夢葉のある初夏の奇跡
第5話:帰り道に残るスリール



『キーンコーンカーンコーン~』
授業終わりのチャイムが私を起こした。いつの間にか授業中に居眠りしてしまった。

さっきのは夢か?本当にありえない夢だった。いきなり身体だけが小さくなって服に埋められるなんて・・・いや、服ごとに小さくなるのも同じくらいあり得ないだろう。私はいつもいろんな夢を見ていた。毎回夢はとても鮮やかで、起きるまで現実と区別できたことがない。

私は自分を起こそうとしながら周りを見ている。時計を見ると今はもう昼休みの時間で、クラスメートはどんどん部屋から去っていく。

「珍しいな、夢葉が居眠りするなんて」
盟子は珍しそうな顔で聞いた。

「まあ、時々なの」
「やっぱり、今日の夢葉はちょっと様子がおかしいかな」
「そうなのかな?へへ」
そうなのね。今の私は私らしくない。早く問題を解決しないと。そう思ったら、琴花先輩に会うために教室から出て、まっしぐらに生徒会室に向かった。

生徒会室に着いた時はまだ誰もいない。ここで待つしかないか・・・と思ったら今お腹が空いちゃった。仕方がないから、琴花先輩も今は昼ご飯食べているはずだから、食べてからまた来てもいい。そう考えたら、私は食堂に行ってきた。





食事の後また生徒会室に戻ったら、琴花先輩はすでに部屋で座って本を読んでいる。

「琴花先輩!」
部屋に入ったらすかさずに私は琴花先輩を呼んだ。

「あら、夢葉ちゃんどうしたの?そんな緊張な顔して」
「大変なのです」
「また大変なの?今度は何?まさか鯛焼き屋さんとかに追われてきた?」
琴花先輩は本当に大変だと思わないようで、まだ冷静に笑って冗談を言った。

「今回は本当に大変なのです。聞いてください。私は昨日いきなり身体が・・・」
「小さくなったとか?」
「っ!!」
まだ言い終わっていないのに、どうして琴花先輩がそんなことを知っている。まさか、琴花先輩は本当に私や秘実子が小さくなったことと何か関係がある。そう思うと、背筋が寒くなってきた。

「なんちゃってね」
「へ?」
「ごめん、私ったら、小説に夢中して、つい変なこと言っちゃって」
「・・・」
ということは、まさか、今言ったのは本のこと。

「まさか、昨日言った小説なのですか?」
私は興味津々で聞いてみた。

「そうよ。『マリーちゃんの小さな大冒険』、今も読んでいるから」
つまり、私と秘実子のことを知っているわけでもなく、ただ小説に夢中しているから、『小さくなる』っていう言葉を出したわけ。びっくりさせられちゃった。

「だから、さっき夢葉ちゃんは『いきなり身体が・・・』と言ったら、ほとんど本の中の台詞とそっくりなんだから、つい」
「そういうことなのですか・・・」
私は安堵してきた。さっきは琴花先輩がこんな事情と関係があるって疑っちゃってごめんなさい・・・

「そういえば、何なの?大変なことって?」
やっと話は戻ってきた。

「一応聞いておくのですが、先輩は本当にいきなり人が小さくなったりできると思うのですか?」
「何それ?いきなり変な質問ね。夢葉ちゃんもやっぱりこういう物語好きなの?」
「いや、そうじゃなくて」
「そういうことは小説にしか存在しないはずよ。非科学的な現象は小説に限るものよ」
だよね。最初は私もそう思っていたけど。

「じゃ、もしいきなり本当に人が小さくなったら?」
「本当に小さくできたらいいな。小説みたいに楽しそうね」
「そうなのですか・・・」
楽しいというより、本当は諸々大変ですよ、先輩。少なくとも私は体験してみてしまった。

「どうしたの?まさか本当に誰かが小さくなった?」
「・・・そうなのです」
私はやっと単刀直入に言い出した。

「は?」
「昨日私は本当に小さくなったのです」
「何を言ってるの、夢葉ちゃん?あ、でも本当ならいいな。私も夢葉ちゃんの小さくなった姿を見たいわ~」
琴花先輩はまだ全然信じていないみたい。本当に見ないと誰も信じてくれないのは無理もない。

「先輩はこの人形のこと知ってますか?」
私はスカートのポケットからあの問題の人形を取り出して琴花先輩に見せた。

「何なの?このフランス人形」
「昨日この机に置いてあるのです。琴花先輩は持ってきたのじゃないのですか?」
「違うわ。この人形初めて見たと思う」
「そうなのですか」
っていうことは、琴花先輩はこの人形のこと知らないみたい。なら、残るのは湖由梨だけ。

「でも、ちょっと詳しく見せて」
「はい」
私はこの人形を琴花先輩に渡した。

「あ!」
その瞬間人形から白い光が出てきて、眩しくて私は目を閉じた。

昨日と同じ!まさか私また小さくなっちゃう!もう嫌!

