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注意
この作品はSF小説風巨大娘SSです。
実際に登場する人物、団体は一切関係ありません。
物語風SSはダメ、SFは苦手、という方、または他の作品と類似した演出があっても、それらを含めて許せる方のみ閲覧ください。
なお、話に出てくる人物の体の大きさを区別のために下記のように分類わけしております。
また、場面切り替えの目印として私の尊敬する作品を参考に*を使って区切ってみました。
『』・・・主に巨人サイズの登場人物またはあとから巨大化した人物の会話シーンに使用(一部例外あり)
「」・・・主にノーマルサイズの登場人物の会話シーンに使用
()・・・主に登場人物の心の声で使用
<>・・・その他の音声会話等に使用
以上、つまらない補足失礼しました。では本編の方をお楽しみください。
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女神黙示録第6話「変わりゆく心、変えられない運命」
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破壊神の深層心理(ナリスside)
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だれがが泣いていた。
私は声がするほうに意識を集中すると、真っ暗な闇の中に当てられた一筋のスポットライトのような小さな光の中ですすり泣く、影の少女の姿がいた。
「もう、嫌・・・」
「いくら負を喰らっても満たされない日々から開放されたと思ったのに・・・」
「せっかくお友達になれたのに・・・」
「ずっとずっと一緒にいられるとおもったのに・・・」
「ニーニャ・・・ニーニャ・・・」
「どうしたらもう一度あなたに会えるの・・・、教えてよ、ニーニャ・・・・・・」
「ぐす、えぐっ・・・・・」
私はその姿を見みて思った。
これが私の姿を模したアリスとは違う、本当の『彼女』なんだと・・・。
今までの冷たく高圧的な態度とはかけ離れたとても弱々しい『破壊神』の姿。
悪意と憎悪という殻に篭り、この暗闇の中でひとりぼっちで、彼女はずっと泣いていたんだ。
「寂しかったんだね・・・」
私はできるだけ優しく影の少女に語りかける。
みんなの姿が見える。
ナリスの手を桐生が握っていた。
それだけじゃない。
少女の影を囲むようにして。
桐生は渚と。
渚はユーリと。
そしてもう片方の手でユーリが私の手を握って。
みんな、手を繋いでいた。
「桐生・・・渚・・・来てくれたんだね・・・」
私のその言葉に桐生と渚は微笑みながらこくんと頷いた。
パァァァァァァッ!!!!
すると4人の体が淡い光を放ち始め、まるで古ぼけたノイズ混じりの一昔前の映画のようにゆっくりと私たちの脳裏に破壊神として生まれた『彼女』の過去の記憶が流れてきた・・・。
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破壊神の深層心理(破壊神side)
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・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・。
・。
誰かが私の名前を呼んでいる…。
暖かい・・・。
誰・・・・・・。
昔の記憶が蘇ってくる・・・・・・。
ああ、懐かしい・・・・・・。
ニーニャ・・・・・・。
破壊神として生まれた私の一番の友達・・・・・・。
ねぇ?どうしたらあなたにまた会える?
教えて・・・ニーニャ・・・。
ニーニャは酷く悲しそうな目で私の事を見つめている・・・。
あの頃の記憶が私の中で鮮明に蘇ってくる。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
・。
それは太陽系が生まれるもっともっと前のころの話・・・。
私は気づいたらこの広い宇宙に浮いていた・・・。
宇宙の片隅で生まれたこのころの私には、まだ肉体があった・・・。
なにも覚えていなかった・・・。
自分がどうしてこんなところで浮いているのかも・・・。
ただ唯一覚えていたのは・・・
<・・・殺セ・・・滅ボセ・・・スベテノ負ヲ・・・喰ライ尽クスノダ・・・>
という言葉だけ・・・。
どこかの誰かも分からない声が、私の頭の中を駆け巡っている。
殺す?
誰を?
滅ぼす?
なにを?
負?
負ってなに?
喰らい尽くす?
どうやって?
どうやって食べればいいの?
問いかけてもだれも答えてくれない。
私の隣には今の自分とほぼ同じくらいの大きさの星が浮かんでいる。
ドックン!!
