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注意:
この作品はSF巨大娘物です。実際に登場する人物、団体は一切関係ありません。
どこかできいたような兵器や演出もでてきますが、それらを含めて許せる方のみ閲覧ください。
なお、今更ですが話に出てくる人物の体の大きさを区別のために下記のように分類わけしております。
また、場面切り替えの目印として私の尊敬する作品を参考に*を使って実験的に区切ってみました。
慣れるまで読みにくいかもしれませんがご協力をお願いいたします。

『』・・・主に巨人サイズの登場人物またはあとから巨大化した人物の会話シーンに使用(一部例外あり)
「」・・・主にノーマルサイズの登場人物の会話シーンに使用
()・・・主に登場人物の心の声で使用
<>・・・その他の音声会話等に使用


以上、つまらない補足失礼しました。では本編の方をお楽しみください。




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女神黙示録 第4話 「破壊神の目覚め」




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地球統一連邦領域 経済特区日本 東京上空 ヴァルヴァロッサ型浮遊機動要塞
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ナリスは破壊本能のままにほぼ無人と化していた市街地を襲っていた。
現在ナリスがいる周辺はほぼ住民の避難が完了しており、人的被害はほとんどなかったがそれでも彼女の下にある家や小さめのビルは粉々に踏み砕かれ、彼女と同じくらいの高さのビルは抱きかかえる様に、自分の腕ををゆっくり絡めていき、巨大な胸をビルに押し付け、足を絡めながら倒壊してさせていく。
ナリスの動きは操られる前と比べるとかなり緩慢だったが、その被害は確実に悪化と一途をたどっていた。

ギニアスは自分のイスに座りながらその様子を満足そうに見ていたが、ふとなにかを思い出したように席を立つ。

「少し地上に出てくる。僕が戻るまで指揮は頼んだよ、テーダ」

「はっ!」

ギニアスはマントをひるがえしながら、外に向かって歩いていく。

「あの地球人たちは僕の計画の大きな障害になりそうだから、早めに消しておくとしよう…フフフ…」

ギニアスは腕の端末を操作する。すると彼の体は消え、次の瞬間にはナリスの肩の横に現れた。
そしてナリスの目の前に来ると巨大な立体映像を開くギニアス。
その画面には、首都高を赤いオートバイでひたすら走る桐生と葉山少佐の姿が映し出されていた。

「さぁ、ナリス。この二人が見えるかい?今度はこの2匹の虫けらたちと遊んでおやり」

『ご主人様の・・・お望みのままに・・・』

ギニアスはナリスの肩に手を置き、腕についた端末のようなものを再び操作する。
するとさっきまで東京にいたはずのナリスとギニアスの体は空気にとけるように消えていった。



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地球統一連邦領域、経済特区日本、神奈川県 首都高湾岸線
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「随分、遠くまできましたね」

「そうだな、この辺りは交通規制こそひかれているがまだ被害は少ないみたいだ」

「あの…指令…こんな時に、不謹慎だと思われるかも知れませんが…私のお願い聞いてくださいますか?」

「無茶な要求でなければな」

その言葉に彼女はモジモジしながら小声で彼の耳元に囁く。

「わ、私の事…その…渚って呼んでくれませんか…」

「なっ…」

「む…無理ならいいんです…!」

「いや、少しびっくりしただけだ。君さえよければ今度から名前で呼ぼう。その変わり私の事も名前で呼んでくれるか?」

「え?えぇぇぇぇ…、でも指令は指令ですし」

「なら、今の話はなしだな」

「分かりました……その…隼人…さん…」

「ああ、渚…」

ギュっと彼を抱きしめる彼女の力が更に少し強くなった。

「お、おい、あんまり強く抱きしめないでくれ…息が…」

「ご、ごめんなさい!」

慌てて力を緩める葉山少佐。

「じゃあ、ちょっとラジオで東京の様子を聞いてみますね」

「ああ、頼む。ナリスのことも気掛かりだしな」

葉山少佐はジャケットの内ポケットに入れているミニラジオのスイッチを入れ、イヤホンに耳を傾ける。

「え?そんな…、隼人さん!大変です!!」

彼の耳元で大声で叫ぶ葉山少佐。

「どうした?」

「東京付近いたナリスさんがまるで空気に溶けるように、突如その姿を消したそうです!」

「なっ…、それは一体どういう…」

ドガッシャーーーーン!!!!!

壮大な破壊音と共に、突如彼らの目の前に現れた巨大な肌色の柱が一瞬にして自分たちが走っていた高速道路を軽々と踏み抜いた!
桐生たちの目の前に無数の亀裂がどんどん広がっていく・・・。

「くっ…」

桐生は慌てて急ブレーキを掛けるがその反動で二人はオートバイから放り出されてしまった。
慌てて葉山少佐を庇い高速道路の壁に背中を打ちつける桐生。
葉山少佐は自分の事を庇ってくれた彼の顔を心配そうに覗き込む。
桐生は彼女に心配を掛けまいと、背中に走る痛みをこらえながら無理やり笑顔をつくる。

「大丈夫だ…心配するな…それより今のは…」

二人は恐る恐る顔をあげると、そこにはさっきまで東京にいたはずの彼女が高速道路を跨ぐようにそびえ立ち、桐生たちの姿を虚ろな目で静かに見下ろしていた。
しかし、彼女の行動はそれだけに収まらず、今度は彼らが立っているまだ辛うじて原型をとどめている高速道路の下に腰を屈めながら手をかけるとそのまま一気に持ち上げ始める。

ベキベキベキベキッ!!!

まさか巨人が道路を持ち上げるなんて設計者のだれもが想像しなかったであろう・・・。
ナリスの強大な力によって橋脚に無数の亀裂が入るとボロボロと崩れ落ちていくコンクリートに紛れてむき出しになった鉄筋が、まるで糸のようブチブチと引きちぎられていき、そそまま支えを失った高速道路の一部が周囲に響き渡る破壊音とともに、ナリスの腕に支えられ彼女の胸の中へと持ち上げられていく。
桐生は慌てて葉山少佐を抱きかかえると、とっさに廃タイヤが山積みさせている一角に20メートル近い高さから飛び降りる。そして葉山少佐を地面に降ろすと彼女の手を引き、必死にナリスと距離を置くために走り出した。

バキューーーン・・・

突如、一本のレーザーが葉山少佐の足を貫いた。

「あぐっ…」

葉山少佐がバランスを崩しその場に倒れこむ。彼女の足からはおびただしい程の血がドクドクと流れ落ちていた。
桐生はレーザーが飛んできた方を見ると、そこには真っ赤なマントをひるがえした青い顔の少年がこちらにレーザー銃にような物を向けてる。その特徴的な容姿を桐生はしっかり覚えていた。

「おまえは…」

「おや?どこかであったかな?」

「あんな登場の仕方をしておきながら、白々しい事を抜かすな!」

「ああ、それもそうだね、クククッ…、改めて自己紹介しておくよ。僕の名前はギニアス」

桐生の側では苦しそうに膝を押さえながら全身に汗を滲ませる葉山少佐の姿。

「なぜ、彼女を撃った…?」

「その方がおもしろいからに決まっているだろう。君ががんばらないと彼女は簡単にナリスに蟻んこのように踏み潰されちゃうけど?」

まるでゲームを楽しむようにケラケラと笑うギニアス。

「フフフ、僕はねぇ…とっても優しいんだ…。だから1分間だけ時間をあげよう。止血するなり、逃げるなりお好きにどうぞ」

桐生はただ無言で自分のシャツを引きちぎると彼女の出血が止まらない場所を少し強めに縛る。

「っ…」

足に走る激痛に顔を歪める葉山少佐。

「立てるか?」

「は…い…だいじょうぶ…です…」

「よし、俺の背中に乗れ」

「だ、だいじょうぶですから…自分で…」

「いいから早く!」

こんな時まで遠慮する彼女を強引に自分の背中に背負いゆっくりと立ち上がる桐生。
そして懐に手を入れながら静かにギニアスの方に向き直る。

「ギニアス…」

「ん?なんだい?もうあと10秒しかないよ?早く逃げたほうがいいんじゃないかな?」

「ああ、勿論逃げるさ…、だがその前に礼をとおもって…な!」

ダーーーーン・・・

銃声がこだまし、ギニアスの頬を一発の弾丸がかすめ、その頬から緑色の血が流れ出す。
ギニアスは思わず頬に手をあて、自分の血を見ると歯をギシギシいわせながら大声で叫んだ!

