注意:破壊的行動はあまりありません。それでも構わない方のみ閲覧ください。



女神黙示録 第2話 「本当の心」





地球統一連邦領域、経済特区日本上空



連邦第1艦隊所属、前衛艦隊旗艦 スカーレット級戦闘空母「ルピナス」メインブリッジ



「葉山君、ホワイトフォックスの展開はどうか?」
「はい、全機発進完了しました。いつでも攻撃できます」
「そうか…」

前衛艦隊指令官の桐生准将はメインモニターに移るナリスを見ながら複雑な気分になっていた。
それもそのはず、彼にはナリスの同じくらいの一人娘がいた。
いくら巨大化しているとはいえ相手はまだ少女。
問答無用で殲滅とは、いくら本部の指示とはいえやりすぎではないかと考えていた。
桐生指令の横ではやたら偉そうにしている男軍人がひとり。
地球連邦本部参謀官ガイナル将軍である。
彼の直属の上司にして、彼の艦隊の後方に待機している主力艦隊の司令官を務める人物。
その性格は連邦本部の中でも目的の為には手段を選ばない冷酷非道でよく知られていた。

「なんとか話し合いで解決できないものか…」

彼が小さくそうつぶやくと、それを聞き逃さなかったとばかりにガイナルは彼にくってかかる。

「桐生君、君ははあれが人間とでも言うのかね?ちがうな…、あれは人の形をしたただの怪物だ」

「いいかね?今回の作戦の指揮権は私にあるのだ。君は私の言うとおりに艦隊に指示をだせばいいのだよ」

「(自分はホログラムで安全策…、あらごとは部下任せ…、まったくいいご身分だ…)」

そう、今彼の横にいるガイナルは本人ではなく立体映像なのだ。
当の本人は後方の自分の艦隊で桐生にあれこれ指示をだしているのである。
桐生は今回の殲滅作戦にはまったく納得がいかなかった。
しかし上官の命令に背く事、それは事実上査問委員会にかけられ、銃殺刑という事も珍しくなかった。
ガイナルは彼がなかなか攻撃指示を出さないことに憤りまじりで警告する。

「何をぐずぐずしている。私の命令に従えないというのか?」

「いえ、すぐに攻撃を開始します…」

「よろしい、期待しているよ」

「全機、高高度よりミサイル攻撃開始!」

桐生の合図で待機していていたホワイトフォックス隊は一斉に高高度よりミサイルを発射する。
累計数百発のミサイルがナリスに向かって一直線に飛来しつぎつぎと命中する。
ナリスは向かってくる艦載機の群れに対し反撃しようとするが、手が届かいため一方的に攻撃を食らっていた。

『むぅ・・・、こっちが攻撃できないからって調子にのっちゃってさぁ。ひきょうものー!降りてこーい!』

ナリスは苛立ちをつのらせていた。

「指令、やつが艦載機に気を取られている隙に艦砲射撃で一気にとどめを刺すのだ」

「……」

「聞こえないのか?艦砲射撃を加えろと言っているのだ!」

「全艦、全砲門、巨大少女に向け、発射!!」

バキューーーン!!!!!!

バキューーーーーーーン!!!!!!

バキューーーーーーーーーーン!!!!!!

バキューーーーーーーーーーーーン!!!!!!

旗艦<ルピナス>を含む前衛艦隊のすべての戦闘艦の主砲が一斉に火を噴き、
無数のビームが一直線に飛んでいき、ナリスに直撃した。
戦闘艦による主砲の一斉射撃が終わったころには、あたりは爆炎と黒煙に包まれていた。