また目を開けたら・・・

「あれ?」
周りをぐるっと見ると何の変化もない。私はまだ普通の大きさでいる。何も起こらないのか・・・と思いきや、前に立っているはずの琴花先輩が消えた。

「琴花先輩、どこにいるのですか?」
まさかと思ったら床に見下ろすと、そこには小さな人間の姿が見つかって、誰でもなく琴花先輩だった。

「あれ?何が起こったの?ここはどこなの?」
琴花先輩はまだ状況を把握していないみたい。昨日の私と同じ。

「あれ?これは夢葉ちゃん?どうしてこんなに大きくなったの?」
彼女は私を見上げて驚きそうな声で叫び出した。叫ぶといっても、身体が小さい所為で声が小さくて聞きにくい。

「違うのです。私は大きいのではなく、先輩は小さくなったのです」
私は悲しそうな声で答えた。

「は?」
琴花先輩は事情を理解してきたよう。

「ちょっと失礼します」
私は彼女の身体を拾い上げて机の置いた。自分の手と比べれば彼女は手の平よりも随分小さい。確か、昨日の私と今の秘実子よりも小さいように見える。いつも私より随分高かった琴花先輩はこんなにちっちゃく可愛い。いや、今はそんなこと考える場合ではない。

「これはどういうこと?何で私は小さくなったの?」
琴花先輩は信じたくなさそうな顔をした。

「わからないのです。やはりこの人形は原因なのですね。昨日私が触ると小さくなったのです」
「本当なの?」
「はい、でも違うのです。先輩も触ると小さくなるなんて思わなかったのです。わかっていたら絶対に触らせないはず」
「そ、そんな・・・」
琴花先輩は俯いて、泣きそうな顔のように見えた。

「ごめんなさい。大丈夫きっと元に戻れるのです」
慰めなくちゃ・・・

「これは・・・すごいじゃないか!」
いきなり琴花先輩は顔を上げて嬉しそうな顔で叫び出した。

「はい?」
「まさか本当に小さくなれるなんて。小説しかできないと思ってたけど」
「・・・・・・」
落ち込むはずだと思ったのに、これは意外と反応だった。小説のおかげなのか、琴花先輩はこの状況にどきどきしているように見える。

「すごくなんかないのです。とても大変だったのですよ」
「そうよね。これは小説ではないよね。魔法も使えないし」
そう言って、琴花先輩はしょんぼりした顔をして俯いた。気分の変化が早すぎる!

「心配しないでください。きっと何か方法が」
また慰めた。

「そうよね。そういえば。昨日夢葉ちゃんも小さくなったと、さっき言ったよね?」
「はい」
「じゃ、どうやって元に戻ったの?」
「それは」
そして私は昨日から今まで起こっていたことを大雑把に話した。



「そういうことか。本当に突拍子もない話ね」
琴花先輩はまだ信じたくないみたいな顔をしているが、実際に小さくなったから、簡単に信じるしかなくなった。

「そうなのです。なので今は原因を調べようとしているのです」
「じゃ、今のところ何がわかった?」
「あまりわからないのです。ただこの人形は原因に間違いないってことだけです」
そう言ってふと床に落ちている人形を見た。

「ふん?目つきは変わったかな?」
私はこの人形を拾い上げてよく調べた。

「本当にまた変わったみたいです」
私は人形を琴花先輩のそばに置いた。今先輩はこの人形よりも小さい

「そうなの?確かにそうね」
「そういえば、先輩は昨日小さくなった私よりも小さいのですね」
「へ、そうなの?」
「ちょっと失礼します」
私は定規を持ってきて琴花先輩の身長を測ってみた。

「10センチなのです」
「10センチが・・・」
「先輩はもともと身長いくらですか?」
「えと、最近測ったのは160センチ」
「じゃ、ちょうど16分の1。昨日の私は8分の1しか縮んでなかったのです」
「そんな・・・」
縮尺は2倍も違っている。この差は明らかに見える。私はもしこの縮尺で縮んだら9センチになる。こんなに小さくなったら、大変なことがもっと多くなるかもしれない。