「この…虫けらがぁ!よくも僕の顔に傷を!!!」

その言葉を合図に桐生はギニアスから放たれるレーザーを器用にかわし、全速力で走り去っていく。

「ナリス!追え!!逃すな!!!」

その言葉に桐生たちをずっと視線に捕らえていたナリスは抱えていた道路を真っ二つにへし折り、ギニアスの指示通り彼らを追いかけ始める。




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地球統一連邦領域、経済特区日本、神奈川県 ○×市 某市街地
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ズシーン、ズシーーン!、ズシーーィン!!ズシーーーィン!!!

(くそ…足音が近づいてくる…)

はぁはぁと息を切らしながら葉山少佐を背中に抱え懸命に逃げる桐生であったがその距離が広がる事は決してなく、逆に少しずつ確実に縮まっていた。それもそのはず、彼とナリスのの歩幅は雲泥の差があるのだ。
まるで蟻が人間から逃げようとするようなもの。振り切れるわけがない。
ついに桐生たちの目の前に巨大なパンプスが振り落ろされる。

ドズーーーーーン!!!!

「う、うわっ!!」

「きゃ…」

ナリスが大地を踏み抜いた衝撃で吹き飛ぶ二人の体。
やがて、巨大な影が彼らを照らしていた太陽の光りを遮る・・・。

「よく逃げたけど、どうやらここまでの用だね」

ナリスの横で宙に浮きながら冷静さを取り戻したギニアスがクスクスと笑いながら二人を見下ろしている。

「ナリス!目を覚ますんだ!!」

「そう…です…そんな男の…いうことなんて…聞いては…ダメです!気を…しっかり…持ってください!!」

『・・・・・・』

「無駄だよ、そんな事で洗脳が解けるわけがないだろう?さぁ、ナリスよ…、その虫けらをまとめて踏み潰してしまえ」

『はい・・・ご主人様・・・』

ナリスはギニアスの指示通りゆっくり桐生たちの頭上にその巨大な足を降ろし始める。
ゴオオオオオ・・・、という轟音の共に彼女の赤い靴底が急速に迫ってくるのを眼のあたりにした二人は思わず顔を背けた。
そしてナリスの靴底があと5cmと迫った、その時であった・・・。
自分たちを踏み潰そうとしていた靴底がピタリと止まり、そのまま停止する。
二人はいつまでたっても自分たちを襲ってこない圧力に疑問を抱き、ゆっくりと顔をナリスの方に向ける。

「ナリス…おまえ…」

桐生はぽつりと呟いた。
ナリスは生気を失った大きくて綺麗な蒼い瞳から涙を流していた。

「ナリ…ス…さん…」

葉山少佐は胸に手置き、足に走る鋭い痛みに耐えながらナリスに懸命に話しかける。

「ナリスさん…私です…分かりますか…!」

桐生もまた彼女に向かって叫ぶ!

「もどっこい、ナリス!おまえの居場所はそんなところじゃないだろ!!」

その言葉にナリスの全身がフルフルと震え出す。

「ナリス!何をしている!さっさとその虫けらを踏み潰せ!!」

ギニアスは怒り混じりの口調でそう言い放つとナリスに命令する。

『い・・・や・・・』

「なに?」

彼女の予想外の返答に思わずあっけに取られるギニアス。

『いや・・・』

「ナリス!おまえ…僕の命令が…」

『いやあぁぁぁぁぁ・・・!!!!!』

その大声と共に頭を抱え、その場で悶え苦しむナリス。
そして彼女の巨大なパンプスが桐生たちのすぐ横を踏み抜いた。

ちゅっどーーーーーーーーーーん!!!!!

ナリスがその巨大な足で踏み抜いた所には首都高から落下した数十台の車が無雑作に積み上げられていた場所だった。
そして落下した車の車内にはまだ多くの人が取り残されていた。
彼らはうめき声をあげながら、くる筈もない救援隊に向かって必死に助けを求めていたが、ナリスがそこを踏み抜いた事で辛うじて生きていた人たちも車もろとも大地に深くめり込み、一瞬で絶命した。
そして、積み上げられていた車の群れを踏み抜いた反動でタンク内に残っていたガソリンが次々と引火し、辺りは爆炎と黒煙に包まれ大爆発を起こした。
その状況をナリスの横でみていたギニアスは満足そうに大声で笑いながらその様子を見つめていた。
さすがに死んだだろうと確信したギニアスだったが、爆発の直後に聞こえた声の主によってその予想は大きく外れる事となる。

『ふぅ、ギリギリセーフですぅ〜』

その声に思わず目を開ける桐生。
すると桐生たちは白いバリアジャケットに袖を通した自分たちの胴体と同じくらいの太さがありそうな腕に支えられていた。
桐生が顔を上げるとそこにはピンク色のセミロングの髪と、頭の上に猫のような耳とお尻にしっぽが生えた少女が自分たちを見つめていた。

「ん…」

しばらくすると葉山少佐も目を覚まし、彼女の視線に気がつくと思わず悲鳴をあげてしまった。

『ちょ〜っと〜、そんなに怖がらないでくださいよ〜、私、怪獣じゃないんですからぁ・・・』

桐生たちは驚きを隠せなかった。
それもそのはず、自分たちを人形のように支えているその少女は自分たちよりも遥かに大きかったのだ。
身長はおよそ15メートルほどだあろうか。その少女はなにかに気づくと葉山少佐に再び話しかける。

『あ、あなた足から血が出てますよ。ちょっと見せてくださいね・・・』

その巨大な少女は彼らを支えている腕とは逆の手で葉山少佐を優しく掴み直し、自分の顔の近くに彼女の傷ついた足を持ってくると、大きなピンク色の唇で巻かれている包帯を器用に解き、赤々とした舌で血が滴る場所を一舐めする。
するとその場所か淡い緑色に光り、傷口はあっという間に塞がってしまった。

「うそ…」

葉山少佐はびっくりして自分の足をまじまじと見たが足には痛みどころか傷痕など、どこにもなかった。

『えへへ、これでもうだいじょうぶですよ♪』

そういうと巨人の少女は再び彼女を元いた腕の中へ戻す。
その様子を見ていたギニアスは突如現れた巨人の少女についている胸バッチを見つめながらバツが悪そうに舌を鳴らす。

「宇宙管理局め…もう嗅ぎ付けてきたのか…、こうなったらマインドコントロール装置の出力をあげてナリスを無理やり…」

「させません!ディメンジョン・バスターー!!」

「なに!?」

慌てて紫色のビームを回避するギニアス。

「もう一人いたのか…」

「ギニアス・ギガント、貴方を宇宙管理法第78条、惑星侵略禁止法違反及び、第23条、無許可での生体実験禁止法違反で逮捕・拘束します」

「冗談…、こんな所で捕まるわけにはいかないね!」

ピピピッと電子音が彼の腕付近から響くと同時にギニアスの体は消えてしまった。

「逃げられましたか…、とりあえず今は彼女の方を優先するとしましょう」

疾風のように現れ、黒いバリアジャケットに身を包んだその女性はナリスの方を見つめる。

『あぁ・・・、あぐっ・・・』

突如、ナリスは急に力が抜けたように膝をつき、前のめりで倒れはじめる。

ズズーーーーーーーーーーーーーンッ・・・・。

轟音とともにいくつもの家やビルを巨大な胸で次々と押しつぶしながらナリスはうつ伏せの状態で倒れ、そのまま気を失ってしまった。


**************
ナリスの心の闇
**************


「ここはどこ…?」

ナリスは周囲を見渡すがあたりにはなにもなく、ただただ暗く広いだけの空間が広がっていた。
その空間に彼女は全裸で一人立ち尽くしていた。

「ここは、あなたの心の闇の中よ…」

その冷たい感じの声にナリスは『はっ』と我に返り、後ろを振り返る。
するとそこには目の色と髪色こそ違っていたが、自分にそっくりの少女がただ静かに・・・、そして僅かに微笑しながらナリスの事を見つめていた。