同時刻 地球衛星軌道上 ヴァルヴァロッサ型機動要塞



「始まりましたなぁ」

「そうだね、テーダはどうなったと思う?」

そのころ、ギニアスとテーダは監視モニターでナリスと連邦軍が戦う様を堪能していた。

「残念ですがいくら彼女が巨大化してるとはいえ、あれだけの攻撃をくらってはただではすまないかと…」

「まぁ、確かに巨大化しただけじゃ死んでるかもね。でも僕が開発した薬はただ大きくなるだけじゃない」

「と、いいますと?」

「肉体も強化されるのさ。今現存する地球の兵器じゃ傷一つつけるのも無理じゃないかな」

ギニアスは頬に手をあてながら微笑する。




前衛艦隊旗艦「ルピナス」メインブリッジ


「はっはっは、圧倒的じゃないか、我が軍は」

ガイナルは高々と笑いながら黒煙に包まれたメインモニターを見ながら満足そうに頷いていた。

「あとは粉々になったやつの死体を回収するだけ…」

そうガイナルが言いかけたときオペレーターが叫んだ。

「し、指令!」

黒煙が晴れると同時に見えてくる巨大な影、ナリスは衣服はビリビリに破けていたが体はまったくの無傷だった。

「まさか、あれだけの攻撃を受けてまったくの無傷とは…」

桐生は驚きを隠せなかった。



経済特区日本上空 一斉砲撃から五分後・・・。



ナリスは自分の姿をみて絶叫する。

『あぁぁぁぁ・・・、ママに買ってもらった大事なワンピースがボロボロになってる・・・・。』

彼女が着ていた服、それは彼女が15歳になったお祝いに母親がプレゼントしてくれたワンピースだった。
しかし彼女の母親はその一ヶ月後に交通事故で亡くなっていたのだ。
ナリスは眼にうっすら涙を浮かべると、キッと鋭い眼光で艦隊と戦闘機をにらんだ。
その鋭い眼光に戦闘機のパイロットや他のクルーたちは背中に悪寒が走った。

『ゆるさない・・・』

すると、突然空に暗雲が立ち込め、雷鳴が轟き、彼女の周りの空気が一瞬にして凍りついた。

『ぜーーーーーーったいに!ゆるさなーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!』

雷鳴の様な叫び声をあげ、ナリスは全身に力をこめる!!
すると彼女の体はさらに巨大化していった。
どんどん大きくなっていく彼女の足はそこらへんにある車やビルを押しつぶし破壊していく。
さらに巨大化しつづけるナリス。
次第に彼女が立っている地面はその重みに耐え切れず亀裂がいくつにも広がっていき、
体重を支えきれないのか地面がさらに100メートルほど陥没し始める。

『はぁはぁはぁ・・・・・』

ナリスの巨大化が止まったころには彼女の身長は1500メートルに達し、遥か高高度を飛んでいた艦載機隊すら見下ろせてしまうほど大きくなっていた。
ナリスはさっきは一方的に攻撃してきた艦載機隊を見下ろしながら腰に手を当てて勝ち誇ったように言い放つ。

『あなたたち、覚悟はできてるんでしょうね?私を本気で怒らせた事、後悔させてあげるからね!!』

ナリスはそういって一歩、一歩近づく。

ずどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんん!!!!

ずどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんん!!!!!!

彼女が歩みを進めるたびにこれまでとは比較にならないほどの揺れが大地を襲い、
何百という家やビルが彼女のパンプスによって踏み潰されていく。

「く、右翼隊は右舷より、左翼隊は左舷よりやつの顔面にミサイルを叩き込め!!」

ホワイトフォックス隊の大隊長は各隊の小隊長に指示をだす。

バシュバシュバシュバシューーーン!!!!

再び数百のミサイルがナリスに向かって一直線に飛んでいく。

『ふん、そんな小さなミサイルが私に通じると思っているのかしら?』

ナリスは大きく息を吸い込むと飛来するミサイルに対しおもいっきり息を吹きかけた!