「とにかく今は湖由梨を探すしかないのですね。多分この人形のこと知ってるかもしれない」
「教室で会ってなかった?」
「はい、今日は学校休んでいるのです」
「そうか」
「でも、今はどうしたらいいのですか?もうすぐ昼休みが終わる時間なのですよ」
「じゃ放課後に夢葉ちゃんの家に行って秘実子ちゃんにも相談したら?」
「あいつには何のアイデアも齎せないと思いますが」
「まあ、人が多い方がいいじゃないか。少なくとも関係者だし。何か心当たりがあるかもしれない」
関係者か。そう考えればそうだと思う。今は放課後まで待つしかない。

「でも、このままじゃ先輩は授業に戻れないのですね」
私の所為で先輩に迷惑かけちゃって、すごく悪く思っている。

「そうね。まあ、いいの。夢葉ちゃんは自分の教室に戻った方がいい」
「じゃ、先輩は」
ここで一人で残すなんか、いいのかな。

「できれば私も一緒に連れてもらってもいい?」
「は?私のクラスにですか?」
「そうよ。折角だから夢葉ちゃんと一緒に授業を受けてみたいな」
「そんな、誰に見つかったら」
生徒会長が小さくなったとばれたら大変なことになるはず。でも、まさか先輩はまだこんな状況に楽しそうに思っているよう。

「こんなに小さかったら簡単に見つからないじゃないかな?」
「それもそうなのですけど」
「嫌なの?」
「いいえ、ただ・・・」
むしろ嬉しい。授業の時までも先輩と一緒にいられるなんて。ただしどきどき過ぎて集中できないかもしれない。

「わかりました。でも、どこで隠せばいいのですか?」
「服の下とか」
「は?」
「マリーちゃんだって、小さくなった以来、時々友達の服の下に隠れるのよ」
やはり小説の真似か。

「そうなのですか。確かにこんなに小さくなったら簡単に隠せるかもしれない」
でも、琴花先輩は私の胸の中にいると想像したら、なんかどきどきしすぎるじゃないか。

「もうすぐ時間よ。さあ、任せるね」
「はい」
私は先輩の小さい身体を掴みあげた。

「夢葉ちゃんの手は大きくて暖かい」
先輩だって小さくて可愛い・・・と心の中で考えても口に出さなかった。今琴花先輩から見れば私は20メートル以上の大きい巨人に見えるはずなのに、怖さが何も感じていないように見える。さすが私の憧れの先輩、本当に心が強い。

私は襟首をめくって琴花先輩を服の中に入れた。彼女は私の襟首を掴んで頭だけは外に出した。

「例え小さくても頭は隠さないと簡単に見つかると思うのです」
出された頭はまだ目立ちすぎる。

「わかった」
そう言って琴花先輩は下の方に潜り込んで頭が外に出ないようにした。彼女の動きはなんか虫とかが服に迷い込んじゃったみたい。人間だとわからなかったらすぐ潰し殺しちゃうかもしれない。でも、こんな柔らかな感覚は虫とは違って、いい感じ。っていうか、私ったら何考えているの?先輩のことは虫とかと比べるなんて失礼・・・っていうより、侮辱しているみたいじゃないか。私の馬鹿。

「でも、授業中ずっとこのままいたら先輩は疲れすぎて大変なのですね。クラスでは机の引き出しの中にいた方がいいと思うのです」
「うん、そうね」
「じゃ、行くのですよ」
私は生徒会室を出て授業に戻った。





授業中私は琴花先輩がいる引き出しの中に時々覗き込んでいた。彼女はずっと元気らしい。私は相変わらず授業に集中できないまま授業が終わった。私は人が少なくなるまでしばらく待ってから琴花先輩を引き出しから摘み出して服の中に入れて教室から出た。

「もう誰もいないのですよ。外に出します」
校舎から出た後、私は琴花先輩を服の中から摘み出して様子を見た。彼女は顔が悪いように見える。

「大丈夫なのですか?」
「ちょっとめまいよ。実は私乗り物が苦手」
「そうなのですか?」
知らなかった。昨日私は秘実子の鞄で運ばれて階段を下りた時にもすごくめまいした。服の下では震動があんなに大きくなくても、今の琴花先輩は昨日の私よりも二倍と小さいから、振動は2倍と増えるだろう。