「誰!?」

「私は、あなたの心の闇の中に取り憑いていた世界を無に返すためだけの絶対無比の破壊神…。そうね…、名前は…アリスとでも名乗っておくわ…」

「破壊神ですって?あなた、私を馬鹿にしてるの?」

まったく信じられないといった様子でお腹に手を当て笑いながら彼女の言葉を否定するナリス。

「ねぇ?あなた、アンゴルモアの大王って知ってる?」

「あっはは…は…、えっ?」

そんなアリスの言葉に彼女の笑い声はピタリと止まる。
思わずナリスは『あっ』となにかを思い出したかのように口を塞いだ。

「ふふふ、その顔、なにか思い当たる事があるみたいね…」

「そ、そんな……まさか私が公園にいた時に現れた…あの時の光…」


それは彼女の大好きだった母親が亡くなってから数ヶ月たったある7月の事であった。
それがきっかけとなり影のある素直になれない意地っ張りな性格なってしまったナリス。
それからというもの、彼女の周りからは友達といえる存在はほとんどいなくなり、同級生と衝突することなんて常茶飯事であった。
また両親がいない事をネタに苛めてくる同級生もいた。
楽しそうにショッピングをする親子を見て妬ましく思った事もあった。
そんなある日の夜、ナリスは一人公園の滑り台の上で一人寂しく天を仰ぎながら涙を流していた。

(なんで…なんで私だけ、いつもいつもこんな目に…!!!)

そう心の中で叫びながら彼女はふと想ってしまった。

『こんな世界なんか消えてなくなればいいのに』と・・・。

その時だった!
星が煌く夜空からなにか巨大な球体が、自分めがけて一直線に飛んできたのだ。
ナリスは慌てて階段を降り全速力で逃げだしたが、その球体はどんどん彼女との距離を詰めていきナリスの体に吸い込まれていった。

「きゃああああああ」

思わず倒れこみ、その場に気絶するナリス。
そして帰りが遅い事を心配し探し回っていた彼女の祖母がナリスの姿を見つけたのは、それから10分後のことであった。


ナリスは俯きながら脳裏に蘇るあの時の記憶を思い出し、アリスの方に向き直る。

「どう?思い出した?」

「ええ…はっきりとね…」

「そう…、それは良かったわ♪そうね、思い出したご褒美に言い事を教えてあげる。最初に大きくなった時に好き勝手暴れたでしょう?あれは私がやったのよ…」

「なっ…」

ナリスははっきり覚えていた。
巨大化したときの快楽からか、なんともいえない優越感とともに生まれた感情。
そして勢いで道にあった車を踏み潰し、道を陥没させ、バスを握りつぶし、中にいた一人の男性を指で潰したあの感覚・・・。

「驚きを隠せないみたいね。私もずっと貴方の心の闇の中で眠っていたけど、あの宇宙人があなたの体内に打ち込んだ薬を浴びたらなんか急に力が沸いてきちゃってね。それで目が覚めたの。あの薬には打ち込んだ生物の負の感情を増幅する効果があったのかもしれないわね。そうね…、私とあなたが入れ替わったのは大事なワンピースをボロボロにされた時ね。いきなり私の意識を押しのけて暴れだすからびっくりしたわ。それからはまた眠りについていたけど、あなたがあのコントロール電波に操られたおかげでまた目が覚めたってわけ…」

「………」

あれは自分の意思ではなかった・・・。そう思うとナリスは少しだけ気持ちが楽になった。
でも、元はといえばすべて自分の心の弱さが招いた事。だれか悪いわけでもない。
ただそういう運命だっただけ・・・。
ナリスはこいつにだけは、絶対に自分の体を渡してはならない!
そう直感的に感じ取った。

「私はね、実体がないの。この姿だってあなたの負を具現化させた姿にすぎないわ。ねぇ?痛かったり苦しかったりするのはもう嫌でしょう?あなたの体を私に頂戴…。あなたが…あのときに願った事、かなえてあげるから…」

自分の事を破壊神と名乗ったその銀髪の少女はそう言ってナリスに詰め寄る。

「だめ、絶対に渡さないわ!私はお母さんと約束したの!ずっと優しい子でいるって…。やっとあの頃の気持ちを取り戻せたのに、その約束を破るわけにはいかないの!!あなたこそ私の中からとっとと出て行きなさいよ!!!」

「嫌よ、私はこの力でこの星を私の玩具にするの。だから……、あなたこそ消えるといいわ!!!」

次の瞬間、反目で自分の事をずっと見つめていた彼女のルビー色の目がカッっと見開き、同時にアリスの体は急激に巨大化し始め、あっという間にその巨大な手でナリスを一瞬して掴むと強く握りしめる。

「う…、うあぁぁぁっっっ!!!」

『ふふふ、どう?痛いでしょう?苦しいでしょう・・・?』

「ぐっ…」

ナリスは生まれて初めて真の恐怖を覚えた。自分よりも圧倒的に大きく、強い存在に弄ばれる感覚。
こんな恐怖を私と触れた人全員が味わっていたんだと思うとナリスの心は強く締め付けられた。
きっと桐生たちもあの時こんな気持ちの中で、もしかしたらそのまま話も聞いてもらえず私に殺されるかもと思いながら、必死に訴えかけていたのかと思うと余計に彼らの事が愛しくなった。

『ふふ、今更自分がしたことを後悔しているの?心配いらないわ・・・あなたはもうすぐ消えるんだから・・・』

クスクスと笑いながら今度はナリスを胸の谷間に押し込み両手で自分の胸を左右から彼女の体を挟み潰すように締め上げる力を徐々に強くしていくアリス。

「あぁぁ、うぅ…、うあぁぁぁぁっっっっっ!!!!」

『あっははは、いい声で鳴くじゃない♪どう?自分が今までやってきた事を体で感じる気分は?』

「っ…」

『あら?もう声も出せないくらいに弱っちゃったの?つまらないわ・・・』

ナリスは全身に走る痛みに耐えながら必死に声を絞り出しアリスを説得しようと口をパクパクと動かす。

『なにかいいたそうな顔ね。そうね・・・最後だし、一応聞いてあげるわ』

「あなたは…なんで…地球を…玩具にするなんて…そんな…ひどい事を…」

『ひどい事?どの辺がひどい事なの?大きいものが小さいものを支配する。当然の事でしょ?それにこの星だけだけではないわ。もう自分でも覚えていないくらいの数の星を私は破壊してきたの。たまたまその矛先がこの星へと向いただけ・・・いわば運命なの』

「ちがうわ…大きくて…強い存在だからこそ…小さくて弱い物を…護らなきゃ…いけないの…よ…」

『そんなことをいってるからあんな貧弱宇宙人なんかに占領されるんでしょ?でも心配しないで。私はね、誰かに命令されるのが大嫌いなの。だからあいつらには悪けどすぐにこの世界から消えてもらうわ。そして、奴らを地球から一掃したら、今度は地球に住む人間たちに私が快楽を得るための玩具として働いて死んでいってもらえたら最高だと思わない?』

「あなた…どこまで…腐って…」

ギュウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

「あああああぁぁぁぁ!!!!!」

今の言葉が気に触れたのか・・・、アリスは再び胸全体でナリスの体を強く圧迫して締め上げる。

『ちょっと今のは、カチンときたわね・・・。ちょっとおしゃべりをしすぎたみたいだわ・・・』

アリスは胸に押し付けていた手を離すとナリスの体を固定していた豊満な胸は左右に大きく開き、支えを失った彼女の体はなにもない床に強く叩きつけられた。

「ゲホッゲホッ・・・」

ナリスは自分の口に手をあててなんども咳き込む。
その度に自分の手が真っ赤に染まっていくのが、朦朧とする意識のなかでもはっきりわかった。
次の瞬間、アリスの巨大な足がナリスの全身に覆いかぶさる。

ベキバキボキッ!!