『ふぅぅぅーーーーーー!!!!!』

ナリスが起こした突風はミサイルの群れを軽く吹き飛ばし、離脱しようとしていたホワイトフォックス隊も彼女が作り出した乱気流に飲み込まれ、コントロールを失い仲間同士で激突したり失速し墜落していった。

「く、くそっ、生き残ったやつは俺についてこい!一度体勢を立て直す!」

かろうじて生き残った十数機は大隊長の指示で距離を置く為に最大加速で一斉に離脱を開始する。

『逃げようとしたって無駄なんだから!!』

ナリスは逃げようとする戦闘機を巨大な手で握りつぶしたり叩き落して撃墜する。
数機を両手で一気にで挟み潰したりもした。
戦闘開始からわずか5分でホワイトフォックス隊は全滅した。

『さて、目障りなハエたちは落とした事だし今度はあなた達の番ね!!』

ずどぉぉぉぉぉんんん!!!

ずどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんん!!!

再びものすごい地響きを立てながら、ものすごいスピードで艦隊の真上までに近づくナリス。

『どうしたの?攻撃しないの?しないならこっちから仕掛けるよ?』

笑顔で彼等を威嚇するナリス。しかし彼女の体からは明らかに怒りオーラが全快で噴き出ていた。

再び主砲の一斉射撃が開始されるが攻撃はナリスのお腹のあたりまでしか届かずまったく効いていなかった。

『そんな攻撃痛くもかゆくもないわ。今度はこっちの番よ!』

ナリスは前屈みになり艦隊の前面に展開していた戦闘艦に手を伸ばす。
標的となった戦闘艦は慌てて逃げようとするが、その巨体には似合わないほどの俊敏さについていけずあっという間に彼女の胸の高さまで一気に持ち上げられていった。
彼女の巨大な手に掴まれながらも生きている火気で全力で攻撃する戦闘艦であったがすべて彼女の童顔には似合わない豊満な胸に弾かれてしまっていた。

『こんなに小さいくて弱いくせに私の大事な宝物をボロボロにしたんだ・・・』

ナリスは更に怒りが込み上げてきた。

『あななたちは、見せしめとしてこのまま握りつぶしてあげるわ。』

そう言うとナリスは戦闘艦を握っている手に少しずつ力を加え始める。

ミシミシ、メキメキメキッ!!!

鈍い金属音をあげながらいびつな形に変形していく船体。
仲間を助けようと他の艦から主砲やミサイルが全力で放たれていたが
ナリスはまったく気にとめず更に力を加えていく。
乗務員たちは我先にと艦の外に逃げようとするが通路の壁に挟まれて潰されたり、
崩れた天上の下敷きになったりして絶命した。
運良く外に出られた人もいたが地上1200メートル近くまで持ち上げられている
手のひらの上から逃げることはできるはずもなく艦ごと手のひらの中で潰されていった。
ナリスは最後にグッと手に力を入れ握りこぶしを作った。
そして、ゆっくり手を開いてみる。
そこにはまるでアルミホイルをクシャクシャにしたような鉄の塊と潰れた小人の血痕がこびりついていた。

『どうかしら?私の力、少しは分かってもらえた?』

ナリスは薄笑いを浮かべながら手のひらを返す。

地上に向けて一直線に落下していく鉄の塊は地面に激突しそのまま爆散した。

『さぁて、次はどの子にしようかな〜♪』

さっきまでの怒りはどこえやら、完全にいじっめっこモードに入ってしまったナリス。
もはや彼女にとって艦隊などストレス発散のためのおもちゃでしかなかった。
ナリスは他の艦に手を伸ばしグーの手で上方から叩き落したり、平手で数隻をまとめて吹き飛ばしたりて攻撃を加えていく。
残存艦隊は諦めずに全力で攻撃していたが遂にエネルギーと弾薬が底をつき攻撃も止んでしまう。

『あら?遂に力尽きちゃったのかしら・・・。じゃあしょうがないよね、うふふ』

残存艦は全力で逃亡を試みるが彼女の手に簡単に捕まりエンジン部分を引きちぎられ地面に並べられていく。

『じゃあ、あなたたちは私のおしりで潰してあげるよ♪せーーーの!!!!!』

ずっどぉぉぉぉぉぉぉんんんんんんんん!!!!!!!!!