「こんなことに巻き込ませちゃって、本当にごめんなさい」
もともとは私の問題なのに。秘実子も琴花先輩も巻き込まれちゃった。

「いいの。私はまだ楽しそうに思うよ」
先輩は秘実子よりも楽観的。私もこんな風になれたらいいのに。

「これからは歩いて帰りましょう。人に見られないようにするので、頭を出してもいいのです」
「うん」
こんな風に私は琴花先輩を連れて家まで帰ってきた。





「ただいま」
家に着くと、すぐに寝室に入って、秘実子は寝床の上で寝ているのが見つかった。勿論身体はまだ小さいまま。

「本当に秘実子ちゃんも小さくなったな」
琴花先輩は秘実子を見て感嘆した。私は琴花先輩を秘実子のそばに置いた。

「あ、近くで見ると秘実子は大きい」
琴花先輩の身体は明らかに秘実子よりも小さい。16の1サイズの琴花先輩から見れば秘実子は普通ではあまり存在するはずのない身長240センチの超長身女に見える。

「秘実子ちゃん。起きて~」
子供みたいに琴花先輩は秘実子の身体に乗って起こした。

「琴花先輩?何でこんなに小さいんですか?まさか」
秘実子は目覚めたら琴花先輩の身体を見て驚いた。

「そのまさかよ」
「とにかく、私の身体から降りてくれませんか?」
秘実子はまだ琴花先輩に身体に乗られたままで、起きられない。

「嫌よ」
「・・・・・・」
仕方なく秘実子は琴花先輩の身体を抱っこしてから立ち上がった。子供を抱き上げたみたい。秘実子から見れば琴花先輩は100センチの子供のように見えるから。でも体重は子供より随分軽い。

「琴花先輩本当軽いですね」
「秘実子ちゃんに抱っこされちゃった~」
二人とも楽しさうに見える。なんか羨ましい。私もこんな風に琴花先輩を抱っこしてみたいな。

「あの、私のこと忘れられたような・・・」
今二人ともは小さくなったから、まるで私だけは巨人になって仲間外れされたみたい。自分が一番大きくて本当は嬉しいはずなのに。

「あ、夢葉はまだ普通サイズなの?何で琴花先輩だけは小さくなったのよ?」
「それは・・・」
私は学校で起こった事情を秘実子に話した。

「じゃ、この人形は原因に間違いなさそうよね」
事情を聞き終わった秘実子は要するに言った。

「そうなの。どうやって反応するかはまだよくわからない」
さっきも三人とも触ってみたけど何の反応もないみたい。今私たち3人は相談をしている。小さな琴花先輩と秘実子は私の寝床で座って、一番大きい私は床で座って胸以上の部分だけは寝床の上にある。

「まったく、琴花先輩まで巻き込ませられちゃって」
「私だってそんなようになってほしいわけじゃないの!」
秘実子の言葉は私の心の傷に触れちゃった。そのこと私は悪く思っているのに。

「まあ、二人ともちょっと落ち着いて。誰の所為でもないわ」

できれば、小さくなるのは琴花先輩ではなく私ならいいのに・・・と、私は心からそう思うようになっちゃった。

その瞬間人形からまた光が出てきた。

「またか!?」
今回は三人そろって驚いた。今度は私は目を閉じないように・・・すると、自分が下の方に落ちていくように見える。

光が収まった時、私は寝床を見上げているようになった。

「私、また小さくなったの?」
今度私はすぐに自分の状態を把握できる。

「琴花先輩は?」
私は寝床の上に見上げた。そこには琴花先輩の巨大な姿が聳えている。

「あれ、何で秘実子ちゃんはこんなに小さくなったの?いや、私は大きくなったのね?」
琴花先輩は驚いた顔で言った。

「琴花先輩!元に戻ったのですか?」
彼女は私のこと気づいていないようだから、私は寝床の下から叫び出した。

「そうみたい。へ!?夢葉ちゃん?小さくなったの?」
琴花先輩は驚いた顔でこっちに視線を向いた。

「そうみたいなのです」
「そんな・・・」
琴花先輩はすまなそうな顔をした。自分が大きくなったのに、私のことを心配しているよう。彼女は私の身体を持ち上げて秘実子のそばに置いた。彼女はまださっきと変わらない大きさみたい。そばに立って身長を比べたら・・・