一瞬にして彼女の骨という骨が砕け散り、ナリスは声にならない断末魔をあげながら彼女の足の下でもがき苦しむ。

『うふふ、いい音がしたわね♪』

アリスは少し足をずらし、虫の息のナリスを見ながら満足そうに微笑む。

『だいじょうぶよ、この体は私が大切に使ってあげるわ。安心してお逝きなさい』

アリスはトドメをさす為に自分の全体重をナリスの体にゆっくりとかけていく。
ナリスはその重みでほぼ意識を失いかけた状態のまま、自分の頭の中を生まれてから今まで彼女の周りで起きた思い出が次々と走馬灯のように駆け巡る。
彼女の母親・アナーシャの優しい笑顔、母亡きあと自分を女手ひとつで大切に育ててくれた祖母の姿、そして脱線しかけた自分の人生を必死に正してくれ大切な人たち笑顔。
ナリスの綺麗な蒼色の瞳からは大粒の涙が止まることなく彼女の頬を零れ落ちていた。

(私…死ぬんだ……。ごめんね…パパ…ママ…おばあ…ちゃん…み…ん…な…)

そこでナリスの意識は完全に途絶えた。
そして、ピキピキピキッという音と共に、彼女の体全体に無数のヒビが入った次の瞬間、ナリスの体はまるでガラス細工が割れるように粉々に砕けちり跡形もなく消滅した・・・。



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地球統一連邦領域、経済特区日本、神奈川県 ○×市 市街地
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「ナリス!」

「ナリスさん!」

ほぼ同時に二人は倒れたナリスに向かって叫んでいた。

「頼む!彼女の近くに私たちを連れて行ってくれ!」

桐生は自分たちを支えてくれている少女に必死に訴える。

『え〜、だめです〜。危ないですよぉ〜』

困り顔で首を横にふる少女。

「私からもお願いします!彼女は私たちの大切な友人なんです!」

『う〜ん、困りましたねぇ・・・』

「いいわよ、リーン。二人を彼女の顔の近くまで連れて行ってあげて。その代わり私も同伴します。よろしいですね。そこの地球人の方々」

『あ、マスター♪』

いつの間にか前に現れ、リーンと呼ばれた巨人の少女がうれしそうにマスターと呼ぶその女性はクールで少し固いイメージを漂わせ、サラサラの濃い青色をした長い髪をなびかせながら、自分の身長とほぼ同じ大きさの杖を片手に桐生たちの前に姿を現す。

『すいませんマスター、こちらのお二人しか助け出す事ができませんでした・・・』

「あの状況では仕方ありません。ご苦労様、リーン」

『わーい、マスターに褒められましたぁ♪』

うれしそうに頬に手を当ててはにかむリーン。
するとその女性はリーンの顔から視線を外し、桐生たちの方に改めて向き直る。

「簡単にですが自己紹介を…。私は宇宙管理局に所属するユーリ・エクスタシアと申します。ユーリと呼んで頂いてかまいません。そして彼女は私の使い魔」

『リーンっていいます。よろしくお願いしま〜す♪』

彼らの頭の上から桐生たちの方に向き、かわいらしくウインクをしながら自己紹介をするリーン。

「私は桐生隼人。そして彼女は…」

「は、葉山渚です。あの…あなたたちは一体…」

「申し訳ありませんが、詳しく説明しているだけの時間がありませんので、下に降りてからこれからの事を簡潔にお話しましょう…」

そういいながら地面に向かって降下していくユーリ。
それに続き、桐生たちを腕に抱えながらなるべく振動を立てないように気を使いつつ、リーンは気絶しているナリスの顔の側に着地する。
そして体を屈め、彼らを静かに地面に下ろす。
桐生たちは慌ててナリスの巨大な頬に手を当てて胸を撫で下ろしながら、ほっとため息をついた。
顔色こそ悪かったが、その手からはしっかりとナリスの体温が感じられたからだ。

「よかった…死んではいないようだ…」

「はい…」

彼の言葉に葉山少佐も涙を流しながら頷く。

「感動しているところを申し訳ありませんが、まだ油断はできません」

「なに?それはどういう意味だ?」

彼女の、冷静かつあまりいい方向には捕らえていないようなその発言に、思わず苛立ちを覚えた桐生は彼女に詰め寄る。

「彼女は今、ギニアスの精神コントロールに無理やり対抗した反動で気を失っているに過ぎません。ですから油断はできないといったのです」

「そんなことはない!彼女は自分の意思で我々を助けてくれた。私はもうナリスがやつらの言いなりになどならないと信じている!」

「隼人さんの言うとおりです!それに彼女はもうすごく意思の強い子です。そんなナリスさんが彼等の精神コントロールなんかに屈するはずがありません!」

二人は強く彼女の考えに反発する。

「ですが、彼女はすでに一度、ギニアスに操られ街を襲っています。再び目を覚ましたとき、暴れないという保障があるのですか?」

逆に問いかけられ、その彼女の的確で隙のない問いに、二人は黙り込むしかなかった。

「それに、その前にも彼女は自分の意思で街やこの星の軍隊をも壊滅させています。それは大きな罪です。
よって彼女を私たちの宇宙船に捕縛します。リーン、転送の準備を」

『はい、マスター』

彼女に言われるままにリーンは気絶しているナリスを方に両手をかざす。
するとナリスの体をを中心に巨大な魔方陣が出現し緑色の結界がナリスの体を包みこんでいく。

「ま、待ってくれ、ユーリ!」

「なんですか?」

「彼女が軍を襲ったのは我々が彼女の大事にしていた服をボロボロしたからだ。だから、私にも責任が…」

「いえ、そのような理由では言い訳にはなりません。彼女の犯した罪はそれほど重いものなのです」

「どうしても、彼女を連れて行くのか…」

無言で頷くユーリ。
彼女の感情を一切表に出さない態度に、もうこれ以上何を言っても無駄だと感じ取った桐生は深くため息をつく。

「わかった…、君にはもう何を言っても無駄のようだな…」

「は、隼人さん!」

その言葉に葉山少佐は彼の腕を必死に掴み、彼女を開放してもらえるように諦めないで説得してほしいと彼に訴え続けるが、桐生は首を無言で横に振った。
 
「隼人さん…、見損ないました…。私の好きな隼人さんは、そんな簡単に諦める人じゃなかった!」

パァァァン!!!

葉山少佐の平手打ちがうな垂れる彼の頬に浴びせられ、思わずその場によろめく桐生。
すると彼女は今度はユーリの腕に掴みかかり必死に訴える。

「彼女を解放してあげてください!ナリスさんは本当に優しい子なんです…、お願い…だ…から…」

その言葉を最後にその場に崩れ落ちる葉山少佐。

『マスター、転送準備完了しましたです』

「ごくろうさま、リーン。彼らを安全な所まで運んでくれる?ここだと転送に巻き込まれる可能性が高いわ」

『了解しました』

ズーン、ズーン、と地響きをたてながらゆっくりと桐生と葉山少佐に近づき、二人を自分の腕の中に抱きかかえるリーン。

「嫌!話して!!」

ジタバタと腕の中で暴れる葉山少佐の様子に困り果てたリーンは彼女の首元に指を当て少し強く突いた。

「う…」

すると、必死に腕から逃れようともがいていた葉山少佐は動かない人形のようにおとなしくなった。

「お、おい!彼女に何を!?」

『ごめんなさい。このまま暴れ続けて落ちたりしたら危ないので少しの間眠ってもらいました。大丈夫ですよ、人体に影響はありませんから』

「そ、そうか…ならばいいが…」

「リーン、もう転送まで時間がないわ。はやくしなさい」

『す、すませんマスター、今すぐ離れますね』

「待ってくれ!」

「なんですか?まだなにか?」

「責めて彼女の服だけでも直してやってくれないか?」

「そんな事をしても意味がありません。牢獄の中で囚人服に着替えることになるのですから」

「それでもだ!頼む!!」

「…まったく…、どうして地球人はこうも頑固者が多いのでしょうか…」

ユーリは一度深くため息をつくとナリスの方に杖を向ける。
すると、ナリスの体は眩い光に覆われ、光が収まった頃には彼女の大事なフリル付きの真っ白なワンピースはみるみるうちに修復され、あっという間にまるで新品同様に輝きを取り戻していた。

