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注意

この作品はSF小説風巨大娘SSです。
実際に登場する人物、団体は一切関係ありません。
物語風SSはダメ、SFは苦手、という方、または他の作品と類似した演出があっても、それらを含めて許せる方のみ閲覧ください。
なお、話に出てくる人物の体の大きさを区別のために下記のように分類わけしております。
また、場面切り替えの目印として私の尊敬する作品を参考に*を使って区切ってみました。


『』・・・主に巨人サイズの登場人物またはあとから巨大化した人物の会話シーンに使用(一部例外あり)
「」・・・主にノーマルサイズの登場人物の会話シーンに使用
()・・・主に登場人物の心の声で使用
<>・・・その他の音声会話等に使用


以上、つまらない補足失礼しました。では本編の方をお楽しみください。
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ヴゥーーーーーー!ヴゥーーーーーー!!ヴゥーーーーーー!!!


<緊急警報!緊急警報!巨人が横浜から移動を開始した模様!関係者は至急メインブリッジに集結せよ!繰り返す!巨人が横浜から移動を開始した模様!関係者は…>



女神黙示録 第5話『絶望と希望の狭間で』



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地球統一連邦第2艦隊旗艦『シルファニア』メインブリッジ
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「し、指令!きょ、巨人が横浜から移動を開始した模様です!」

「彼女の現在位置をメインパネルに出して!」

「はっ」

オペレーターの兵士がパネルを操作すると、メインモニターに彼女の現代位置を示す赤い点が映し出される。
その点は、東京へ向けて移動している第2艦隊の方に向かって猛接近しているのは誰の目にも明らかであった・・・。

「隼人さん…」

不安そうに彼の顔を見つめる渚。

「ナリス……」

桐生もまた、悔しそうに拳を固く握り締め、常識では考えられないスピードで移動する赤い点をただただ見つめる事しかできない自分に強い憤りを覚えていた。

「とにかく、このまま密集していてはまずいわね…、下手をすれば彼女の放つ衝撃波だけで壊滅的打撃を受ける可能性があるわ…ライヤー!!」

「分かってる!全艦に告ぐ。密集隊形解除!衝突しない距離まで艦同士の間隔を開けろ!急げ!!」

その言葉を合図に第2艦隊の戦闘艦は次々と横部分に取り付けられた方向転換用の小型ブースターを点火させ、艦同士の距離を広げていく。



**********



(ふふ、追いついた♪)

アリスは不敵な笑みを浮かべながら、第2艦隊のとの距離を確実に詰めていく。
そう彼女は見ていたのだ・・・。
リーンが桐生たちを抱えて、自分に迫ってきていた艦隊に向かって飛んでいく姿を・・・。

(あの子たち、私の姿を見てどんな反応を示すかしら・・・。楽しみだわ♪)

口元を緩め、アリスはまったくスピードを緩める事無く、その真横を勢いよく通過する。

ドオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!

彼女の巨体が第2艦隊の横を擦めるや否や、セシリアの予想通りすさまじい衝撃波が彼らを襲った。
その衝撃波で広範囲に散っていたにも関わらず、何隻かの戦闘艦同士が衝突し、大爆発を起こす。
その様子をちらっと横目で頬を緩め満足そうに『クスッ』と笑いながら、アリスは一気にスビードを落とし体を垂直に立てて、その場に静止する。
そして巨大な黒い翼を規則正しく羽ばたかせながらゆっくりと彼らの方に向き直り、左手で『シルファニア』の船体を鷲掴みにすると、ブリッジの窓ガラスに自分の視線を合わせながら、中にいる桐生にテレパシーで話しかける。

(うふふ、桐生・・・。私の声、聞こえるている?)


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地球統一連邦第2艦隊旗艦『シルファニア』メインブリッジ
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ヴゥーーーーーー!ヴゥーーーーーー!!ヴゥーーーーーー!!!


ガラガラガッシャン!ガラガラガッシャン!ガラガラガッシャン!


シルファニア艦内の廊下では赤い警告ランプが点滅し、次々と隔壁が下ろされていく。
そして艦内いる兵士全員が体をその場に固定し、ガクガクと振るえながら、このまま何も起きずに巨人が通り過ぎてくれることだけを天に祈っていた。
桐生たちもまた背を低くして、凄まじい衝撃波が自分たちの身に襲い掛かるであろうその瞬間を待っていた。

「巨人接近!接触まであと30秒!」

「総員!対ショック防御!衝撃波が来るわよ!!」

そしてメインモニターに映るアリスの事を示す赤い点が第2艦隊を示す黄緑色の点と重なったその瞬間、ドオーーーーン!!という強い衝撃と共に、まるで何かに揺さぶられるような大きな横揺れが艦全体を襲った。
そこにいる全員が机やイスに捕まり、なんとかその衝撃をやり過ごそうとしたが、艦が大きく横に傾いた事でほとんどの兵士がその衝撃に耐え切れずに宙を舞い、隔壁やそれぞれの部屋の壁などに体や頭を打ちつけてしまった。

「っ…」

「くっ…」

「きゃ…」

桐生たちもまたその場に前のめりで倒れこみ、セシリアも自分のコンソールに上半身を強打してしまった。

「ヒャーーー」

リーンもまた、セシリアの膝の上を転げ落ちそのままくるくると回転しながら壁に激突してしまった。
やがて揺れが収まると、セシリアはふらふらと立ち上がり、慌てて壁にぶつかって目を回しているリーンを抱きかかえながら彼女の事を心配そうに見つめる。

「むきゅう〜……」

リーンはくるくる目を回しながら気絶していた。

「リーン!しっかりして!!死んじゃだめぇぇぇ!!!」

ぎゅううううう!!!!