『ぐっ・・・』
その星を見た途端、体中の血が一気に騒ぎだし、徐々に高まっていく破壊衝動を私は抑える事ができなかった・・・。
頭の中にまたあの声が響く。
<全テノ・・・負ヲ・・・喰ラエ・・・喰ラウ・・・ノダ・・・>
私は本能的にその星の近くまでいき、顔を埋めてみる。
その星の中には視覚では確認できないほどの小さな小人が上空を埋め尽くす私の顔をみて、底知れぬ『恐怖』に怯え、慌てふためいて逃げ惑うのがなんとなくわかった。
(あ・・・、なんか・・・気持ちいい・・・)
その小人たちが放つ、負の波動がわたしのお腹を徐々に満たしていき、どんどん力が沸いてくるのが自分でもはっきり分かった。
(そっか・・・、これが私の力の源なんだね♪)
すっかり気分がよくなった私はかる〜く息を吸い込むと、『ふぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!』と小人たちが巣食う大地に向かって息を吹きかけてみた。
すると今度はさっきとは比べ物にならない量の『恐怖』『嘆き』『痛み』『苦しみ』といった様々な負の波動が私の中に入ってくる。
(――っ!!!)
ドックン!ドックン!!ドックン!!!
その波動をを一点に浴びた途端、稲妻にでも撃たれたようなそんな衝撃が体の中を突き抜けていく。
それにあわせて私の体もどんどん膨れ上がっていく。
そして、気づいた時には私の体はその星よりも一回り大きくなっていた。
『ああ、やばいわ・・・、今のは・・・かなり・・・気持ちよかったかも・・・♪じゃあ今度は、こんなのはどうかなぁ?』
私は笑みを浮かべながら、星に腕を回して、少しずつ星を締め上げていく。
腕が大地に深くめり込み、小人たちが住む星は丸い球体から、まるで空気が抜けたビーチボールのようなに歪な形に変形していき、星のいたるところで大爆発が起きる。
『あああ・・・、いいよ〜・・・いいよ〜〜〜・・・もっと怖がって!もっと苦しんで!!そして私を満足させてぇ!!!』
締め上げる所を中心に、どんどん潰れていく星から放たれる負の波動を体いっぱいに浴びて、私の快感度は頂点に達し、つい興奮して締め付ける力を一気に強めてしまった。
スゴゴゴゴゴゴ!!!!!ドカーーーーーーーン!!!!!!
その星はついに私が加える力に耐えきれなくなり、私の胸の中で粉々に砕け散ってしまった。
たくさんの破片が体のあちこちに当たったけど、私から知れ見れば、大きくてもせいぜい、小指の先にと同じくらいの大きさしかなかったし、痛くもかゆくもない。
そして、その星を初めとして、私は喰らっても喰らっても、すぐに乾く、空腹感を満たすためだけに、数百、ううん・・・、数千かな・・・正確な数はもう覚えていないけど、それくらいの数の星を本能のままに襲い、破壊していった。
でも、私の餌である負の波動を放つ小人が住む星はほとんどなかった。
ほとんどが生命が住めないような星ばっかりで、そんな無人の星は私にとっては空腹感からくる苛立ちと憤りから生まれるストレスを発散するための玩具でしかなかった。
腕を大きく振り降ろして上から真っ二つにしたりとか、太ももで挟んで潰したりとか、尻尾で絡め取ってそそのまま、力いっぱい締め付けて粉砕したり、時には10本の指を大地にを思い切りにねじ込んで、力任せに左右に引き裂いたこともあるし、そのままカブリ付いた事もあったかな。
ぜんぜんおいしくなかったけど・・・。
中には今の私よりも何倍も大きな星もあったけど、その時の私は空腹でイライラしてたから、そのままその星の大地の上に立って拳に破壊の力を貯めて放つ最終奥義『黙示録撃(ハルマゲドン)』で木っ端微塵にしてあげた。
でも、やっぱり小人たちがいる星のほうが襲っていておもしかった。
だって私が、星に顔を近づけて、見つめるだけで、その小人たちは私の事を怖がって、負の波動をいっぱい放出してくれるんだもん!