「これで、文句ありませんか?」

「あぁ、ありがとう」

「では、長距離転送開…」

『マスター!』

今まさに、転送が行われようとしたその瞬間、ユーリでも予想できなかった事態が彼女等を襲った。
ナリスが目を覚ましたのだ!
ゴゴゴゴ・・・・ッという轟音と共にゆっくりと大地に手を固定し、その巨大な腕で自分の巨体を起こしていくナリス。

「そんな…、目覚めるには早すぎる…」

明らかに動揺し、慌ててナリスの側を離れ上空に退避するユーリ。
リーンもまた大地を力強く蹴り、慌てて上空へと避難する。
やがてナリスは、重々しく上半身のみを起こし、辺りをゆっくり見渡すとユーリたちの方に視線を合わせる。

「ナリス、目が覚めたのか!」

リーンの腕の中で桐生はナリスに必死に話しかける。

『き・・・りゅう・・・』

虚ろな瞳で彼を見つめるナリス。
そして彼を見つめていたナリスの顔が大きく下に傾くと前髪が彼女の顔を覆い隠す。

「ど、どうしたんですかナリスさん!どこか痛むんですか!?」

心配そうに彼女を見つめる葉山少佐。

『いいえ・・・だいじょうぶよ・・・、ふふふ・・・あっはははは』

まるで冷たい氷のような声のトーン。明らかに今までとは違う雰囲気と口調にその場にいる全員が固まる。

ドーーーーーーーーーンッ!!!!!

いきなり、なにかが爆発のような音が周囲に響き渡ると同時に圧縮した空気が彼らに一気に襲い掛かった!
ナリスの体を包み込むように全身を稲妻のような物がパリパリと音を立てながらほどばしり、彼女のチャームポイントであったツインテールを作るために結ばれていた可愛らしいリボンは一瞬にして吹き飛ぶと、彼女の長く美しい金髪がオーロラのように舞い上がり、次の瞬間には彼女の髪の色が金色から銀色へと頭のてっぺんから変色していった。
更に、彼女の背中からは黒い六枚の翼が生え、彼女の特徴的だった綺麗な蒼色の瞳は見る見る赤く染っていき、真紅の瞳へと変わっていく。
また、お尻からは尻尾のような物が生え、彼女が大事にしていたフリル付きの真っ白なワンピースはまるで返り血でも浴びたかのように赤黒く染まっていった。
それだけに止まらず、今度は彼女の体が再び巨大化し始める。

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!

お姫様座りのまま、元々巨大だった彼女の体は更に膨れ上がっていき、どんどん大きくなる足やお尻はありとあらゆる物を押し潰していく。
また、その体から生まれる乱気流にユーリやリーンたちは吹き飛ばされそうになるのを必死にこらえていた。

『マ、マスター!す、すごい、魔力ですよ〜、このままじゃ転送結界が破られますぅ!!』

「まずいわ!リーン!彼女を捕縛しなさい!」

『は、はい!チェーンバインド!!』

リーンは慌てて左手をかざすと、ナリスの足元に展開していた魔方陣から次々と無数の光をまとった鎖が彼女の手足、そして体をを大地に縛りつける。

『無意味な・・・事を・・・』

しかし、それでも彼女の巨大化は止まることなく、その鎖はあっというまに引きちぎられて消滅してしまった。

パリン・・・パリン・・・パキャーン!

そしてその巨体が彼女を覆う結界に触れ、無数のヒビを入れながら崩壊していく転送結界。
その反動で、効力を失った魔法陣はそのまま消滅してしまう。
乱気流が治まった頃には彼女の顔は雲をつき抜け遥か遠くまで見渡せるほどの大きさに達していた。

「そ、そんな…まさか…彼女の…中に…あいつが…」

放心の状態のユーリ……。
そして巨大化が止まり、ナリスの超巨大な顔が下に向くと、自分たちに向けてパクパクと唇を動かすのが顔を上げていた彼女等の視界に飛び込んでくる。
数秒後、大気を震わせながら、大きな声が天から降ってきた。

『うふふ、ごきげんよう、小人のみなさん♪ワタシは、破壊神・アリス。覚えておいてくれるとうれしいわ♪』

その大音量の声にユーリは『はっ』っと我に返るとリーンに慌てて指示を出す!

「リーン!封鎖空間を!!」

『は、はいです!』

ピキーーーーンっという音と共に、リーンの足の下に緑色の魔方陣が現れ次の瞬間、アリスの頭上に黒い球体が姿を現し、アリスごと辺りを次々と飲み込みながらにドーム状に広がっていく。
その黒いドームの中に入ったものは、まるで光を失った白黒のような世界になり、逃げ遅れた住民たちも次々と消滅していく。
ユーリはそれを確認すると自分の杖を高々と空に向け突き上げ、口元でなにかをつぶやき始める。

『あら?ふふふ、なにかおもしろい事でもしれくれるの?』

彼女がしゃべるたびに風速100メートル以上の強風が様々な建物の残骸や車などを宙へと舞い上げていく。

(あれだけ大きければ、動きはかなり緩慢ははず…。魔力ダメージでノックダウンできれば…)

彼女の視界に直径数百メートルは軽くありそうな巨大な手が想像以上の速さ迫って来るのが見えた。

(くっ…速い…間にあって!)

ピキーーン!ピキーーン!ピキーーン!ピキーーン!

計4つの紫色をした魔法陣がアリスを取り囲む。

「逝きなさい!ディメンジョン・ブレイカーーーー!!!!」

彼女と掛け声と共にはアリスを囲んでいた魔法陣から超極太の紫色を帯びたビームが次々と彼女の体に着弾し、そこを中心に半径500メートルほどに渡り大爆発を起こす。アリスの体は黒煙に覆われ見えなくなってしまった。

「や…やりまし…たか…」

ハアハアと息を乱しながら、その光景を見つめるユーリ。
と、いきなり煙幕を切り裂き、アリスの巨大な親指と人差し指が彼女の体を左右から挟みこむ。

「かはっ…!」

いきなりの強い衝撃にユーリは大きく吐血し、そのまま彼女の体はその太い指によって遥か雲の上の方まで持ち上げられていってしまった。

『ま・・・、マスターーーーーーー!!!!!』

リーンは桐生たちを抱えたまま我を失い追いかけようとしたが、横から現れたもう片方の指ががぺチン!とデコピンを彼女の巨体に浴びせ、リーンの体は軽々と吹き飛ばされてしまった。

『ヒャアアアッ!』

「うあああ」

「きゃー」

キーーーン・・・ドカン、ドカン、ドカン、ガッシャーーーーン!