「へ?何で秘実子は私よりこんなに大きいの?」
私の頭は秘実子の胸くらい。

「わー、今の夢葉は小さいな」
秘実子は私の頭を撫でた。

「ちょっと!少しだけ大きいからといって、調子に乗るな!」
私は秘実子の手を飛ばそうとしたが、両手を使っても秘実子の大きな腕一本にかなわない。

「何でこんなに強いのよ?」
私は秘実子の身体に腕を伸ばそうたしたが、自分の頭を押している秘実子の腕より短いから、どうでも届かない。

「はは、どう?悔しい?」
「覚えてなさい!」
私はまるで大人にいじめられた子供みたい。

「ふふ」
この状態を終わりにしたのは、上から今一人で巨大になった琴花先輩のニコニコと笑い声。

「あ、ごめん、喧嘩してる二人ともはちっちゃくて可愛いから」
それと、私たち二人の頭を撫でた、彼女の細くて柔らかい巨大な指。

「もう、琴花先輩ったら。はは」
秘実子はくすぐったくて笑った。

「今の先輩はすごく大きいのですね」
私は琴花先輩を見て感嘆した。

「あ、ごめん。何かよくわからないけど私一人で大きくなっちゃって」
琴花先輩は悪く思っているみたい。雰囲気はまた重くなった。

「いいのです。もともと私の方こそ・・・それより今私どれくらいになったか気になって」
「そうだ。ちょっと定規で測ってみるね」
そして琴花先輩は私と秘実子の身長を定規で測ってくれた。

「夢葉は12センチで、秘実子は15センチね」
「12センチっていうと、12分の1なのですね」
やはり、昨日よりも小さい。でも、秘実子まださっきまでと同じく10分の1みたい。その縮尺の違いは今私から見れば秘実子は身長180センチの長身女になって、秘実子から見れば私は身長120センチの小学生くらいの子供になる。

「でも、まださっきの私よりもちょっと大きいね」
「それはそうなのですね」
なんか毎度小さくなる尺度はばらばらと異なっている。どんなに小さくなるか予想できないみたい。もっと小さくなったら米粒みたいになるかなと怖くなってきた。

「ところで、夢葉ちゃん、この部屋のものはなんか大きすぎないかな?」
「は?」
琴花先輩が何を言っているか、あまりぴんと来ない。

「変ね。元に戻ったはずなのに。なんかおかしい。この定規だって30センチってこんなに大きくないはずなのに」
琴花先輩は自分の手が持っている定規を珍しそうな顔で見ている。

「この鞄だって私の持っているのより大きいじゃないかな?」
私の鞄を拾い上げた。

「へ?学校の鞄は大体同じサイズじゃないですか?」
と思ったら、よく見るとこの鞄は本当に大きい。私から見るからではなく、琴花先輩を見て比べても鞄は微妙に大きく見える。

「まさか、先輩は元に戻ったわけじゃないのですか?」
「へ?何言ってるの、夢葉?どう見ても元に戻ったんじゃない?あんなに大きいのよ」
私の言葉に怪しげな顔で秘実子が反論した。

「いいえ、間違いなく今の私は元の大きさよりちょっと小さいみたい。確かに子供サイズくらいだと思う」
「へえ!?」
やはり、元には戻っていない。

「あ、ちょうどいいこの部屋は身長計があったんだ。ちょっと測ってみるね」
ちょうどいいというとそうね。私はちょっと身長のことに気になるので自分の部屋に設置している。それなのに身長はあまり上っていない。

「128センチ!元の身長は160センチだから、今は・・・5分の4しか、0.8倍と言った方がわかりやすいかも」
「本当に小さくなっているのですね」
私から見れば琴花先輩はまだ10メートル以上の巨人に変わりはないけど、彼女は普通サイズの人から見れば子供にしか見えない身長のはず。128センチか、こんな子供みたいに小さい先輩を抱きしめてみたいな。

「でもすごいよね。まるで小学生に戻ったみたい」
琴花先輩はまだ相変わらずこの状況に楽しく思っている。

「琴花先輩ってなんの緊張感もないのですか?」
「勿論あるわ。でも、さっきと比べたら今のはこんなに大変じゃないと思うよ」
「そうなのですね」
ただ身体が子供サイズになっただけで、こんなに不便ではなく、普段できることは大体まだ普通にできるはず。

「あ、ごめん。二人ともはまだこのサイズなのに・・・」
「いや、気にしないでください」
琴花先輩は自分だけ大きくなって悪く思っているよう。

「でも、きっと元に戻れるよ。今度私の方が助けるわ」
私たちが安心するために琴花先輩は笑顔で慰めた。

「そういえば、今回はどうして急にこうなるのかな?」
先に質問を出したのは秘実子だった。

「そうなのね。今度はまだ人形に触っていないのに」
「でも、昨日私は眠った時も全然人形に触っていなかったよ。触ることとは関係ないじゃないかな?」
「そうなのかもしれない。それに二人の大きさを同時に変えることもできるのね」
昨日眠っている間に私と秘実子の大きさが入れ替わって、今回は私と琴花先輩。