だから、私はわざわざ体を小さくして、小人たちが住む大地に降り立って、簡単には殺さずに弄ってあげたの・・・。
私の貴重な食料を搾り取れるだけ搾り取るために。
どんな感じで搾り出しかって言うと、まずはかる〜く小人がいないのとろを踏み抜いて、脅かして。
そのまま逃げ惑う小人たちからあふれ出る私にしか見えない『恐怖』『痛み』『嘆き』『苦しみ』といった感情から生まれた負の波動を全身で浴びて・・・。
途切れてきたら今度はさらに怖がらせるために今よりもっと、もっと大きくなって、腰を手を当てて睨みつけるだけ、それだけでまた私の餌がいっぱい沸いてくるのよ♪
最高だよね!
で、固まって逃げようとする小人たちの周りの大地に人差し指をを差し込んで、円の形に削り取るの。
それだけで小人たちにしてみれば、堕ちたら最後の断崖絶壁になっちゃう。
そんな感じで退路を断って、今度は、そのまま両手の指をその溝に差し込んで何百人、何千人、時には何万人という小人を大地ごと持ち上げて胸に抱える。
『すごいでしょ?私の力。じゃあこのままこの地面ごと、ゆっくり抱き潰して上がるから。いっぱい、いっぱい怖がって死んでいくといいよ!あっははは!』
そんな台詞を小人たちに吐き捨てて、少しずつ、大地を支える腕に力を加えていく。
やがて支える大地に無数の亀裂が走り、その隙間に呑み込まれ潰されていく小人たち。
本気を出せば一瞬で粉々にできるにも関わらず、時間をかけていけばいくほど、私の大好きな負の波動がどんどんその大地から染み出してくる。
『ああ、もうあなたたち、最高ね!』
私は喜びのあまり、歓喜の声をあげてしまった。
でもやっぱりだんだんと取れる量がすくなってきて、ついにはまったく負の波動が摂取できなくなる。
『あら?もう終わり?じゃあ、しょうがないわね。これで、あなたたちは用済みってわけで―――』
私は自分の腕の中の小人たちが巣食う岩盤に今度は手加減なしの本気の力を一気に注ぎ込む!
「――ふんっ!!!!!!」
バッゴォォォォォォォンンン!!!!
轟音と共にガラガラと音を立てて粉々に砕け散る岩盤。
辛うじて生きていた小人の断末魔。
そして最後には宇宙に出てもとの大きさに戻ると、手の中に楽々収まっちゃう小人の星を両手で少しずつすり潰しながら、最後の一滴まで残さず喰らってあげた。
そんな感じで私は空腹を満たすのとストレス発散のためだけに数百億年もの間、宇宙を彷徨い続けた。
このころの私の体の大きさはもう周りのどの星よりの二周りくらい大きかった。
圧倒的力で破壊できる自分の力に酔しればがら・・・。
私に壊せないものなんて物なんて存在しない。
この時の私はそう思っていた・・・。
私の破壊神としての運命を変える少女・・・。
『ニーニャ』と出会うまでは・・・。
****************
グルームブリッジ星系 惑星エデン
****************
そして私はある星にたどり着いた。
その星は今の私よりも二周りほど小さくて青く澄みきった綺麗な星だった。
『うわぁ・・・きれいな星ね。ちょっと降りてみようかな♪』
いつもだったら一度星の中を覗いて、小人の存在を確認するんだけど、今回見つけた星は今まで襲ったどの星よりも美しくて、このまま抱き潰しちゃうのも、もったいないかもと思った私は体の大きさを100メートルくらいまで小さくしてその星の大地に降り立った。
『ずしーーん!』という重々しい音と同時に、大地が震え、周りにあった森の木を何十本かを踏み潰した。
どうやらどこかの森の中に降りたみたい。
森から次々と空を飛ぶ生き物が私の回りから逃げ出していく。
『うん!こんなに生き物がいるなら、きっと小人もどっかにいるわよね♪』
ズシーーン!ズシーーーン!!ズシーーーーン!!!
私は地響きをたてて木々を踏み潰しながら適当に歩みを進めてたが、小人らしき姿はどこにも見当たらなかった。
『この辺にはいないのかな・・・』
大岩をどかして覗いてみたりしたけど、やっぱり小人の姿は見つからなかった。
『うーん・・・、いないなぁ・・・、絶対にいるとおもったのに・・・、場所を変えてみようかな』
私は膝に手を当てて立ち上がると、羽を広げて顔を空へと向けて舞い上がろうした、その時・・・。
「きゃあああああ!!!」
不意に、誰かの叫び声が私の耳の中に響いた。
『え?』
その声に飛び立つために上げていた顔を再び地面のほうへ向けて声が聞こえたほうに意識を集中する。
するとそこにはこの星の住人であろうか?