リーンの体はまるで弾かれたように周辺のビルを次々と貫き、その巨体は10階だてのビルの一区画を完全に押しつぶしてようやく停止した。

『あうう・・・。痛いですぅ・・・。はっ!二人ともだいじょうぶですか!?』

「な、なんとかな…渚は?」

「はい…あまりのGに内臓が飛び出るかと思いましたけど…」

「同感だ…」

苦笑する桐生と葉山少佐。

『よかった・・・、お二人ともご無事でなによりです♪』

二人の様子にほっと胸を撫で下ろすリーン。

ポタッ・・・。

「ん?なんだ?」

桐生は自分の頭上から降ってきた赤い液体に体を捻り、リーンの顔の方を見上げた。

「リーン!おまえ、頭から血が出てるじゃないか!!」

『へ?あ・・・』

リーンは自分の頭に手をやると手の中が真っ赤に染まっていくのが自分でもわかった。
心配そうに彼女の顔を見つめる桐生と葉山少佐。

『だ、だいじょうぶですよ。私の自己治癒能力は局の中でも1、2位と争うくらいなんですから♪こんな傷すぐに直っちゃいます!』

確かに彼女の治癒能力は局にいる他の使い魔たちよりも優れていたが、今まで飛行や転送魔法、そしてチェーンバインドや封鎖空間を使用した事で彼女の魔力は半分以下にまで減っていた。
その証拠にいつもなら一瞬で直る彼女の傷も、普段の倍の時間をかけながらゆっくりと塞がっていく。
本来ならば自分のマスターから定期的に魔力を抽入して貰らう事で使い魔は魔力を回復するのだが、彼女のマスターであるユーリはアリスの太さ数十メートルはあろうかという巨大な指に捕まり、遥か上空に連れて行かれてしまった。

『ほら、見てください!もう直っちゃいましたよ♪』

リーンは二人を心配させまいと前髪を上げて、完全に塞がっている自分の傷口を見せると、二人は安心したように頷いた。

『やっぱり、ちょっと魔力を使いすぎたかもですね・・・』

ぽつりと呟き、一瞬、リーンの表情が曇る。

「なにかいったか?」

『な、なんでもないです!』

桐生の問いかけにリーンは慌ててフルフルと首を横にふる。

「隼人さん!あれを見てください!」

その声に慌てて視線を葉山少佐の方に戻し、彼女の指の先を見つめる桐生。
その指の先には横浜市上空を低空で飛行する連邦艦隊がアリスに少しずつ接近しつつあった。

「あのマークは…セシリア少将の第2艦隊か?」

「はい、おそらく」

船体に刻まれたマーク。それは間違いなく第2艦隊のものであった。

「リーン、お願いがあるんだが聞いてくれるか?」

『はい、なんですか?』

「私たちをあの艦隊の所まで連れて行ってほしい」

『え?別にいいですけど・・・。でも、あの程度の規模の艦隊じゃあ、逆に玩具にされて終わりな気がしますし、かえって危険かもしれないですよ?』

「なら、尚の事行かなければ…、彼らを無駄死にさせるわけにはいかないからな。それになんとしてもナリスに取り憑いているあの悪魔をなんとかしなくては地球は終わりだ」

桐生は真剣な表情でリーンのピンク色の大きな瞳をじっとみめる。

『わかりました、よい、しょっと・・・』

リーンは左手で瓦礫に埋もれた体を起こし、服にこびり付いたコンクリートをぽんぽんと掃う。
そして体を宙に浮かせ、二人の方に視線を下ろし再度、確認する。

『本当に、行くんですよね?』

その問いに二人は力強く頷いた。

『じゃあ、ちょっと飛ばします!落ちないようにしっかり私の服を掴んでいてくださいね!』

ドーーーン!という音と共に彼女の体は一瞬にして音速を超え、第2艦隊の方へと放物線を描きながら一直線に飛んでいった・・・。


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地球統一連邦領域、経済特区日本、神奈川県 ○×市 上空
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ウゥーーーーーー!ウゥーーーーーー!ウゥーーーーーー!

<巨大生物確認!総員、第一戦闘配備!繰り返す!総員第一戦闘配備!>

第2艦隊旗艦、シルファニア艦内ではけたたましいサイレンとともに複数の兵士たちが慌しく廊下を行き来していた。
ブリッジでは艦隊指令のセシリアと副官のライヤーが話している。

「セシリア、目標を補足したぞ。有効射程範囲まであと距離500ってとこだな」

「ちょっと、ライヤー!勤務中は指令をつけなさいっていつも言っているでしょう!」

「ああ、悪い…そうだった、そうだった」

「まったく…まぁいいわ。メインモニターに彼女の姿を映しさない」

「はっ!」

オペレーターが端末を操作し、メインモニターに変貌したナリスの映像が映し出される。

「おい…これは何の嫌がらせだ…?」

「ライヤー中佐、彼女の資料を」

「あ…ああ」

ライヤー中佐はセシリアの横にナリスの詳細なデータが載ったファイルを映し出す。
そこには軍の分析専門のスタッフが調べ上げた彼女のおおまかな身長、体重、胸囲、そして外見的特長等が事細かく記載されていた。

「随分データと彼女の様子が違うみたいね…」

その資料と目の前に写るナリスを見比べるセシリア。

「どう見る?司令官殿」

「随分意地悪なことをいうのね。答えが分かっていればこんな顔していると思う?」

セシリアは眉間にシワを寄せながら怪訝そうにライヤーと軽く睨む。

「おいおい、そんな怖い顔するなよ。ほんの冗談だ」

はっはっはと笑いながら彼女の肩をぽんぽん叩くライヤー。
その緊張感のない行動にハアっと大げさにため息をつくセシリアであった。

「セシリア指令!」

急に、オペレーターが叫んだ。

「何事です!?」

「別の未確認飛行物体が高速で我が艦隊に接近してきます!」

「モニターに出しなさい」

「はっ」

メインモニター横のサブモニターに白いバリアジャケットに身を包み、頭に耳としっぽを生やした少女が高速で接近してくるが映像が映し出される。

「なんだ?やつらの仲間か…?」

怪訝そうにモニターに映るリーンを見つめるライヤー。

「まだわからないわ。ん…?」

ふと、なにかに気づくセシリア。

「彼女の腕付近を拡大してくれる?」

「はっ」

そこには高速で接近してくる少女にまるで人形のように抱きかかえられる桐生たちの姿が映し出されていた。

「あんな所で何やってんだ…あいつら…」

ライヤーも半場驚きを隠せない様子で答える。
すると通信担当の兵士からセシリアに声がかけられる。

「指令…先ほどから軍用回線に妙なノイズが…」

「解析できますか?」

「あ、はい、お待ちください」

シルファニアの通信士はコンソールを操りながらセシリアに答える。

「解析でしました、読み上げます。<コチラ、地球統一連邦所属、キリュウ、我、貴艦ヘノ、着艦ヲ、求ム。コチラニ、戦闘ノ意思ハナイ> 指令、いかがいたしましょう?」

読み上げると通信士は振り返り、セシリアに指示を求める。

「罠だと思う?」

「さあな…まぁ、もしもの時は俺が体を張ってお前を護ればいいだけの話だ」

「あら、逞しいお言葉。ではその時は、よろしく頼むわ」

「あいよ」
 

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地球統一連邦領域、経済特区日本、神奈川県、○×市上空  第2艦隊まであと500メートル付近
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「隼人さん、私たちのメッセージ、セシリア少将たちに届いてますよね?」

「たぶんな」

桐生は彼女がもっていた緊急用の発信機としても機能する特別製携帯ラジオを使い、軍用回線に暗号通信を送り続けていた。

『桐生さん、まさかいきなり撃たれたりしませんよね・・・?』

少し不安げに桐生を見つめるリーン。

「だいじょうぶだ、俺を信じろ。もしだめなら…蜂の巣にされるだけだ」

『ちょ、冗談きついですよぅ・・・』

直後、シルファニアから信号弾が打ち上がる。

「着艦許可が下りたみたいですね」

『よかったですぅ・・・。近づいた途端、蜂の巣なんてまっぴらごめんです!』

「すまん、すまん、さっきのはほんの冗談だ」

『むぅ・・・』

「まぁ、そうむくれるな。あの中央にいる旗艦の飛行甲板に降りてくれるか?」

『了解です』

ズーーーーン・・・。

速度を落とし、桐生たちを腕に抱えたまま軽く地響きを音をたて、飛行甲板に着地するリーン。
そして桐生と葉山少佐を順番に優しく掴むと腰を屈めて彼らを地面に下ろす。
飛行甲板ではセシリアとライヤーが複数の武装した兵士に護られながら待機していた。
機械的に銃をリーンたちに向ける兵士たち。