「んぎゃ!」

その力強い抱擁に気絶していたリーンの意識は一瞬で覚醒する。

「あ、ご、ごめんなさい!」

「い、いえ、だいじょうぶですよ〜…」

リーンはセシリアの腕からすり抜けると、そのまま高くジャンプして彼女の肩の上に乗る。

どぉぉぉぉぉんんんん!!!!!

突如、さっきの衝撃とは違う強い横揺れが、再び彼らを襲った。
やがて、メインブリッジ正面のガラス越しにこちらを見つめる、巨大なルビー色の瞳から放たれる刺すような冷たい視線にそこにいた全員が気づくと、まるで石化したようにその場に固まってしまった。

(うふふ、桐生・・・。私の声、聞こえるている?)

「アリスか…?」

誰もが固まった状態で静まり返るブリッジ内の沈黙を破ったのは桐生のその一声であった。
その言葉に全員の視線が彼へと集まる。

(ええ、そうよ♪)

桐生の頭の中にだけ響く彼女の冷たい声・・・。
額に汗を滲ませながら必死に声を絞り出す彼の姿を見て、桐生がなんらかの方法でアリスに話しかけられていると直感的に感じ取った渚は、慌てて彼の腕に自分の腕を絡め、恐怖心を打つ消すようにふるふると首を振り払い、アリスの顔の方に改めて顔を向ける。

(あら、渚じゃないの♪相変わらず二人は仲がいいのねぇ・・・)

自分の事を『渚』と呼ぶアリス。
渚は、ナリスが自分の事を『あなた』と呼んでいた事ははっきりと覚えていたが、彼女に下の名前で呼ばれたことは一度もない。
たぶんそれはナリスから見れば、自分よりも年上の女性、でも自分よりも圧倒的に小さい彼女に対して、どう呼べばいいのかと戸惑い、とりあえず怖がらせないようにと、彼女なりに柔らかく言ったつもりだったのだろう。
ふつうに考えれば『〜さん』という感じで呼ぶのが自然だが、ナリスは敬語が大の苦手で自分より年上だろうがなんだろうが苗字や名前で呼び捨ててしまうのが当たり前であった。
それも威圧的に『○○(苗字や名前)!!』や『あんた!!』と言った感じで・・・。
やっぱり彼女は自分たちが知るナリスちゃんじゃない・・・。
渚は悔しさを胸に、小さく唇を噛み締める。

「わ、私たちに…何のようだ…?」

震えた声でアリスに問いかえる桐生。

(何のようだ?とは随分な言い方ね、せっかくあなたたちと遊んであげようと思ってきたのに・・・)

今度はアリスの冷たい声が桐生以外の人達の頭の中にも響くと、その言葉を聞いた瞬間、全員の背中に『ゾクッ』と悪寒が走り、一気に血の気が引いた。
彼女の中での『遊ぶ』・・・。それは『殺す』と同義語だ・・・。
その圧倒的な力で赤子の様に弄ばれ(もてあそばれ)、最後には歪な形に変形していく障壁共々、屍とすら呼べない血まみれの肉片となり、問答無用で潰されていく・・・。
そんな悪夢のような光景がそこにいる全員の脳裏をよぎった・・・。

「そ、そんな事、させません!!」

その声と同時に、リーンはセシリアの肩を飛び降り、子猫形態だった彼女の体から眩い光が放たれると同時に半人間形態へと戻ったリーンは、アリスの鋭い視線から桐生たちの事を護るように間に割って入り、少し窮屈そうに座った状態で二人を抱えながら、まるで子供が親に人形を取り上げられないように必死に胸の中に抱え込むような感じで、体を斜め後ろ向きにして顔だけをアリスの方に向け、『キッ』っと彼女の真っ赤な瞳を睨みつけた。

(なぁに?その眼は・・・少しだけ、イラッとしちゃったかなぁ・・・)

彼女のその視線に気分を害したアリスの声のトーンが、さらに少し低くなった。
その冷たく高圧的な声に桐生たちを除く兵士たちは皆、『ひっ』っと小さく悲鳴をあげ、頭に手をあてガクガクと震え上がりながら、その場にしゃがみ込んだ。
セシリアとライヤーもまたゴクリと生唾を呑み込み、冷や汗を掻きながらその光景を見つめていた。



**********



アリスは右手で『シルファニア』の艦橋を横から掴むと、力任せに引きちぎって左手に持った船体を他の戦闘艦の方に向かって『ぶんっ』と投げ付ける。
標的となった数隻の戦闘艦は慌てて回避を試みるが間にあわず、くるくると回転しながら迫って来る船体に激突し、大爆発を起こす。
さらに艦橋の窓ガラスに人差し指を差込み、中にいる桐生たちをあぶり出そうと適当に中を引っ掻き回すアリスだったが、ふと自分の指の先になにかが当たるのを感じ取り、よーく耳を澄ますと、中から銃声のような物も聞こえくる。