ナリスはその巨大なおしりで数隻の戦闘艦をまとめて地面にめりこませた。

ナリスは再び立ち上がると最後に残った彼女に背を向け撤退を試みる旗艦<ルピナス>に手を伸ばした。



前衛艦隊旗艦「ルピナス」メインブリッジ

どぉぉぉぉぉんんんん!!!!!

彼等の乗る艦の船体が大きく揺れた。
ナリスはの右手でルピナスの船体を掴むと自分の目の前にもってくる。
と同時に外壁には無数の亀裂が走り、次の瞬間には4本の肌色をした柱のような物が
ブリッジの天上を貫いて折れ曲がり張り付く。
同時に凄い力がかかっているのだろう。
無数の亀裂が広がり、メリメリと鈍い音を立てながら引き剥がされていった。
そこにいる全員が恐る恐る上空を見上げるとそこには巨大なナリスの顔があった。

『うふふ、最後まで残しておいてあげたあなたたちは艦ごと抱き潰してあ・げ・る♪』

ナリスの強大な声量に底にいる誰もが耳を塞ぐ。

「う…、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

するとブリッジにいた一人の兵士が悲鳴を上げながら逃げ出した。

その言葉を合図にブリッジにいたほとんどの兵士たちは我先にと脱出艇に向かって逃げ出した。

今やブリッジに残っているのは、ガイナル、桐生、彼の側近である葉山少佐のみであった。

『あらあら、逃げ出したところで無事脱出できると思っているのかしら?』

クスクスと微笑するナリス。

「君は、逃げろ」

そんな彼女の様子にすべてを悟ったのか、桐生は葉山少佐に語りかける。

「い、嫌です!私は指令と運命をともにします!」

「だめだ!これは命令だ!!」

「っ…」

彼に罵声され、一瞬戸惑った葉山少佐であったがそれでもその場を動こうとしなかった。

「(彼女はまだ若い…、こんなところで死なせるわけにはいかない…)」

桐生はもう一度彼女を説得しようとしたがその言葉はガイナルの次の言葉に遮られた。

「その必要はない…」

ガイナルは余裕の表情で彼のほうに薄笑いを浮かべながら向き直る。

「どういう意味だ?」

「分からないのかね?今更脱出したところでどうせ間に合わんという意味でいったのだが?」

「なんだと…きさま!」

桐生がガイナルを睨み付けながら詰め寄ったそのときであった。

ビーーーーーーーーーッ!ビーーーーーーーーーッ!ビーーーーーーーーーッ!

大音量の警告音がメインブジッジ全体に鳴り響く。

「な、なにが起こった!?」

同時に葉山少佐がオペレーター席のパネルを操作しながら叫ぶ!

「し、指令!お、大型ミサイルです!」

「な…、貴様…まさか最初からこのつもりで!」

「はっはっは、君の想像通りだよ桐生君。まもなくこの空域にプロトンミサイルが着弾する手筈になっていたわけだ」

「な、プロトンミサイルだと!!」

プロトンミサイル。

それは水爆の1万倍の威力を誇る核弾頭ミサイルで着弾すれば周囲500kmは確実に消滅するほどの

威力を持つ。そんなものが炸裂したら東京は愚か関東一円は一瞬で死滅するであろう。

「ガイナル!きさま・・・、日本国民を犠牲にすりつもりか!!」

「大きな大儀をなす為には多少の犠牲は付き物だ。犠牲になった国民には連邦名誉賞が送られるであろう」

「ばかな!こんな至近距離で爆発すれば貴様の艦隊とて無事では済むまい!」

「はっはっは、我が艦隊はすでに超電磁シールドを艦隊周囲に展開している。残念だったな、桐生指令」

「くっ…」

「では私はこの辺で失礼するよ。君たちの最後の忠義に感謝する。では、さらばだ」

その言葉を最後にガイナルの姿は跡形もなく消えてしまっていた。

「クソッ!」

桐生は拳を壁に殴りつける。

(もう、この状況を打破するにはこの手しかない……)