「銃を下ろしなさい」

セシリアの言葉で兵士たちは構えていた銃を下ろす。

「あななたちは、ここで待機していなさい。ライヤーは一緒に来てくれる?」

「ああ、もとよりそのつもりだ」

兵士たちにそう指示し、一歩ずつ桐生たちに近づくセシリアとライヤー。
桐生たちもまた一歩ずつセシリアたちに向かって近づいていき、4人は力強く握手する。

「3年前の合同演習以来ですね。セシリア少将」

「ええ、お久しぶり、桐生。そして渚。二人とも元気そうね」

「はい、本当にお久しぶりです。セシリア少将…」

「よう、おひさしぶりじゃねーか。似た者夫婦」

「だれが夫婦ですが!誰が!」

桐生が反論するその横でポッと赤くなる葉山少佐。
と、再開を喜ぶ彼らの後ろですっかり会話に取り残されたリーンがやや不満げに彼らに声をかける。

『あのぉ・・・桐生さん〜、私もそっちに行っていいですかぁ?』

「ああ、いいぞ」

ズーン・・・ズーーン・・・ズーーーン・・・

重々しい地響きをたてながらゆっくりと自分たちの方に近づいてくるリーン。
その光景に思わず兵士たちはアサルトライフルを再び彼女の方にむけてしまう。
それに合わせ、ピクッっとリーンの動きが止まる。

「おい、おまえら!だれが銃をあげろといった!さっさと降ろせ!!」

「はっ、申し訳ありません!」

兵士の一人が銃を降ろしながらビシッと敬礼する。

「すまないな、嬢ちゃん。もう近づいてくれてOKだぜ」

『あ、はいです』

ズシーーン・・・ズシーーーーン!

そして彼らのすぐ側まで近づいたリーンはゆっくり腰を下ろす。

「さっきはごめんなさいね、私の部下が…」

『いえ、気にしないでください。私、リーンっていいます。よろしくお願いします♪』

満面の笑顔で答えるリーン。
座る彼女の横からはピンク色のしっぽがうねうねと動き、愛らしい耳はピクピクと揺れていた。
その様子をしばらく『ぽー』っと見つめるセシリア。
無類のネコ好きである彼女にとって、そのかわいらしいリーンの耳としっぽはまさに劇薬に近かった。

「おい、いつまでも嬢ちゃんのしっぽばかり見ていないで話を進めろ」

「あ、ああ、そうね…」

その掛け合い漫才を目の辺りにした桐生と葉山少佐は思わず苦笑してしまった。

「それで、話を戻すけど一体なにがあったのかしら?」

「ここではあれなので、一度艦橋に戻りましょう。詳しい話は中で」

「それもそうね。あ、でも彼女は…」

そう言ってリーンを見つめるセシリア。

『あ、私なら心配いらないですよ〜』

するとリーンの体が淡い光りを放つ。
そして光りが治まると彼女の巨体は消え、変わりにピンク色の子猫がリーンが座っていた場所に現れた。

「……」

小さい子猫の姿になったリーンを再び、『ぽー』っと見つめるセシリア。

「あの、セシリア少将?」

「かわいい!!!」

ガバッ!ギュウウウウウウ!!!!

「んぎゃっ」

リーンが軽く悲鳴をあげる。

「く、苦しいです…死んじゃいますぅ…」

「せ、セシリア少将、それ以上抱きしめたらリーンが…」

「あ、あらごめんなさい…私としたことが…では中へいきましょう」

コホンと一度咳き込み、全員を中へと促すセシリア。

「あの、ライヤーさん」

ボソっと小声でライヤー話しかける葉山少佐。

「あん?どした?」

「セシリア少将ってもしかしてかなりのネコ好きなんですか?」

「もしかしなくても、ネコ好きだ。つーかオタクといっても過言じゃねーな」

「そうですか…ちょっと意外です…」

そんな雑談をしながら艦内の廊下を歩く4人。
やがてエレベータを降り、メインブリッジに着いたセシリアは自分の席に着くとリーンを膝の上に置き、まじめな顔で桐生に問いかける。

「それで、彼女の身になにかあったのかしら?こちらが軍から渡された彼女の資料とは大きさも容姿も随分と違ってるみたいですけど…?」

「それは私にもわかりません。ですがひとつ言えることは今の彼女は我々が知っているナリスではないと言うことです」

「ナリスというのはあの巨人の少女の名前?」

「はい、ですが彼女は自分の事を破壊神・アリスと名乗りました。これはあくまで予想ですが…」

桐生はこのあとも自分が知っている限りの事を事細かくセシリアたちに説明した。

・・・・・・・・・・・。

「なるほど、そんなことが……」

「まぁ、あの様子を見る限りじゃあ、お前の言う信憑性のない話も信じるしかねーわな」

ライヤーは、今のところ動く気配もなくその場に留まっているアリスを見ると大きくため息をつく。

『桐生さんは、嘘なんてついてないですよぅ!』

子猫姿のリーンがいまいち信じきれていない感じのライヤーに講義する。

「あ〜悪いな、別に信じてないわけじゃんねーんだ。ただ、状況があまりにも非現実的過ぎてな。ちょっとした現実逃避だ。気にしないでくれ」

頭をポリポリと掻きながらどうしたものかと悩むライヤー。

「とりあえず、彼女に今接近するのは危険です。下手をすれば第1艦隊の二の舞になる可能性が…」

「あなたの言う通りね。ライヤー」

「了解した。全艦に通達!全艦!進撃を一時停止だ!」

ライヤーの合図でゆっくり進撃中だった第2艦隊の全艦が一斉に停止する。

「桐生」

「はい、なんでしょう?」

「今東京を襲っている未知の宇宙人のことだけど、彼女が彼らの仲間という可能性はありえないのかしら?」

「それは…ないと思います…」

「そう言いきれる根拠は?」

「根拠は…ありませんが、私は彼女の氷のように冷たい目を見ました。これは私の直感ですが、彼女が好んでやつらと手を組むとは思えません。もっとも彼らの利害が一致すれば共闘する可能性も否定はできませんが…」

「なるほど…ね…」

改めてアリスをモニター越しに見るセシリア。
あまりの巨大さ故に彼女の表情は見て取れなかったが、その巨体から僅かに染み出ている黒いオーラはこの距離からでも十分確認でるほどであった。
セシリアはライヤーの方に向き直る。

「とりあえず、今は東京を占領下に置くあの敵性宇宙人の方を先になんとかしましょうか…。ライヤー」

「なんだ?」

「艦隊の進路を東京へ向けて頂戴。電撃作戦を決行します」

「それはいいが、俺らの兵器がやつら通じるのか?聞く話によるとやつらの装甲は強力なシールドに護られているらしいぞ?」

「敵母艦はともかく、多脚戦車程度ならこの艦隊の装備でもなんとかなるでしょう。正直、地上部隊の装備だけではあの戦車を相手にするのはきついでしょうしね…」

「だが、俺たちの本来の任務は破壊神様を討伐する事だ。勝手な行動をすれば処罰されるのは目に見えてるぞ?」

「そうね、だから…」

セシリアは自分の席の艦隊通信用スイッチを押す。
するとメインモニターが切り替わり、画面にセシリア自身が移りこむ。

<総員に告ぎます。これより我々は当初の予定を変更し、東京を制圧した敵性宇宙人に向け電撃作戦を決行します。ですがこれは確実に命令違反に該当します。よって強制はしません。意義があるもの、または賛同できないものは速やかに退艦、もしくは艦ごと転進しなさい。艦隊を離れても処罰はしません。今から10分まちます。その間に作戦に参加するかしないかを決めなさい。私からは以上です。>

セシリアはスイッチを切ると深く席に座り込み、ぽつりぽつりと呟く。

「どれくらい、残るかしらね…」

「ま、半分のこりゃあいいほうだな」

「そうね……」





10分後・・・。




「ライヤー、どれくらい残ったかしら?」

「全体の8割といったところか…」

「上出来ね。ライヤー、全艦に発進準備を!」

「了解した。全艦に通達!全艦!東京上空向けて進路を取れ!」

その合図で第2艦隊の残ったすべての艦が密集隊形で艦首を一斉に東京方面に向ける。

「発進準備完了だ」

「了解、全艦!東京上空に向け、発進!!」

キーーーン・・・・ゴゴオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

エンジンを唸らせ、第2艦隊は密集隊形のまま東京へと侵攻を開始する。

「セシリア指令、ありがとうございます」

桐生は深々とセシリアに頭を下げる。

「別に、礼を言われるようなことじゃないわ。それに例え滅亡する運命だとしても、少しでも希望がある方にかけてみたいと思った。ただそれだけよ……」

「はい、そうですね。甘ったれと言われるかもしれませんが、彼女が地球を救ってくれる女神だと私は信じています」

「そうね…、そうなるといいわね」

二人はメインモニターに移る、恐ろしき破壊神に姿を変えてしまったナリスの姿を見ながらそう小さく呟いた。



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そのころ雲の上では・・・
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『うふふ、ひさしぶりね・・・ユーリ。またあえてうれしいわ♪』