一人の小人が自分の体よりも遥かに大きいモンスターに襲われている光景が飛び込んできた。
私から見ればそのモンスターは10cmくらいだろうか・・・。
そんなやつに私の貴重な食料を奪われるわけにはいかない!
私は周りの木々を踏み潰しながら、駆け足でその小人とモンスターが対峙する場所に近づくと、今まさにその小人の体を喰らおうと大口を開けたモンスターを動きが止まる。
私が起こした地響きに気づいて、周りをキョロキョロ見渡しながら周囲を警戒しているみたい。
そして私の存在に気づいたそのモンスターは顔を上に向けて私の顔を見つめながら咆哮と共に私の事を威嚇し始める。
『ちび虫のくせに私に威嚇するなんて、生意気よ!おまえなんか、こうしてやる!!!』
私は腰を抜かしている小人を潰さないように慎重に摘んで自分の手のひらの上に乗せると、怒りを込めて吼え続けるモンスターを『グチャリ!』と踏み潰してやった。
そして私は手のひらを自分の目線と同じ高さに静かに持ってくると、手の上の小人に視線を向ける。
私は他の星を襲撃するうちに小人にはオスとメスがおり、さらに大人と子供という成体期と幼児期があることを学んだ。
たぶんこの小人は幼児期なのかな。
その小人はとても小さくて、どうやらメスの子供のようだった。
どうやらまだ小刻みに震えているみたい。
それはそうだよね・・・。私、こんなにおっきいんだもん。
きっとさっきのモンスターから救われたとおもったら、もっともっとおっきな『怪物』に捕まっちゃったんだもんね。
(でも、この子、なんかかわいいな・・・。)
思わずそんな事を思ってしまった。
なんでそう思ったのかは自分でも分からない。
そう思っていると急にその女の子はふらふらと立ち上がり、目の前の私の顔に向かって小さな声でぽつりと喋り出した。
「あ、あの、危ないところを助けてくれてありがとう。おねえちゃん!」
ぺこりと深々と頭を下げてあたしに感謝してくるその女の子。
その、今までとは違った小人の反応に私は思わず我が目を疑った。
まさか、自分に向かって感謝してくるなんて想像もしていなかったから・・・。
『あのね・・・。私はこの星を侵略しようとしてる、『わる〜い』宇宙人なの!今からあなたを食べちゃおうと思ってるんだから!』
私はわざと『わる〜い』という言葉を強調しながら目を細めて、少し威圧的に脅してみる。
これならいくらなんでも怖がるでしょ。
そしたらこの子の体から染み出た負を喰らって、ついでにこの子に他の小人がいるところまで案内させて、他のやつらの負も喰らい尽くす。
(私ってあったまいい♪)
だが、私の考えとは裏腹にその女の子は怖がる様子をみせず、逆に少し怒ったような顔をして私に話しかけてくる。
「そんなの嘘だもん!」
その女の子は首をぶんぶんと横に振って私の言葉をきっぱり否定した。
『へっ?』
腰に両手を当てて頬を軽く膨らませながらプンプン怒るその女の子の迫力に私は思わず言葉を失ってしまった。
なんなのこの子・・・。
まさか、私が雰囲気で圧倒されるなんて・・・。
というかなんで私をみて怖がらないのよ・・・。
『あなた、私の事が怖くないの?』
私が戸惑い気味にそう彼女に問いかけると、その女の子は膨らましていた頬を緩めると、にっこりと笑いながら首を大きく縦に振った。
「だって私の事を魔物から助けてくれたもん!だからおねえちゃんとってもいい人なの!」
『・・・・・・・・』
私は言葉を失ってしまった・・・。
なんなのよ・・・。
この子の体から染み出る、純粋無垢なオーラは・・・。
『あなた、名前はなんていうの?』
「わたし?あたしの名前は、ニーニャだよ♪」
なんかこの子といると調子が狂う・・・。
私の言う事ぜんぜん信じてないし・・・。
さっさと別れて、他の小人を探しにいこう・・・。
そう思った私は彼女を降ろすために片膝を下り腰を低くして手を地面につけて、手のひらの上から降りる様に彼女に促す。
「あ、そうだ!」
ニーニャは私の言われるがままに、一度手の上から降りようとしたが、ふと、なにか思いついたのか動きをとめ、私の方に振り向く。
「おねえちゃん、わたしの村まで一緒に行こうよ。助けてくれたお礼をしたいの!きっとみんなも歓迎してくれる思うから!ね?いいでしょ?」
ニーニャの急な提案に私はびっくりして思わず無言で彼女の事を見つめてしまう。
ニーニャはそんな私の態度に不思議そうな顔をしてくる。
私を・・・歓迎する?