桐生はナリスの顔がある方に顔をむけ大声で叫ぶ。

「頼む!私の話を聞いてくれ!!!」

その声にナリスの大きな瞳は彼の方に向く。

その少し怒りの入った威圧的な視線におもわず一歩下がってしまった桐生であったが、

その場によつんばで座り込むと彼女に顔を向け必死に訴える。

「勝手な頼みであると言うことは従順、承知している。だがもう君しかいないのだ!頼む!ミサイルを破壊してくれ!!」

『あなた、随分と勝手なことを言ってるわね。あれだけ攻撃しておいて、おまけに私の大事な服もボロボロにしたくせに。そんな勝手な言い分が通ると思っているの?』

「ま、まってください!指令は悪くないんです!」

そういって彼の前に出てきたのは副官の葉山少佐。
彼女は軍に入ってから5年近くも桐生に付き添いずっと副官を勤めてきた人物であった。
男である桐生ですらナリスの前に出てくるのはかなりの勇気が必要だったというのにまして彼女は女性だ、怖くないはずがない。その証拠に彼女の足はまるで痙攣を起こしているかのようにガクガクと震え、体も小刻みに震えている。それでも彼女はナリスの顔を正面に捉え必死で訴える。

「し、指令は最初からあなたに攻撃する事ををためらっていました。それはたぶん、指令にも同世代の娘さんがいらっしゃるからだと思います。指令にとっては、あなたがどんなに大きくても女の子なんです!私たちと同じ人間なんです!!だから指令は話し合いで解決しようとしていたんです…。でもあの男が……」

言葉につまり目にいっぱいの大粒の涙を浮かべその場に泣き崩れる葉山少佐。

「葉山君、もういい…、もういいんだ…、ありがとう…」

桐生は泣き崩れる彼女の方をそっと抱きながら優しく介抱する。
その様子をだまってしばらく見ていたナリスであったが、一度ふか〜くため息を吐くとその大きな口を開く。

『はぁ、もういいわ・・・』

「え?」

『その人に免じて、特別に今までの事水に流してあげるわよ』

「そ、それじゃあ・・・」

『ミサイルは私が破壊してあげる』

「ほ、本当か!」

『ええ、だから飛んでくる方向を教えてくれる?』

「あぁ、わかった。ミサイルの現在位置は?」

「は、はい!目標は南東方向より接近しています。着弾まであと5分です!」

『南東っていうとこっちね』

ナリスはミサイルが飛来するであろう方向にゆっくり体を向けていく。

『少し揺れるわよ』

ナリスは米粒なみに小さい彼らを器用に手の平の上に乗せるとそのままゆっくりと左手を閉じていく。

「う、うわぁぁぁ」

「きゃあああああ」

自分たちに迫って来る巨大な指に思わず悲鳴を上げた三人であったが、その指が彼らを潰すことは決してなく、彼らを護るように周囲を取り囲んでいた。
ナリスは右手に掴んだ空母を無造作にその辺に置くと腰を少し低くして身構える。
その様子を桐生たちはその様子を指の隙間から息を飲んで見守っていた。
ナリスに向け一直線に飛来するミサイル。
ナリスは飛んきたミサイルを器用にかわすとそのまま衝撃を与えないように右手の中に包み込み手を閉じる。

『よし、捕まえた!あとは、これを・・・・・ふんっ!!!!』

ナリスはミサイルを包んでいる手に一気に力を込める!!

ちゅっどーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!!!!!!!!