息も絶え絶えの状態でユーリは軽く東京ドーム二個分くらいはあるであろう広さのアリスの巨大な手の平の上で、自分の杖を支えにしながらやっと立っていられるほどに、彼女の魔力と体力は底を尽きかけていた。
アリスしてみれば、彼女の大きさは1mm程度の大きさでしかない。
逆にユーリからしてみればアリスはあまりに大きすぎでとても言葉では表現できないくらいの存在であった。
現に彼女がその大きな唇が動かすたび、その衝撃波で吹き飛ばされそうになるのを必死にこらえるのでやっとであった。

「まさか…また…あなたと…会う事に…なるなんて…思っても…居ませんでした…」

『そうね、あの頃はあなたも相当小さかったものねぇ。でも、私を恨んでもダメよ。あれは貴方が望んだことなんだから・・・』

彼女の母星、惑星ファンタム。
緑豊かな星で機械文明がやたらと発達していたその星で彼女は生まれた。
しかし、その星では機械をやたらと愛し、惑星全体を機械化してしまおうとするイスカル族と自然と共に生き機械化に反対するナチュラル族がお互いの惑星の主導権を巡り日々対立していた。
そしてある日、イスカル族による大規模な侵攻作戦でナチュラル族の民は次々と命を落とし、捕まったものは公開処刑に次々かけられた。
そして彼女の両親もまた自分たちが住んでいた村に侵攻してきたイスカル族の大量のアンドロイドから彼女を逃がすために囮となり殺された。
当時、地球人年齢で2歳程度あったにも関わらず、すでに地球の20歳並みの知能レベルに達していた彼女は両親を殺したイスカル族を深く恨み、その心の闇に反応した破壊神に取り憑かれ、辛うじて生き乗っていたナチュラル族と惑星の8割を支配していたイスカル族を見境なく全滅させ、ついには自分たちが住んでいた星まで破壊してしまった。

「っ…」

ズキリと痛むこめかみにユーリは頭を抱え、苦しそうに呼吸を更に荒くし、その場に座り込んでしまった。

『嫌な事を思い出してしまったかしら?でもあなたのおかげで私はとても楽しかったわ♪
特に最後に惑星を抱き潰した時の感触なんかいまだに忘れられないもの♪』

クスクスと笑いながら彼女の苦しむ姿を大きなルビー色の冷たい目線で見つめるアリス。

(あのような惨劇を…二度と起こさないために…管理局に入ったというのに…)

ユーリの顔は悔し涙でくしゃくしゃになり、目からは涙が止まることなく彼女の頬を流れ落ちていった。

『だいじょうぶよ、泣かなくても。今すぐ私の一部として吸収してあげるわ。安心して私の中で永遠の眠りにつきなさい』

そういうとアリスはゆっくりと自分の顔を彼女が乗る手の平の上まで近づけていき、幅50メートルはありそうな巨大な舌で彼女を絡めとる。
ユーリは抵抗する気力も残っておらずそのまま彼女の真っ赤な洞窟の中に誘われていった。

ごっくん・・・。

そして唾液ごと彼女を飲み込み満足そうにお腹をさすると、片方の膝を立て、ゆっくりと立ち上がり始めるアリス。
そしてその背中がリーンが作り出した住民をも護る為の黒いドーム上の封鎖空間に触れ、転送結界の時と同じように無数の火花を散らせていたが、アリスは気にする様子も見せず、力任せに上部からこじ開けていく。

ピキピキピキピキピキピキッ・・・パキャーーーーーーーーン!!!!

ついに封鎖空間を構成する障壁が彼女の凄まじい力に耐え切れず内部から崩れ、崩壊しはじめた。
そして別空間に転移していた住民たちは、いきなり辺り一面、瓦礫の山と化したかつて自分たちが住んでいた街に強制的に引き戻され、遥か上空から自分たちを見つめる超巨大な悪魔に大パニックを引き起こしながら響き渡る絶叫と共に逃げ惑った。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・ッッ!

彼女が行動を起こす度に大地は大きく裂け、風は荒れ狂い、その超巨大な足は逃げ惑う住民ごと、彼女の下にある物すべてを一瞬にして地面にめりこませていく。
そしてアリスは背中に生えた漆黒の翼を大きく広げると6枚の羽を規則正しく羽ばたかせ始める。
その爆風で横浜の市街地にある、ありとあらゆる物を吹き飛ばしながら彼女の超巨大な体は空中へと少しずつ持ち上がっていった。
アリスは一度空中で制止すると、ほくそ笑みながら次の獲物に標的を捉える。

『次は、あなたたちよ・・・。ゆっくり遊んであげるから、楽しみにまっていなさい・・・♪』

そういうとナリスは再び巨大な漆黒の翼をはばたかせ、東京のほうへと飛んでいくのであった。




第5話へとつづく。



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やたらと長いあとがき(出演者がうp主に言いたい事があるようです)その2

「ふぅ、なんとか…4話も終わったか…」

ベキベキベキベキッ!(うp主の家の屋根が巨大な手によってもぎ取られる)

「な、なんだ?、なんだ!?」
『どうも、こんにちは♪創造主様♪』
「ああ、ナリスさんじゃないですか…どうしたんですか?顔に血管が浮きでて…ぎゃああああ」

ミシミシミシッ・・・・

『うふ、うふふふ・・・』
「ダメ…そんなに強く握っちゃ…らめえぇぇぇ…」
『ねぇ?』
「はい…なんでしょうか…?女神様…」
『私って主人公よね?』
「も、勿論でございます…」
『しかも今回の私の見せ場、ひとつもないわよね?』
「そ、そうですか?そんな事は…」

ギュウウウウウウウ!!!!!!

「ぎゃーーーーーーーー」
『な・い・わ・よ・ね?』
「それは…ですね…今後、ナリス様を神々しい…お姿をより引き立てるための…伏線…グフッ(吐血)」
『本当に・・・?』
「神に…誓いまして…」
『あんな形で私の出番が無くなったりしたら、たまったもんじゃないんだからね!分かってるの!?それに私のリボン!あれ、かなりお気に入りだったんだから!ちゃんとおつりがくるくらい私を引き立てなさいよ?わかった!?』
「イエス・ユア・マジェスティ!」
『ふんっ!分かればいいわ。いい?もし約束破ったら・・・』
そう言いながら駐車場に止めってあったうp主の車を片手で持ち上げるとゆっくり握り締めていくナリス。

メキメキメキメキ!!グシャ!!!

『この車みたいに、肉塊にしてあげるから・・・、よく覚えておきなさい!!!』

ガッシャーーーン!!(愛車、鉄の塊にされご臨終)

『じゃあ私はもう帰るわ。いいわね!しっかりやりなさいよ!!!』
元いた部屋に乱暴にポイっとうp主を投げ捨てるナリス。
そして我らが女神様は重々しい地響きを立てながら帰っていった。

ズシーーーーーン!ズシーーーーン!ズシーーーン、ズーーン、ズーン・・・。

「ゲホゲホ…、ああ、本気で…死ぬかと思った…あぁ…俺のワ○ンRが…(泣」
「私の…出番も…忘れずに…(ひゅ〜どろどろどろ」
「ひぃ、でたーーーーー!!!!」
「もし…私の事を…使い捨てキャラにしたら…全力、全壊で…貴方を…呪い殺します…」
「しません!ぜぇ〜ったいにしません!だから許して〜ユーリさま〜(ガクガクブルブル」
「なら…いいですけど…、ではみなさん…次回、またお会いしましょう…さようなら…」
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