじゃなく、着ている服も。さもないと、私は裸になったはず。

「そうだよね。で、サイズ以外は何か変わったところがない?」
「そうみたい。私から見れば、まるで私はそのままで、周りの方こそ巨大になった」
「でも、いきなり小さくなれたら、たぶん何もしなくてもいきなり元に戻るかもしれないじゃない。」
「それは楽観的過ぎるじゃないの?」
本当にそうならいいけど。

「でも、どうしたらいいかわからないし。あ、そうだ。とにかく、ここにいても何もできなさそう。だから、まずは場所変えたらどう?今も遅かったし」
「でも・・・」
「何も見つからなくてもここに夜までいるつもり?」
「それは・・・」
考えるだけで嫌。確かにここにいても何もできない。

「じゃ、どこに行くつもりなの?」
「まずは私の家に行こう」
「ええ!?何で?」
秘実子の提案を聞いて、私は驚いて叫び出した。

「何であんたの家なんか。嫌なの、私は自分の家に帰る」
「でも、夢葉の家には誰もいないじゃないか?」
「そ、そういえば、そうなのだけど・・・」
そう、もともとは家には母と一緒にいたが、二年になった時から母は転勤してもうこの町にいなくなっちゃった。実は一緒に引越ししたかったけど、中学卒業まで転校したくないからここに一人で残っている。卒業したら引越しするつもりだけど、今は一人暮らしになっている。そんなことについて、近所に住んでいる秘実子もよく知っている。

「じゃ、他の人の家は?琴花先輩の家とか?」
確かに今は一人じゃいられないし、誰かの世話もらわないと。でも、それは秘実子ではなく、琴花先輩の方がずっといい。

「他の人の家よりずっと、私の家の方があんたの家に近いし。それに、ちょうどよく、私の両親は出張しているから、つまり、今夜家にはね、だ・れ・も・い・な・い」
「どうしてわざわざそこで強調するのよ!?」
秘実子はこの状況で楽しんでいるように見える。まだ信じていいのかな?

「とにかく、いやって言ったらいやなの!」
「何でだよ!」
秘実子の顔はなんか真剣になった。ちょっと怖い感じがする。

「秘実子こそ、そんなに私に家に行ってほしいって言うの?」
「それは・・・私だって、あんたなんか歓迎したいわけじゃないよ。ただ、ほら、ほうって置いたらかわいそうだし」
「嫌ならほうっておけば?別に頼んでないし」
「何よ。人が面倒を見てあげるって言ったのに。別に、ここに一人で残りたいならそれでいいけど」
それを言いながら秘実子の巨大な不機嫌になった顔は近づいてきた。これを見たらなんか怖い。

「・・・・・・」
もう何の考えもなく、言えることもない。自分の身長よりも大きい顔は、私みたいに小さい存在は何をしても無駄だって言わんばかりの雰囲気をかもし出しまくっている。この状況では、まるで運命は私が秘実子の家に行くように指導しているみたい。

「・・・まあ、そんなに私に行ってほしがるのなら、仕方ないな。言っておくけど、私も別にあんたの家なんかに行きたいわけじゃないの。仕方がないので、行ってあげてもいいだけなの」
怖い感じを隠そうとして、私は仕方ない態度で秘実子に返答した。考えてみれば、秘実子の家には小学生の時、お世話になった頃もあるしね。実はというと懐かしいな。家は近所なのに最近永い間寄っていない。と言っても、別に行きたかったわけじゃないし。

「人に助けを求めたい時はそういう態度?気が変わった。一人でここに残っていい」
「何でなのよ!あんた、いったいどうしろって言うの!」
「冗談よ。本当に私がいないとだめなんだからね。じゃ、決まりだな」
まるで私のことをからかいたいだけみたい。でも、彼女の顔はなんか嬉しそう。あんなに私に行ってほしい?まさか何か企んでいるのではない?やはり不安。

「早く行こうか」
そういって、秘実子は私の身体を摘み上げた。

「待って、どうやって行くの?まさかこのまま持ち帰る?」
「そうね。このまま街で歩いたら、人に見られちゃうかもしれないし。だから・・・」
そう言って、彼女は自分の制服の襟をめくって、私を胸と制服の間に入れ込んだ。首から下の部分は制服の中に埋められて、頭だけは覗いている。

「何をするの!?馬鹿!」
背中に彼女の胸元の感触がいっぱい入り込んできた。柔らかくて、温もりが感じた。

「どう?気持ちいい?」
「狭苦しいの。まあ、意外とさっぱり何もないので助かるのだけど」
「どういう意味よ!そんなあんたにだけは言われたくない!」
「とにかく、これは嫌なの。どう見てもだめみたい」
「そうね。まだちょっと目立つかも」
秘実子は鏡を見て残念そうな顔で言った。外にある頭部は見られやすい。中にある身体も突起しすぎて、中に何かある(いる)と疑われやすいかも。

「じゃ、ここはどう?」
秘実子は机の上に置いてある自分の鞄を開けた。

「この中なら大丈夫だよね」
「何だって!?」
鞄の中って、まるで荷物みたい。

「他の方法がないでしょう。まさか、まだ私の胸にくっつきたい?なら、家に帰ってからでもまた・・・」
「ふざけないで!わ、わかったのよ。鞄の中でもいいので、早く私を降ろして!」
そして、彼女は私を鞄の中に入れ込んだ。私はこの鞄の中に最適なように座った。