凄まじい爆発音とともに彼女の手の中で核爆発が起きる。

『熱っ・・・・』

ナリスは少し顔を歪める。それもそのはず、彼女の手の中は数万度という高温にさらされているのだ。
常人なら一瞬で蒸発してしまうであろう。彼女の巨体と肉体強化の効力をもってはじめて成せる荒業なのだ。

『もう、だいじょうぶかしら・・・・』

手の中も落ち着き始め指の隙間から出ていた煙も収まってきたのでナリスは自分の手を少し広げて中を確認する

『うん、もうだいじょうぶみたいね・・・・』

ナリスはゆっくり手を開く。手の中にはなにも残っていなかった。

おそらく爆発時の高温でミサイルの破片はすべて溶けてしまったのだろう。

ナリスは左手を広げると少し不満そうに桐生たちに話しかける。

『約束どおり、ミサイルは破壊してあげたわよ』

「すまない、本当にありがとう」

桐生は、ナリスの前に顔を向け深々と頭を下げた。

『べ、別に礼なんていらないわ。たまたま・・・、そう、たまたま気が向いただけなんだから!』

心から感謝を受けたことが今までなかったのであろう。

ナリスは真っ赤になって慌てて彼等から視線を逸らした。

『でも、私って嫌な女ね・・・』

「え?どうしてそんな事を言うのですか?」

彼女の呟きを疑問に思った葉山少佐がナリスに問いかける。

『だって、そうでしょ?あれだけ人を殺しておいて、今は正義の味方面してるのよ。

 あなたたちが私と同じ人間なのも忘れて暴れて、壊して、最低ね・・・、私・・・』

ナリスの脳裏に幼いころ母親と話した風景が蘇る。



それは、今から10年前、ナリスがまだ8歳のころであった。
ナリスは母親とよく遊びにくる公園のブランコに乗って遊んでいた。
すると彼女の横で自分よりも小さい女の子がいかにもブランコに乗りたそうな顔で人差し指を加えながらナリスの事をじっと見つめていた。
ナリスはブランコを漕ぐのを止めるとその女の子に問いかける。

「乗る?」

こくん、と無言で頷く女の子。

「あ、ありがとう。おねえちゃん…」

かろうじて聞こえるほどの小声で女の子はナリスに礼をいうとブランコを漕ぎ始める。
ナリスは母親の方に走って戻っていった。
自分の元に戻ってきたナリスを見つめながら彼女の母親、アナーシャは自分の娘に問いかける。

「ねぇ、ナリス」

「なぁに?ママ?」

「なんで、ブランコの順番を代わってあげたの?」

「だって、ナリスの方があの子よりお姉さんだもん!」

「ふふ、偉いのね、ナリスは」

「そ、そんなことないもん!ふつうだもん!」

「ナリス…」

「?」

「あなたの、その優しい心、どんなに大きくなっても忘れちゃだめよ」

「はーい」

「じゃあ、お母さんとの約束ね」

「うん、約束!」

「「ゆ〜びきりげんまん、う〜そついたらは〜りせんぼんの〜ます♪ゆ〜びきった♪」」




ナリスは母親との約束を思い出していた。

(ごめんなさい、お母さん・・・、私、約束やぶちゃった・・・)

彼女の目に再び大粒の涙が浮かぶ。

「そんな事は無いと思うぞ」

『え?』

桐生の意外な言葉にナリスは自分の心を見透かされたと思い、目に涙を浮かべながら彼の方に向き直る。

「確かに、君がしたことは許されることではない。だが君のおかげで多くのの命が救われたのも事実だ。
 あのミサイルが命中していたら今とは比較にならないほどの死傷者がでいたのだからな」