そんな事ありえるわけないじゃない・・・。
そう思った私だったけど、ふと自分の頭の中に別の考えが浮かぶ。
(このまま、この子に小人が沢山いる所にまで案内させて。そこでまた、たくさんの負の波動を吸収すればこのよく分からない、モヤモヤ感も吹き飛ぶかも・・・。そうね・・・そうしよっと・・・)
そう思った私はニーニャと提案に乗る事にした。
『そうね・・・。せっかくだから、案内してもらおうかな・・・。ついでにあなたもその村まで送ってあげるわね』
「やった♪」
ニーニャはうれしそうに私の手のひらの上で飛び跳ねて喜んでいる。
私は本心を悟られないように気をつけながらニーニャを落とさないように慎重に立ち上がる。
『で、村はどっちなの?』
「えっとね・・・、あっち!あの山を越えた先だよ!」
『随分遠くからきたのね・・・。あなたの足じゃ1日で戻れないんじゃないの?』
「そんな事ないよ。わたしね、これでも村一番の俊足が自慢なんだから!往復でも一日かからないよ?」
『ふーん・・・』
「あー、その顔・・・信じてないでしょ!じゃあ今度競争しようよ!ねっ?」
この子、本気でいってるのかしら・・・。
ふつうに考えて私が勝つに決まっているでしょ・・・。
この子は天然なの・・・?
そんな事を思いながら、私はニーニャを手に乗せたまま、背中に生える6枚の漆黒の翼を大きく広げ、大地を蹴って、空へと舞い上がった。
*************
惑星エデン北部 ガゼット村
*************
ズズズズズズゥゥゥゥゥゥゥゥンンンンンンン!!
私はニーニャの村のほぼ中心部に降り立った。
『さ、ついたわよ』
そして片膝を折り、腰を低くして手を地面につけながら、ニーニャに手の上から降りるように促す。
「ありがとうおねえちゃん♪今、みんなを呼んでくるから待っててね!絶対にどっか言っちゃダメだからね!」
そう私に言ってニーニャは手のひらの上から飛び降り、うれしそうに村の奥の方へと消えてしまった。
私は再び立ち上がると両手を組んで、仁王立ちの格好で、巨塔のように村の中心に立ってニーニャが戻ってくるのを待つことにした。
それにしても、本当にちっぽけな村ね・・・。
こんな規模の集落じゃ腹の足しにもならいわ・・・。
あの子の関わっていると調子が狂うし、さっさと移動したいのは山々だけど・・・。
っていうか、別に約束を護る義理なんてないけど、あの子が泣き出したらめんどくさいし・・・。
って別にあの子が泣こうが喚こうが知った事じゃないけど、というか泣いたり喚いたりしたほうが、私の大好物な負の波動が手に入って都合いいのに・・・。
なんで律儀に待ってるのよ私は・・・。
そんな事を思いながら、私は暇だったので周りを見渡してみる。
周りにある小人の家なんか、私の足首と同じくらいの高さしかない。
今までいろいろな小人の星を巡ってきたけど、この星の文明レベルはそんなに高くないみたい。
『!?』
ふと自分の事を見つめる複数の視線に気づき、私はその視線の先へと顔を向ける。
「わー、おっきなおねえちゃんだ!」
「すげー!」
「足に登ってみよーぜ!」
「おー!」
「あたしも!あたしもー!」
するとそこにはニーニャよりも一回り小さな子供たちが興奮しながら私の足にしがみ付いていた。
なかには、よじ登ろうとしている子もいる・・・。
『な・・・、ちょ、やめ・・・』
私はびっくりして思わず、一歩あとずさる。
ズシィーーーン!!