「全然わからない。どんな条件で変化が起こるのかな?」
秘実子のこの質問は私も全然わからない。

「何か満たさなければならない条件があるじゃないか?例えば・・・そうね。時間とか、それとも考えてることとか」
「考えてることなのですか?」
琴花先輩の考えに私は気乗りした。

「だって、こういうこともあるじゃないか。願い事を叶えてくれるアイテムとか」
「そういえば昨日小さくなる前に私は一瞬琴花先輩の読んだ小説のことを考えた」
私はあの時のこと考えた。

「そういえば、私は昨日眠る前に夢葉のことをずっと考えてた」
「は?私のこと?何考えてたのよ!?」
「いや、違う!夢葉が小さくなったことだ。自分もこんなに小さくなったらどうなるかなって」
秘実子も自分の事情を言い出した。

「私も小説を読んでいるところだから、多分。つまりこの人形は私たちの不意な考え事を与えてくれたじゃないかな」
「確かに!私もさっき自分が琴花先輩の代わりに小さくなったらいいとか考えたのです」
琴花先輩の考えに私たちも一応同意した。

「じゃ、私たちは大きくなるように願ったら元に戻れるかな?」
「試してみないか?」
「うん」
そして私はいろいろなこと想像してみたけど、結局何の変化もないみたい。

「違うかも」
秘実子はしょんぼりそうな顔をした。

「おかしいわね。まさか、一度力を与えたら、もう一度効くまで時間がかかるかもしれない」
「時間に関する条件なのですね」
「本当なら今私たち待つしかありませんね」
「うん・・・」
私たちは少しの間に黙っていた。

「そう!」
琴花先輩は何か考えがあるように両手を叩いた。

「今私の家に行かない?ちょうどいいもの見せたいの」
「琴花先輩の家ですか?」
そういえば、行ったことないね。琴花先輩の家ってどんな家なのかな?いいチャンスかも。

「はい、是非行きたいのです」
「私も行きたいですよ」
私はすかさずに答えて、ややあって秘実子も返事した。

「じゃ、決まりね」
「ところで、琴花先輩、こんな身体両親に見られたら驚かないのですか?」
「あ、そんなことなら心配ないわ。今夜両親は戻ってこないから」
「なんか親切なくらいちょうどがいいのですね」
ということで、私たちは琴花先輩の家に行くことになった。私と秘実子は鞄に入って琴花先輩に運ばれた。





「こうなると、周りは本当に大きいね。まるで子供の頃に戻ったみたい」
途中で琴花先輩は鞄の中にいる私と秘実子に声を話しかけた。

「私もこんな風になってみたいです」
秘実子は楽しそうに答えた。

「じゃ、この人形の秘密を解決したら、楽しみ方をわかるかもしれないね」
「そうですね」
二人ともは相変わらず私より楽観的。

「でも、今こんな小さいままではなんかまだ不安なので・・・」
「不安なのはみんな同じだと思う。でもこんなことになっちゃったから、不安ばかりしても何も起こらないじゃないか?だから楽しいこと考えてもいいよ」
「はい、そうなのですね」
琴花先輩の言った通り。

「どんなに遠いですか、先輩の家って」
「学校から行けば秘実子ちゃんたちの家とは違う道だから、ちょっと遠いね。わ!」
突然琴花先輩は何かに躓いたみたいに倒れていった。私たちの入っている鞄も琴花先輩の手と一緒に地面に落ちて、その瞬間私と秘実子が鞄から跳ねられて、そして私は地面に尻餅した。

「わ!痛い・・・」
幸い鞄が地面に落ちてから私たちが飛ばされたから、とても怪我はしなくてすんだ。でも、あまりにも固い地面だから、すぐ立ち上がることができない。

そのうちにいきなり誰かの巨大な手に私は掴まれて持ち上げられた。その手は琴花先輩のではなく、琴花先輩とは違って、あまり優しさが感じていない。手加減なしで私の身体が握られて痛くなってきた。

「変な人形だね」
動きが止まった時、私の目の前にいるのは巨大な女の子。私の昔通っていた小学生の制服を着ているから小学生だとわかる。巨大な目はぱっちりと開いて私をじっと見つめている。

まずい。人に見られちゃった!



-つづく-