『そ、そんな気休めの言葉なんて要らないわ!』

少し強めに彼に抗議するナリス。

「信じられないというなら、君の周囲の光景を見てみるといい」

『え?』

ナリスは腰を低くし、振動を与えないようにゆっくりとしゃがみ込んだ。
ナリスの周囲の市街地では無事だった人々が身近なひとたちの抱き合い、歓声を上げていた。

「君にも聞こえるだろう?彼らの歓声が」

『・・・・・』

ナリスは黙ってその光景を凝視していた。

「あの光景を見る限りでは彼らは君に深く感謝していると思うがね…」

「まぁ、全員がそう思っているかと聞かれれば嘘になるが、もうちょっと自分に誇りを持ってもいいんじゃないか?」

『そうね・・・、ありがとう、おじさん』

ナリスの顔に少しだけ笑みが戻る。

「そういえば、手はだいじょうぶなのか?」

『え?ああ、だいじょうぶよ。ほら、この通り』

そういって彼等の頭上に自分の右手をかざす。

手の表面は少し黒い煤のようなものがついていたが火傷とかはしていないようだった。

『心配してくれたの?』

「ま、まあな」

『あなた、変わってるわね』

「よく言われるよ」

苦笑しながら答える桐生。

『でも、あなた見たいな人、嫌いじゃないわ』

ナリスは少しはにかみながら笑顔で彼に微笑んだ。

「ところで君の名前はなんていうんだ?」

『ああ、そういえば言ってなかったわね。私はナリス』

「いい名前だ、私は桐生、桐生隼人だ。よろしくな」

『こちらこそ、よろしくね』

「あの…」

桐生とナリスが話していると葉山少佐が二人の間に入ってくる。

「ああ、葉山君か」

「はい、指令。先ほどはご迷惑をお掛けしました」

「それと、ナリスさん。こんな私の言葉を信じてくれてありがとうございました」

そう言うと葉山少佐は再びナリスに向け深々と頭を下げる。

『もう、わかったから頭を下げるのはやめて、なんか調子狂っちゃうわ・・・』

『でもなんで私の名前を?』

「あなたと指令との会話、聞こえてましたので」

『そう・・・、ねぇ、あなたにひとつ聞きたいことがあるんだけどいいかしら?』

ナリスは顔を葉山少佐の方に向けると少し気まずそうに質問する。

『あなたって、この人の事好きなの?』

ナリスは桐生の頭上に人差し指を持ってくるとそう彼女に質問した。

「えっ…、な、なにを言ってるんですかナリスさん!」

誰が見ても図星といわんばかりの真っ赤な顔でフルフルと顔を振る葉山少佐。

その態度にナリスは思わず笑ってしまった。

「そ、それに指令にはメリッサさんという綺麗な奥様が…、あっ…」

しまった。という顔で慌てて口を塞ぐ葉山少佐。

「す、すいません…」

「いや、いいんだ。気にしたいでくれ…」

『ちょっと、なにしんみりなってるのよ?』

「私の妻は、2年前に反連邦組織の自爆テロに巻き込まれてな…」

再び流れる重い空気。

『あーーーっ、やめ!やめーーーー!!!!』

「うぉっ」

「きゃっ」

いきなりの不意打ちの一喝を食らい、慌てて耳を塞ぐ桐生と葉山少佐。

「い、いきなり大声を出さないでくれ…。鼓膜が破れるかとおもったぞ…」

『せっかく明るい雰囲気になったのに暗い話をするのがあなたが悪いのよ』

「わ、私が悪いのか…」

「いえ、指令は悪くありません!悪いのは家族の話題を出したこの私で…」

『まぁ、別にどっちでもいいけど、あなた、チャンスじゃない』

「チャンスってなにがですか?」

『好きなんでしょ?彼の事』

「だ、だからそんなんじゃないんですってばぁぁぁ…」

『なに謙遜してるのよ?じゃなきゃ女の子が私の前に来て意見するなんてできるわけないじゃない、そんなの あなたのあの時の態度を見れば分かるわ。守りたかったんでしょ?彼の事』