砂煙が舞い、私が踏み込んだ衝撃で、大地が裂け、しがみついていた子供たちはころころと大地を転がりながら吹き飛ばされてしまった。
ちょっと悪い事しちゃったかな、なんて思いつつ、でも私にとっては結果オーライだったかもしれない。
踏み潰してはいないみたいだし、今ので、さっきの子供たちも、そして他の村人たちも、私の存在に慄き、悲鳴を上げながら逃げ惑う。
そのはずだったのに・・・。
私が放った衝撃波で吹き飛ばされた子供たちは、泥だらけの服で再び足元まで近づいてくると、なぜか目をキラキラさせながら、私の事をじーーっと見つめてくる。
私・・・、見せ物じゃないんだけど・・・。
というか、何で逃げないの?
踏み潰されるところだったんだよ?
なんで怖がってくれないの!?
なんで泣き叫けんでくれないのよ!
もう!もう!!もうっ!!
だいたいこの子たちの親はなにしてるのよ!
自分の子供が怪物に踏み潰されそうになったのよ!?
なんで助けにこないわけ?
ニーニャといい、こいつらといい・・・。
もしかしてこの村の小人は怖い目に遭ったことないのかしら?
そんな事を思いながら私が頭を抱えていると、先ほど吹きとばされた子供たちが話しかけてきた。
「おーい!かみさまー!」
「かみさまって、でっかいんだぁ!」
「かみさまー。手にのせてー!」
「のせてー!のせてーー!!」
神様?
まさか私の事をいっているの?
あのね・・・、どこをどう見て私が神様だとか言っているわけ?
こんな黒い羽としっぽが生えた神様がいるわけないでしょうが・・・。
もうあったまにきた!
こんな村、壊滅させてやるんだから!
どうせこんな小さな村じゃ、喰らったところで腹の足しにもならないんだしね!
とりあえず、こいつらに本気になった私の力を見せ付けてやる!
『聞け!愚かな小人ども!よくもこの私を馬鹿にしてくれたわね!罰として、今から私の本当の力みせてやるから!覚悟しなさいよ!!!』
そう言って小人たちを威圧してから私は丁度よく村の外に転がっていた大岩に手を伸ばす。
だいたい10メートル前後のその岩は丁度、私の手の中にすっぽり納まる程度だった。
(よーし!まずはこれを使ってびびらさせて上げるんだから!)
私は大岩を掴むと、視線を村の小人たちのほうに戻す。
そして彼らを睨みつけながら、掴んだ大岩を胸の前におろした。
その光景をみて村人たちが動揺し始める。
『いい!よーくみてなさいよ!』
私は、小人達の視線を十分に意識しながら、岩を掴んだ右手の指に、ほんの少しだけ力を加えた。
ピシピシピシ・・・
みるみるうちに、私の手の中にある大岩に無数の亀裂が走り始める!
『ふんっ!!!』
バッゴーーーン!!!!
その大岩はいとも簡単にばらばらに砕け散り、岩の残骸が彼らの前にパラパラと降り注ぐ。
『どう?すごいでしょ?でもね、今のは私の本来の力のほんのごく一部しかつかってないのよ・・・だって私は・・・本当は・・・もっともっとおっきくなれるんだもの・・・。この村を片手で握りつぶせちゃうくらいにね・・・。あなたたちは恐怖っていうものを知らないみたいだから、私が今から直々に教えてあげるわ!』
そして、私は巨大化するために精神を集中し、全身に力を込めようとした。
だけど・・・。
「おお!神様が水路を塞いでいた大岩をどけてくださったぞ!」
「これで田んぼに水が引ける!」
「ありがたや・・・ありがたや・・・」
「これで、帝国に年貢を納めることができるわい・・・」
「もう、若者たちを帝国のやつらに連れて行かれることもないのね・・・」
「よーし!みんな農作業にもどれー!」
またしても、小人たちから予想外の言葉が返ってきて、私は集中力が途切れ、思わず脱力してしまった。
『・・・・・・・・・・・・・』
はぁ?
なんでそうなるわけ!?
人の話きいてるの!?
これから死ぬのよあなたたちは!
さっさと逃げなさいよ!!
恐怖に怯えなさいよ!!!
むっきーーーーーー!!!!!!!