『ふふ、抵抗してるのね。でもそれじゃあ、自分の居場所を知らせているようなものよ・・・』

くすくすと笑いながら、アリスは銃声が聞こえたほうに向けて、どんどん歪な形に変形していく艦橋には目もくれずに、さらにに自分の指の先を奥へ奥へと侵攻させていった。



**********



突如、『メキャリ』という破壊音と共に、ブリッジ全体を再び大きな横揺れが襲い、次の瞬間にはブリッジ全体が暗闇に包まれる。
そして今度は太さ20メートルはありそうな肌色の柱が強化ガラスを易々と突き破り、まるで獲物を探すようにすべての機器や自分の机の下に隠れていた兵士たちを蹴散らしながら奥へ奥へと少しずつ侵攻してくる。

「な、なんて大きさの指なの……」

セシリアは強化ガラスを突き破って進入してきた柱が彼女の巨大な指なのだと瞬時に理解すると、中にあるすべての物を蹴散らしながら彼女の指がリーンとの距離を少しずつ詰めている事に気づき、自分の席の机の引き出しから護身用のハンドガンを取り出し、リーンの元へと走リ出す。

「あの、ばか!」

ライヤーも慌ててセシリアを追いかける。

『せ、セシリアさん!ダメです!!逃げてください!!!』

リーンの言葉にも耳を貸さずに、セシリアは迫って来る彼女の指とリーンとの間にその小さな体で割って入ると、ハンドガンの引き金を無我夢中で引いた!
ダンダンダンっと辺りに銃声が響くと同時に、拳銃から放たれた弾がアリスの肌色の指に何発も命中するが、弾はすべて弾力ある彼女の皮膚にあっさりと弾かれていく。
それでもセシリアは必死に撃ち続けた。
やがて縦横無尽に暴れまわっていた指の先端がくるっと向きを変えセシリアの方にすごい勢いで迫ってきた!

(しまった!銃弾で気づかれた!?)

当然、拳銃なんて撃てば気づかれるのは目に見えている。
普段の彼女であればそんな自らを死に追う込むような自殺行為はしないだろう。
しかし今の彼女は冷静さを欠いていた。
自分に向かってすべての進路上にあるものを蹴散らしながらぐんぐん迫って来る巨大な指を目のあたりしたセシリアは思わず顔を背けると、ライヤーが慌てて彼女を護るように体をはって自分の胸の中に抱え込む。
そして、今まさにその指の先がライヤーの背中に触れると思われたその瞬間、二人の体にピンク色のふさふさの毛で覆われた太さ30cmほどの紐(ひも)が二人の体にぐるぐると巻きつき『ぐいっ』と後ろに引き寄せられた。
リーンが自分の尻尾でセシリアとライヤーの体を自分の方に引き寄せたのだ。

「「うぐっ…」」

いきなり手前に引き戻された反動と、彼女が焦っていたからだろう・・・。
予想以上に強い力で体を締め付けられ、思わず二人は咳き込んでしまった。

『も、もう!勝手に危ないことしないでください!ってあれ?お二人ともだいじょうぶですか?もしかして苦しかったですか!?』

「けほっ。大丈夫よ。ありがとう…」

「すまねぇな、嬢ちゃん。助かったぜ…」

『よかったです。とりあえずここから逃げましょう!』

リーンは二人を巻き取った尻尾を自分の胸の前に持ってくると、セシリアとライヤーを他の二人と同じように右腕と胸の隙間にそっと入れる。
その間にもアリスの巨大な指が中の物を引っ掻き回すことで机や機器やらが空中を飛び交い、彼女の体や顔のあちこちに当たっていたが、リーンはそんな事は気にもめずに膝と爪先、そして太ももに『ぐっ』と力を込め、背中越しに天上の壁を押し上げ始める。

『んっ、んんっ!』

すると『メキメキメキ』という金属がひしゃげる音と共に『ぼんっ』と上半身が易々と天上を突き破り、リーンはそこから這い出るように、空いた左手で自分が開けた穴の隙間をさらに押し広げ、外へと脱出する。
その瞬間、後ろから突き刺さるような冷たい視線にリーンは『はっ』として、慌てて後ろを振り返る。

(もう見つかった!?に、逃げないと!)