「そ、それは…」

モジモジしながら顔を赤くしてチラチラと桐生の顔を伺う葉山少佐。

『だいたい、桐生も桐生よ。ここまで好き好きオーラだしていたらふつうは気づきそうなものだけど?』

「す、すまん…」

『部外者の私がこんなこと言うのもなんだけど、あなたたちがお互いに死んだメリッサさんに遠慮してるんだったら、それはまちがいよ?
人は死んだらいつか過去の人間になってしまうわ…。
でもね、自分の事を大切に想ってくれる人の心の中でその人はずっと生きていられるの。
私のお母さんだってそう・・・。
だから今生きている人間が過去に囚われたままじゃだめだと思うわ。
その人の分まで幸せにならなくちゃだめなんだって私は思うの・・・。
きっとメリッサさんもそれを望んでいるはずだから・・・』

ナリスの顔にはまたうっすらと涙が浮かんでいた。大好きだった母親の事を思い出してしまったからだ。

『って、私がしんみりした話してどうするのよ!』

ナリスはいつもの口調にもどると指で涙を拭き取る。

「君は大人だな…」

『あなたたちが子供なの!』

「はっはっは、そうだな。葉山君、すまなかった…随分と辛い思いをさせてしまっていたようだな…」

そう言いながら、葉山少佐の方に向き直る桐生。

「いえ、そんな事…んっ…」

桐生は彼女に一歩近づくと彼女の唇に自分の唇をやさしく重ねる。

不意打ち的なキスに葉山少佐は目をまんまるく見開き、そのまま固まってしまった。

『ふーん、やるじゃない』

その光景を微笑ましく見守るナリス。

「し、指令…」

「これからも私と一緒に歩んでくれるか?」

「も、もちろんです!」

再び抱き合う桐生の葉山少佐。
その光景を見ていたナリスは自分の心の中が暖かくなるのを感じると心のなかでお幸せにと呟くのだった。

バキューーーーーーン!!
バキューーーーーーン!!!
バキューーーーーーン!!!!
バキューーーーーーン!!!!!

次の瞬間、ナリスに向かって無数のビームが飛んでくる。

そのうちの一発が桐生たちが乗っている手の平に向かって飛来する。

『あぶない!』

ナリスは慌てて彼らの前に右手をかざす。飛来したビームはナリスの手の甲に阻まれ別方向に弾かれた。

『もう、なによいきなり…』

「どうやらガイナルの艦隊が動き始めたようだな…」

『ガイナルってあなたたちをはめたあのちょび髭じじいの事よね?』

「ああ、おそらくミサイル攻撃が失敗したことで自棄になっているのだろう…」

『丁度いいわ。私もあのじじいに話があったの』

ナリスはそう言うと、左手を極力衝撃を与えないように右手で彼らを護りながらゆっくり地面に向かって下ろし始める。やがて彼女の手が地面につくとナリスは桐生たちに自分の手から降りるように促した。

『降りたらなるべく遠くまで逃げてくれる?巻き込みたくないから』

「わかった。君も無理はするなよ」

『誰に向かっていってるのよ』

ナリスは微笑みながら彼に反論する。

「そうだな。愚問だった」

苦笑する桐生。

「あの、ナリスさん!」

『ん?どうしたの?』

「この戦いが終わったらまたお話しましょうね」

『・・・・・』

正直に言うとナリス自身はこの会話を最後に彼らと別れるつもりでいた。
せっかく両思いになった彼らを巻き込みたくなかったからだ。
しかし、最後にかけられた言葉にナリスはうれしさが込み上げてきて思わず潤んでしまった。

『ふ、ふん、覚えていたらまたお話してあげるわ』

涙を浮かべてる顔を見られるのがはずかしかったのか顔をそむけ、素っ気無い返事をするナリス。
その言葉を最後に、言われた通り桐生と葉山少佐は走ってナリスから離れ始める。
その様子を確認したナリスはゆっくり立ち上がるとガイナルの艦隊の方に向き直る。

『さて…、あいつらにきつーいお灸を添えてあげるとしますか』






3話へと続く…