私は今までに感じた事のない敗北感に苛まれ、拳をふるふる震わせながら、地団駄を踏んでいると、ニーニャが慌てて、私の側までもどってきた。
「お、おねえちゃん!?どうしたの!?ちょっと落ち着いて!」
私の様子にニーニャは慌てながらなんとか落ち着かせようと声を張り上げる。
(そうよ・・・もとはといえば、こいつに関わったせいで私はこんな屈辱を・・・)
私はニーニャの事を乱暴に摘み上げると自分の顔の高さまで持って行き、ほんの少しだけ指に力を加える!
「あ・・・ぅ・・・」
たったそれだけで、みるみるうちにニーニャの顔が苦痛で歪んでいく。
そうよ!もっと苦しみなさいよ!簡単には殺してあげないんだからね!
足元をみると土いじりをしていた他の小人たちが私の豹変した姿をみて激しく同様しているのがわかる。
ふん・・・、やっと私の怖さが分かったのね。
でも、もう遅いわ・・・。
この子を殺したら、今度はあなたたちを村ごと握りつぶしてあげるから、覚悟していなさいよ!
ガブリッ!!!
『!?、痛っ・・・』
唐突に私の足の膝に今まで感じた事のない激痛が走った。
『な、なに!?』
私が視線を足元へ移すと、地中からなにかが現れたのだろうか・・・。
おっきな穴が開いており、なにかが自分の足に噛み付いていた。
「ひー、魔物だー」
「うわあああああ!!!!」
「きゃーーーー!!!!」
小人たちは突如地中から現れた魔物に驚き、逃げ惑っていた。
でも、これは私に対する『恐怖』ではない・・・。
だから私の餌も手に入らない・・・。
プッチン!
私の中の堪忍袋の緒がきれた。
『下等生物のくせに・・・よくも私の・・・私の足に傷をつけたわねぇぇぇ!!!!』
私は空いたもう片方の手で魔物の首根っこを掴みそのまま、空中に宙吊りにする。
ボッキィィィ!!!!
そしてそのまま首をへし折り、大きく腕を振り上げ、渾身の力で、泡を吹く魔物を地面に叩きつける!
ドッゴーーーーーン!!!!
そして、轟音を立てて地面に体をめり込ませた魔物の頭を私は思いっきり踏みつけてやった!
ドズーーーーーーン!!!!!!
グシャ!!!
『はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・』
無我夢中で横やりを入れてきた魔物を痛めつけて、私が冷静さを取り戻した時にはかろうじて生きていたその魔物も頭を私に踏み潰されて絶命していた。
(ふん!ゴミ生物のくせに私の足に噛み付くからそうなるのよ!よーし、今度こそは、この子を・・・)
そう思ってニーニャの事を摘む指に再び力を加えようとしたその時、ニーニャの蒼い澄みきった瞳から放たれる視線と私の視線が交差する。
「お、おねえ・・・ちゃん・・・く、くるしいよ・・・」
潤んだ瞳で私の事を見つめてくるニーニャ。
あと少し、あとほんの僅かに指を閉じればいいだけなのに、それだけで終わるのに・・・!
それだけで・・・私の中のこのモヤモヤした気持ちも晴れるはずなのに・・・!!!