その視線に危険を感じたリーンは、慌ててその場から離れようと空中に飛び上がり、逃亡を試みたが、次の瞬間には、アリスが彼女を捕らえるために伸ばした親指と人差し指によって体を前後から挟まれ、捕まってしまった。

『ゲホっ!!』

予想以上の力で摘まれ思わず口から大量の血を吐くリーン。
突然、赤い液体が自分たちの目の前に吐き出された事で、一瞬なにが起きたが分からず呆気に取られた桐生たちであったが、リーンが苦しそうに顔を歪めるのを見て、彼女がアリスに捕まってしまったのだと理解すると同時に、彼らを支える腕と胸の隙間がリーン体を摘む、太い2本の柱によって強く締め付け圧迫されたことで、彼らもまたその圧力に耐え切れず、悲鳴をあげた。



**********



ぼんっと天上の壁を突き破って、逃げようとしたリーンの姿がアリスの視界に入る。

『ふふふ、ついに耐え来れなくて自分から出てきちゃったのね・・・』

アリスは右手に持っていた艦橋を『ポイッ』と適当に放り投げ、彼女から見れば米粒サイズのリーンを潰さないように力を加減しながら親指と人差し指で捕まえると、空いた左手の上に乗せてしげしげと見つめる。
よく見ると、彼女の体にはたくさんの小さな痣が出来ており、額からは僅かに血がにじみ出ていた。
そのとてつもなく広い肌色の手のひらの上にへなへなと座り込むリーン。
もう彼女には飛ぶ力もそして立ち上がる力さえ残っていなかった・・・。

『ねぇ、あなたはそんな砂粒のような小人よりぜんぜん強いのに、体をはってまで護る意味が、私には理解できないのだけれど、理由を聞かせてくれるかしら?』

『理由なんて・・・ありません・・・。私が命に代えても・・・この人たちを・・・護りたい・・・ただ、それだけです!』

彼女の問いに、全身に走る痛みに顔を歪めながら、リーンは彼女の考えを否定するようにできる限りの大声でそう叫んだ。

『そう・・・。じゃあ、全力で抵抗して御覧なさい・・・』

アリスはつまらなそうにそう言いながら、体のサイズを5分の1ほどの大きさまで縮めていき、座り込むリーンの目の前に人差し指と親指でデコピンの形を作ると、『ぺチン』と彼女の顔を軽く弾いた。

『あぐっ・・・』

アリスからしてみれば、ほんの少し力を入れて軽く弾いただけにも関わらず、その反動で彼女の体は数メートルほど宙を舞い、仰向けの状態で倒れこむ。
その様子を満足そうに見つめながら、アリスは必死に両手で桐生たちを隠そうとする彼女の腕を無理やりこじ開けようとするが、リーンが予想以上に抵抗したために、思わず彼女の右腕を摘む指に力が入ってしまったのか、『ベキッ!!』という鈍い音が周囲に響き渡る。

『あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

『あら、ごめんなさいね・・・。あなたが素直に桐生たちを渡さないから、つい、力が入っちゃったわ・・・』

激痛に顔を歪め、折れた右腕を左手で押さえて体を右へ左手へと捻りながら、絶叫と共にその場で悶え苦しむリーン。
アリスはまったく悪そびれた様子もなく、少しずつ生きた玩具を壊す事を楽しむかのように『ニヤニヤ』と笑みを浮かべながら、自分の手のひらの上で苦しむリーンの姿を見つめていた。
しばらく悶え苦しんでいたリーンだったが、『はっ』と、桐生たちが自分の腕から落下してしまった事に気づき、必死に痛みをこらえながら折れた右腕を左手で支え、仰向けの状態からゆっくりと体を180°回転させ、うつ伏せの状態でアリスの手のひらの上に倒れこんでいる桐生たちを体全体で覆い隠し、その場に背中を丸めてうずくまる。

『ふふ、そんなに必死になって・・・、もっと苛めたくなっちゃうじゃない♪』

アリスは右手で彼女の体を摘み、嫌がるリーンを再び、強引に仰向けの状態にすると彼女の体に人差し指を少し強く押しあてる。

『ゲフッ・・・ゴフッ!!』

自分の肩幅よりも遥かに太い人差し指に体全体を強く圧迫され、さらに口から大量の血を吐くリーン。
この圧倒的な力の前では、彼女の自然治癒能力もほとんど意味を成さなかった。

『わ、私は・・・どうなってもいい・・・ですから・・・き、桐生さん・・・たちだけは・・・助けてください・・・お願いですからぁ・・・』

『う〜ん、どうしようかしら・・・♪』

目に涙を浮かべながら苦しそうにアリスに訴えるリーンの顔に、いてもたってもいられなくなった渚はアリスの気を引くために声を張り上げる!

「ナリスさん、目を覚まして!もうやめてぇ!!!」

渚は大声を張り上げ、アリスの事をわざと『ナリス』と呼んだ。
なんの根拠もなかったが、アリスの中で眠っているであろう、彼女にならこの惨劇をきっと止めてくれると、そう思ったからだ。
しかし現実はそう甘くはなかった・・・。
渚の思惑通りに、前のようにナリスが目覚めるような奇跡は決してなく、変わりにその声に気づいたアリスは巨大なルビー色の瞳で、渚の事を鋭い視線で射抜く。

「———っ!」

その憎悪と凶暴さを剥き出しにした、まるで獲物を狙う爬虫類のような鋭い視線に、渚は小さく唇を噛み締めて思わず一歩後ずさる。

『そんなにこの子を助けたかったら、自力でなんとかしてみなさいよ。ほら、早くしないと潰れちゃうわよ?』

くすくす笑いながら、少しずつリーンを押さえつける力を強くしていくアリス。

『ぐ・・・、ああああああ・・・いやあああああああ!』

その度に、彼女の口からは大量の血と骨が折れるような『ボキボキッ』という鈍い音と絶叫が周囲に響き渡り、思わず渚は耳を塞ぎながらその場にへたれこむ。

(や…やめ……やめ……!!)