「心配しないで。一生懸命鞄を守るから」
「そう、あの人形も持ち帰った方がいい。どう見ても、この人形が原因の可能性はまだもっとも高い」
「わかった」
秘実子は人形を私と一緒に鞄に入れ込んだ。

「はい、友達連れてきたよ。仲良くしてね」
「私は人形じゃないの!この不細工な人形と一緒にするな!」
「冗談よ。じゃ、鞄を閉じる。ちょっと我慢してね。大丈夫。早速家に戻るから」
鞄が閉じてきた。暗くなった。でも鞄のわずかな隙間から光が漏れてくる。

「じゃ、行くよ」
囁きで合図をしてから、秘実子は鞄を持って部屋を出て行った。彼女が歩いている時、鞄を揺るがせないようにしてくれているかもしれないが、それでも私にとって随分と激しい衝撃。幸い私は乗り物酔いしやすいタイプじゃないから助かる。生徒会室から校舎まで歩く時間は全然長くないが、私にとってすごく永い時間みたいな気がした。





「ね、まだ大丈夫?」
気遣っているような声と共に、ようやく天井が開いて、その上にあるのは青空が見える。今は校舎から出たみたい。けと、すぐその代わりに巨大な顔が浮いてきて空が見えなくなった。巨大な目は心配そうに覗いてきた。

「平気・・・なわけないじゃないの!階段、気をつけろ!馬鹿」
さっき、たぶん階段を降りていた時、ずっと激しく上下に揺れていて、すごくめまいしちゃった。今は吐きたいくらい。

「ごめん、次はもっと気をつけるから。じゃ、バスならだめみたいね。そのまま歩いて帰った方がいいかも」
「いや、今は一刻も早く鞄から出たいので、バスに乗っていいの」
学校から家まで、歩いたら30分くらい。普段急ぐ時だけはバスに乗る。

「でも、今人は多そうだから。それに、バスの上には振動が大きいから。あんたは耐えられないかも。徒歩なら遅いかもしれないけど、これから鞄を開いたままで歩いたら、そんなに苦しくないじゃないかな。通り道人は多くないから大丈夫だと思う」
冷たい風が吹き込んできた。吐き気は治められるかも。

「わかった。『急がば回れ』っていう諺もあるしね。だから気をつけて歩かないとね」
「うん」
そして、秘実子は家路を歩き出した。私は鞄の中で仰向けに寝ている。目の前に見えるのは空の青と、雲の白と、時々葉の緑。それと、時々覗き込んできた巨大な顔の肌色と、パッチリの目の黒と白。これは今の私のすべての世界みたい。どこまで歩いてきたかわからない。いつ家まで帰れるのかな。早く着きたいな。でも、意外と快適のおかげか、私は眠気に襲われて意識は遠くなってきて、このまま眠ってしまった。





「ふん?」
気がついたら私は生徒会室に居眠りしていた。

「へ?さっきは確か私は秘実子の鞄の中・・・」
今はどうみても私は普通のサイズで、机のそばの椅子に座っている。回りを見たら誰もいない。

「そうか。全部は夢なのね」
まさか、いきなり小さくなるなんて、普通考えたらあり得ないだろう。馬鹿みたい。変な夢だった。

『ぐらぐら』
「わ!」
突然地面が震え始めた。

「なんなの?まさか、地震!?」
って思ったとたん身体がいきなり重くなった気がする。エレベーターに乗る時と同じ感じ。この部屋は上へ浮いていくみたい。

「これはいったい・・・」
ややあって動きが止まって、私はふと窓の方に目を向かったら・・・

「わ!」
人の顔が窓いっぱいに見える。普通の顔じゃなく、すごく巨大な顔。よく見たらそれは見慣れた人の顔。

「秘実子なの?ど、どうしてこんなにでかいの?」
私は唖然としてその巨大な顔に向かって質問を投げかけてみた。

「違うよ。夢葉は小さくなったからだよ」
私は小さくなった?これは夢じゃないの?元に戻ったと思ったのに。

「待って、待て、この生徒会室は普通のサイズじゃないの?」
「いいえ、その部屋はただの模型で、夢葉の大きさに合わせて作られたものだよ」
「そ、そんなことあり得ないじゃないの?」
もう一度部屋を調べても偽物だとは見えない。模型だったらこれは非常によく作られた傑作のはず。

「信じない?なら、信じさせてあげる」
彼女の言葉の後、地面は傾き始めた。

「わ、わ!何が起こってるの?」
地面が斜めすぎて立つことができなくなって、私は窓の方へ滑っていって、そして窓から落ちた。

「はっ!」
落ちかけた瞬間私は窓枠を掴んで助かった。

「わ!?」
下の方へ自然を向いたらそこには巨大な口がぽっかり開いている。

「秘実子?これはどういうこと?」
気の所為か、今秘実子の口・・・というより、身体全体がさっきよりもでかくなった。私の身体を一気に食えるくらい。

「私、さらに小さくなったの?」
それとも秘実子の方が大きくなった?事情もよくわからないまま、窓枠を掴んでいる手は疲れ始め、力がどんどんなくなっていって、やがて窓枠から手が抜けた。

「イヤアアアアア!!!」
溺れる者は藁をも掴むように、私は空に浮かんでいる綿雲を掴もうとするみたいな馬鹿な行動までしたが、当然として何も掴めなく、私は下の方にどんどん落ちていく。巨大な口の中へ・・・



-つづく-

初投稿:2014/08/05