叫びなくても声にならず、目を逸らしたくても、顔は愚か指ひとつ動かすことも叶わない。
それでも渚は眼前の一方的な殺戮を止めようと全身を震わせがら乾ききった口をパクパクと動かす。

「リーンを放せ!この化け物!!」

セシリアもまた、残っていたありったけのハンドガンの弾を彼女の指に浴びせる!
やがて弾がきれるとハンドガンを彼女の指に投げつけ、リーンの体を圧迫し続ける指から彼女を解放するために、リーンの体とアリスの指の隙間に潜り込むと、自分より身長よりも遥かに太く大きな指を退ける(どける)ために渾身の力で押し上げようとする。

『だ・・・ダメですよ・・・セシリアさ・・・私の事・・・放っておい・・・にげて・・・』

リーンは目線だけを動かして、弱々しくセシリアに逃げるように促す。

「ふざけた事言わないで!私のあなたは出会ったばかりなのよ!これからあなたといっぱい…楽しい思い出をいっぱい作っていこうと思っていたのに……。こんな…こんな終わり方、私…絶対…絶対に認めないから!!!」

瀕死の状態でも自分たちの事を心配するリーンに怒りを覚えたセシリアは目にいっぱいの涙を浮かべながら思わずそう叫んでしまった。

『セシリア・・・さん・・・。ごめん・・・なさい・・・ごめ・・・なさい・・・』

その言葉にリーンもまた丸くて愛らしいピンク色の瞳から大粒の涙を流しながら、精一杯の作り笑顔でセシリアの瞳を見つめ返した。

「どけ!セシリア!」

錯乱状態で目からたくさんの涙を流しながら必死に指を退かそうとするセシリアの姿に、アリスに対して激しい憤りを憶えたライヤーは背中に収めてある『ガンブラスター』を引き抜き、リーンを押さえつける指に切りかかった!

「うおおおおお!!!!」

ライヤーは自分と身長とほぼ同じくらいの銃剣を持っているにも関わらず、高々とジャンプし、渾身の力を込めてアリスの人差し指に向けて『ガンブラスター』を振り下ろす!

ギィィィン!!!!

「ぐあああああ」

振り下ろされた刃は彼女の指に触れた途端、まるで鋼鉄の柱にでも切りつけたような感じで弾き返されまるで稲妻が駆け抜けるようなビリビリとした感触が、彼を腕を襲った。
もちろん、アリスの指には、一筋の傷も付いてなどいない。
そして、ライヤーの体はその衝撃に耐え切れず、弾き飛ばされた反動でアリスの手の上から転げ落ち、辛うじて右手で彼女の手のしわに指をひっかけ、宙ぶらりんの状態でぶら下がっていた。
慌ててライヤーの元へ走った桐生と渚は彼の腕を掴み彼の体を引き上げようとする。

「なにしてんだおまえら!俺のことはいいから…」

「何を言ってるんですか!勝手に死なれては困ります!渚、せーので引き上げるぞ!」

「はいっ!」

「「せーーの!!!」」

間一髪、転落から逃れたライヤーと桐生と渚は今度はセシリアの方に走っていき、彼女と同じようにリーンの体とアリスの指の隙間に潜り込み、今度は4人がかりで力を込めて肌色の壁を浮かそうと踏ん張った!



**********



その一部始終をつまらなそうに見ていたアリスだったが、ふと彼女の脳裏に・・・。

『どうしてこのちっぽけ人間たちは自分の命を省みずに、そこまで必死に自分よりも何十倍もある生き物を護ろうとするのか・・・』

というひとつの疑問が浮かび上がる。
勿論、記憶を共用しているアリスは、ナリスが彼らを護るためにミサイルを破壊したり、桐生たちをビームから手で護ったり、操られて桐生たちを踏み潰そうとした自分を必死に止めたりしたことも知っていた。
その行動事態が自分にとってはあり得ないことなのだが、『強いものが弱いものを護る』それはなんとなく理解できないこともない。
ただ、人間の女性が生まれた時から備えている母性本能が働いただけだろうと思っていた。
だが助けようとする相手が、彼らから見れば自分たちよりも何倍も大きな巨人であるにも関わらず、米粒ほどの大きさの人間が彼女よりもさらに大きな自分の指を退かそうと必死に足掻いている(あがいている)。
今まで数百という星を破壊してきたけど、今までこんな馬鹿な真似をする生物はいなかった。
ただただ恐怖に怯え、他人を差し置いて我先にと、私から必死に逃げ惑う微生物たち・・・。
自分たちが生き残るためにだけに、当たり前のように私に生贄を差し出す奴もいた・・・。

私は破壊神・・・。
すべてを破壊し、無に還すのために生き続ける存在・・・。
でもなにか・・・大事な事を忘れている気がする・・・。
こいつらの存在が・・・私をそんな気持ちに追いやる。

(なんなの・・・この・・・私の存在自体を・・・否定するような・・・、でも・・・うう・・・思い出せない・・・気持ち悪イ・・・こいつらのセイダ・・・こいつらを殺せばこのモヤモヤも晴レルニ違イナイ・・・・・・殺シテヤル・・・・・・・殺シテヤル!!!)

アリスは自分の人差し指の下にいる桐生たちを潰すため、リーンを押さえつける指先にさらに力を加える。
その重みでリーンと彼らの顔が今までで一番の苦痛と激痛の顔に歪んでいくのが分かる。
アリスは無理やり笑みを浮かべながら彼らにトドメを刺すために最後の力を加えようとする。



**********



「ぐっ…なんて力だ…」

「隼人さん…もう、これ以上は……」

「ち、ちきしょう…、な、なんのために鍛えていたんだよ…俺は…」

「うっ…、くっ……」

4人は片膝をついてなんとかその圧倒的な圧力に耐えていた。
無論、アリスからしてみればほとんど力などを加えてはいない。
だが彼らにしてみれば、まるで象にでも踏み潰されかけてるようなそんな感覚だ。
と、急に『ぐぐぐっ』と一段と彼らを押さえつける力が強くなり始める。
アリスが息の根を止めるために指先にさらに力を加え始めたのだ!

『あぐっ・・・ぐ・・・んんっ・・・』

リーンは瀕死の状態にも関わらず、なんとか彼らを自分から遠ざけようと、まだ感覚が残っている左腕を動かそうとするが、自分の意思に反して彼女の左腕は、まったくいうことを利いてはくれなかった。

(なんで・・・動かないですか・・・動いて・・・動いてくださいよぅ・・・)

リーンもまた悔し涙で顔をくしゃくしゃに濡らしながら、苦しむ桐生たちを事を見つめてることしかできなかった。
そして桐生と渚、セシリアとライヤー、そしてリーンもついに『死』の瞬間が来る!
そう覚悟を決めた時、事態は急変した。
あれだけ強く押し付けてられていた指が彼らの頭上から取り払われたのである。
アリスはリーンの事を押さえつけていた右手をこめかみに当てながら頭を抱え、額に沢山の汗を浮かながら、『ハァハァ』と息を荒くして苦しんでいた。
その様子に暫しあっけに取られたセシリアたちだったが、すぐに我に変えるとリーンの顔の近くに歩み寄り懸命に彼女に話しかける。

「あきらめちゃダメよ!いますぐ救援を呼ぶから!!」

セシリアは必死に彼女の頬にしがみつき、彼女の意識が途絶えないように声をかけ続る。

「くそっ…、なんで繋がらないんだ!なにか方法はないか…なにか!」

桐生は自分の軍用携帯を取り出して、本部に連絡を取ろうとするがまったく繋がらなかった。
徐々にリーンの体から体温が抜けていく・・・。

「だめよリーン、しっかりなさい!元気になって楽しい事をいっぱいしましょ!ねっ、リーン!!」

『ごめん・・・なさい・・・もう・・・この体を・・・維持するのも・・・無理・・・みたい・・・です・・・』

リーンは気力を振り絞って首だけを動かし、セシリアの方に向き直ると無理やり笑みを作りながら、セシリアに方に向き直る。
桐生たちもまた悔し涙を浮かべながら、その光景を見つめることしかできなかった。

「リーン!だめよ!あきらめちゃだめ!!」

『セシリアさん・・・こんな・・・私の事を・・・いっぱい・・・いっぱい・・・愛して・・・くれて・・・ありがとう・・・です・・・。リーンは・・・宇宙一の・・・幸せ・・・ものです・・・。えへへ・・・』

「もういい!もういいから!喋らないで!」

セシリアの言葉に、リーンは弱々しく首を横に振り、話を続ける。

『セシリアさん・・・私の・・・最後の・・・お願い・・・きいて・・・くれますか・・・?』

「お願いだから…、お願いだから…最後なんて言わないで…リーン!!!」

彼女のほんのり暖かな頬に体を預けたまま、その場に崩れ落ちるセシリア。

『お願いです・・・聞いて・・・ください・・・セシリア・・・さん・・・』

セシリアも、座ったまま目線だけをリーンの顔の方に向けて小さく頷く。
リーンはうれしそうに、彼女の額に軽くキスをすると、ゆっくりと目細めて、たくさんの涙を流しながら最後の言葉を口にする。

『大好き・・・です・・・セシリア・・・さん・・・。私の分まで・・・生きて・・・幸せに・・・なって・・・くだ・・・さい・・・ね・・・』

サァァァァァァ……

その言葉を最後に、リーンの体は無数の光りの粒となって空に融けていき、その光りが消えたあとには、一匹のピンク色の毛並みで覆われた小さな子猫が、力なく横たわっていた……。

「あ、あぁぁぁ……リー…ン…、リィィィィィーーーーーン!!!!!」

息絶えた子猫を抱きながら、セシリアは目尻にいっぱいの涙を浮かべ、空に向かって泣き叫んだ!
渚も両手で顔を覆いながら、セシリアにも負けないくらいの大声で泣き叫んだ!
桐生とライヤーもまた目を逸らし、唇をかみ締めながら同じように涙を流していた・・・。

パァァァァァァァァァァァァ……

突如、桐生と渚の目の前に手のひらサイズの光の球が姿を現す。

「こ、これは…」

「な、なに…?」

困惑する桐生と渚。
セシリアもまた泣くのを止め、その優しいオーラを放つ光の球を涙でくしゃくしゃになった顔で、ただただ見つめていた・・・。

(私たちの…所へ…一緒に…来て…桐生…。渚…。そして…『彼女』を…救うために…力を…貸して…)

ふと、二人の頭の中に、自分たちどこかへ導くような、ナリスの優しい声が響き渡る。

「ナリス!?ナリスなのか?」

「ナリスちゃん!?どこ!?どこなの!?」

次の瞬間、眩いばかりの暖かな光が二人の体を包む。

「う、うわ…」

「きゃ…」

桐生と渚はその光に導かれる様にその場に倒れこみ、意識を失った・・・・。



****************************
破壊神の深層心理(ナリスside)
****************************



私は夢を見ていた。
誰の夢かは分からない。
誰かが…かつての私みたいに…見境なく暴れてる…ここはどこだろう…、地球じゃないみたい…私の中に…この人の…心が流れてくる…。

『……苦しい……悲しい……誰か……助け……て……』

場面が切り替わり、今度は真っ暗な暗闇の中で一人すすり泣く、少女の影がゆらゆらと揺れていた。

『ぐすっ…ひぐっ…えぐっ…』

ねぇ?あなたは…なんで泣いているの…?
夢の中で『彼女』に問いかけてもその影の少女は答えてくれない・・・。


・・・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・。


・・・・。


・。


(ん…、ここは…どこ…今のは…夢…?)

私はただ暗い空間を漂っていた。
なにもない、ただ黒く重いモヤが自分の体にまつわり付いている感じ。
とても不愉快で気持ち悪い・・・。

(あ、そっか…私、死んじゃったんだっけ…)

私は自分の心の中であの破壊神とかいうやつと戦って、彼女に負けて消滅させられた。
その時の事はなんとなく覚えている。
じゃあここは天国?
そんなわけないよね…だってあれだけの事をしたんだもん…。
もしかしたら、パパやママたちと会えるかな?
なんて思ってたんだけど、やっぱり無理よね…。
じゃあ、ここは地獄?
地獄ってもっと怖いところだと思ってたけど…なんにもないのね…。
寂しいな…。

(ナリス…さん…)

誰…。

(ナリス…ん!)

誰?私の名前を呼ぶのは…。

(ナリスさん!)

突如、私の前に青白い光の球が現れる。
その透き通った声に私の意識は強く覚醒した。
宙ぶらりんだった体をゆっくり起こす。
するとその青白い光の球は徐々に人の形を模していき、一人の女性の姿を変えていく。
私よりも長い少し青がかった髪と綺麗で整った顔立ち。
そしてどことなく放つ、神秘的で知的な雰囲気の女性が私の前に現れる。

(あなたは?)

(始めましてナリスさん。私はユーリ・エクスタシアと言います。ユーリと呼んでください)

(私の事を呼んでいたのはあなた?)

(はい、私です)

(どうして、私の名前を?)

(桐生さんや葉山さんが、あなたの事をいつもそう呼んでいたので、自然と覚えてしまいました)

(そっか…)

その言葉に少しうれしくなった私は自然と頬が緩んでしまった。
私は改めて彼女の方に向き直ると、自分の今の状況を知るために彼女に問いかける。

(ねぇ?ここは…どこ?)

(ここは『彼女』の深層心理です)

(深層心理?)

こくんと頷くユーリ。

(あなたは、どうしてここに?)

(私は…『彼女』に飲み込まれ、肉体は、『彼女』の体の一部として取り込まれてしまいました。そして魂もまた、この深い闇の中に溶け込んで、私は完全に消滅するはずでした。ですが、ナリスさんが放つ、強い生命の光のおかげで、こうして闇に取り込まれずにあなたと出会う事ができた。本当に感謝しています……)

(…感謝だなんて…とんでもないわ…。私がもっとしっかりしていれば、あなただって…死なずにすんだのに……本当にごめんさい……)

私は顔を俯かせ、しょぼんと肩を落とした。
彼女になんてお詫びしていいか分からない…。
私のせいで…彼女の一生を…終わらせてしまった…。

そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、ユーリはナリスの体をそっと抱き寄せ、そのまま優しく抱擁する。

(あ…、この人の匂い…お母さんの匂いと…似てる…)

ナリスもまた彼女の体に腕を回して少しきつめに『ギュッ』と抱きしめた。


・・・・・・・・・。


・・・・・。


・。


しばらくの間、無言で抱き合う二人。
そしてナリスを抱いたまま、ユーリは彼女の綺麗な蒼い瞳をまっすぐ見つめて、ゆっくりと首を横に振る。

(ナリスさん…、私は誰も恨んではいません。それに一度、私も『彼女』に体を乗っ取られたという点ではあなたと同じです。どうか自分を責めないでください……)

ナリスも彼女の少し冷たくて、どこか懐かしい温もりにゆっくりと顔を上げて、ユーリの吸い込まれそうなほどに透き通った黒く輝く瞳を見つめかえした。

(うん…。ありがとう…。優しいのね…)

やがてユーリは彼女の体を離すと真剣な表情でナリスの顔を見つめなおす。

(ナリスさん)

(なに?)

(あなたに、見せたいものがあります)

そう言うとユーリは自分の体とナリスの間にある何もない空間に手をかざす。
すると、アリスの巨大な指によって今まさに潰されそうな桐生たちやリーンたちの苦しむ姿が映像として二人の前に映し出される。

(桐生!渚!!)

その映像を見た途端、ナリスの体は痙攣を起こしたようにガクガクと振るえ、そのままユーリを腕を強く掴み…唇をかみ締め、彼女の体を激しく揺さぶりながら必死に訴える。

(やだ…やだ…!もう誰も失いたくない……!何とかみんなを助ける方法はないの?ねぇ…!ユーリ!!!)

興奮しながら自分の腕を掴み、目尻にいっぱいの涙を浮かべるナリスの姿に、ユーリは彼女の頭にゆっくり手を置き、安心させるように優しくなでながら、静かにナリスに向かって優しく微笑む。

(あなたなら、そう言ってくれると思っていました。だいじょうぶ…彼らを救う方法はあります。ナリスさん、あなたも見たでしょう?)

(え?な、なにを…?)

(彼女の…『破壊神』の過去を…)

(う、うん…、とても苦しくて…辛そうに…泣いていたわ…)

(そうですね…なら、解き放ってあげましょう。『彼女』を…この悠久なる運命から…。そして思い出してもらいましょう。『彼女』の大切な過去の思い出を…)

(うん…。でも、どうやって?)

(桐生さんたちをこの世界に導いてください。そして強く願ってください。『彼女』を救いたいと…。私たちと桐生さんたち4人の…お互いを想う力はきっと暴走する『彼女』を救ってくれる…。私はそう、信じています…)

その真っ直ぐな彼女の眼差しにナリスは静かにこくんと頷いた。

(では、いきます。)

ユーリは彼女の右手の指に自分の左手の指をそっと絡めて目を閉じ、精神を集中し始める。
ナリスのまたきつく目を閉じて、二人に自分の声が届くように精神を集中して強く念じた。
やがて二人の体が共鳴し、淡い光を放ち始める。


・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・。


・・・・。


・・。


・。


(私たちの…所へ…一緒に…来て…桐生…。渚…。そして…『彼女』を…救うために…力を…貸して…)

私は強く願った。
桐生たちを救いたい・・・。
ううん・・・。
二人だけじゃない。
まだ直接あった事も喋った事もないけど・・・。
あのピンク色の子猫ちゃんも・・・。
ユーリも・・・。
そしてこの世界も・・・!
みんな、みんな・・・救いたい!!

ナリスの強い想いに反応してか、二人の体から放たれる光が一段と強くなる。

(邪魔ヲ、スルナァァァァァ!!!!)

突然、その禍々しい声と共に二人に向かって黒い突風が嵐のように吹き荒れる!

(キャアアア…)

(くっ…)

やがてその突風が止むと、二人の目の前にどす黒いオーラをまとった球体が姿を現し、しばらくするとその球体は、ユーリの時と同じように徐々に人の形を模していき、銀髪のツインテールにやや目じりがつりあがった真紅の瞳を持つ少女へと姿を変えた。

(やはり、現れましたね…)

ユーリは閉じていた目を開け、突如自分たちの前に現れた、銀髪の少女の事を静かに見つめる。

(アリス…なの…?)

その見覚えのある自分そっくりの少女にナリスは静かに問いかける。
すると、アリスは『キッ』っと敵意をむき出しにして、鋭い眼光でナリスとユーリの事を睨みつける。

(オ前タチ…マダ消エテイナカッタノカ…私ハ、私ノ存在ヲ脅カス、イレギュラーヲ、始末スルンダ…!邪魔ヲ、スルナ!!)

(あなたは、本当にそれでいいの?)

(黙レ…)

(あなたは、果てしなく長い年月を生きてきたせいで、大事な事を忘れているのです)

この度はユーリが彼女になにかを促すように、優しく話しかける。

(黙レ!黙レ!!黙レ!!!黙レェ!!!!)

ユーリは、叫ぶアリスの声に怯む事無く、言葉を続ける。

(私もずっと昔に、あなたに取り憑かれた時に、あなたの苦しみを…少しでも分かってあげられれば…あなたを救うことができたかも知れないのに…ごめんさい……)

(ウルサイ…ウルサイ…ウルサイ…ウルサイ!…入ッテクルナ……)

アリスは狂乱状態でその場にしゃがみ込み、両手で頭を抑え、いやいやと頭を振りながら苦しみ始める。

ナリスは、悶え苦しむ彼女にそっと手を差し伸べる。

(だから…今度は、私たちと一緒に、あなたの本当の姿を、見つけにいこう?ね?)

(ヤメロ…ヤメ…ロ…私ノ中ニ…入ッテ…クルナ…入ッテ…クルナァァァァァァ!!!!ウアァァァァァァ!!!!!!)

やがて、ナリスを中心に・・・、彼女の手から、力強く・・・、そして、とても優しくて暖かな、眩い光が暗闇全体を包み込み・・・、苦しんでいたアリスの体はその光の中に溶けていった・・・。





第5話『絶望と希望の狭間で』・・・完・・・。