なぜか、指に力が入らない・・・。
私に壊せないものなんてないはずなのに・・・。
*********
わたしの体を圧迫していたおねえちゃんの指から急激に力が抜けていくのが分かった。
それと同時におねえちゃんの大木のような指で支えれていたわたしの体は支えを失い、指の間からずるずると下に向かってずれ落ちていく。
「へ?、ちょ・・・おねえちゃ・・・きゃあああああぁぁぁぁっ!?」
わたしは必死に指にしがみ付こうとしたが間にあわず、指の間から滑り落ちていったが、間一髪、わたしの体は地面に激突するすれすれの所で、おねえちゃんの手によって受け止められる。
**********
「あぁ・・・びっくりしたぁ・・・、流石に死ぬかと思ったよ・・・。もう、ひどいよ、おねえちゃん!」
ニーニャは私に方に顔を上げるとやや強い口調で抗議をしてきた。
やっと嫌われたかな・・・。
これで本来の私に戻ることができる・・・
私の胸の中に巣食うモヤモヤも消える・・・
そのはずなのに・・・
なんだろ・・・
この気持ち・・・
いつも、いつも、いくら負の波動を食らっても一時的にお腹いっぱいになるだけで、すぐに襲ってくる空腹感と、満たされない私の心・・・
でも、ニーニャと話していると負を吸収した時よりも心地いい、なにかわからいものが私の中をどんどん満たしていく。
私は本当は気づいていた。
でも気づかないふりをしていた。
無意識のうちにニーニャたちの事を受け入れようとしている新しい自分が生まれつつあることに・・・。
でも、そんな心配もなくなった。
いつもの孤独で本能で暴れ、負を喰らう生活に戻るだけ・・・。
別に悲しくなんてない・・・。
寂しくなんてない・・・。
またひとちぼっちに戻るだけ・・・。
ポタ・・・。
ふと、ニーニャが立っている私の手の中に水滴が零れ落ちる。
あ、あれ・・・。
な、なにこれ・・・。
目からなにかが、いっぱでてくるよ・・・
止まらないよ・・・
ううううううっっっっっっ・・・・・
理由も分からず、ただただ目からどんどん溢れてくる水滴に視界を歪ませる私に、目を大きく開けながらびっくりしたような表情で、ニーニャが再び話しかけてくる。
「もー、わたしを魔物から護るために摘み上げてくれたのはうれしかったけど、ちょっと強く摘み過ぎだよ!もうすぐで潰れちゃうところだったよ・・・って・・・おねえちゃん?」
**************
「もー、わたしを魔物から護るために摘み上げてくれたのはうれしかったけど、ちょっと強く摘み過ぎだよ!もうすぐで潰れちゃうところだったよ・・・って・・・おねえちゃん?」
おねえちゃんが摘みあげてくれたおかげで、わたしは地中から現れた魔物に襲われずにすんだ。
でも、おねえちゃんも焦っていたのか、予想以上の力で体を前後から圧迫されてちょっと痛かった。
だから思わずおねえちゃんに抗議しちゃったの。
そしたら、急におねえちゃんがわたしの目の前で泣き出したからびっくりしちゃった。
いつも自身に満ちていていて、力強くて、神々しい今までのおねえちゃんからは想像できないもうひとつの姿。
わたしはそんなおねえちゃんの姿を見て、いてもたってもいられなくなり、自慢の身軽さを活かして、慌てて手の上から、腕を伝って、肩の上へと移動する。
そして肩の上に立って遥か上から伸びる何百本もの銀色の蔦の一本に捕まり、無我夢中で頭のてっぺんに向かってよじ登る。
「う、うわぁ、思ったよりも高いよぅ・・・」
わたしは頭のてっぺんにたどり着くとぐすぐすと泣き続けるおねえちゃんの頭を優しく撫でてながら、自分のよりも小さな村の子供たちをあやす時と同じように、いいこいいこしてあげた。
「泣かないで、おねえちゃん・・・。おねえちゃんはわたしたちを護ろうと必死だったんだよね・・・。ごめんね、怒鳴ったりして・・・」
ドスゥゥゥゥゥゥン・・・・・・。
わたしの言葉に、おねえちゃんは、毒牙を抜かれたように、俯きながら、へなへなとその場に座り込んだ・・・。
「あ、あわわわわ・・・」
その振動であたしは足を滑らせて、おねえちゃんの頭の上から落してしまった。
「きゃあああああ」
再び地面に向かって一直線に落ちていく私の体を、肌色のクッションが優しく受け止めてくれた。
「あ、あはは。また落ちちゃった、てへっ」
わたしは自分の頭をこつんと叩いて、立ち上がり、おねえちゃんに『ごめんなさい』と頭を下げる。
********
私はニーニャが乗る手を自分の視線の高さに持ってきて、彼女の事を霞む目線でじっと見つめた。
あれだけのことをしたにもかかわらず、ニーニャの様子は初めて出会った時の怒った態度や口調とまるで同じで、私はまた目から大量の水滴を流した。
直径1メートルほどの大粒の水滴が『ぱしゃん』『ぱしゃん』という音を立てながら大地にあたり弾けて、小さな水溜りをたくさん作っていく。
『ごめん・・・なさい・・・痛かったよね・・・ごめん・・さい・・・ごめっ・・・』
「おねえちゃん、顔をあげて。ちょっと痛かったけど、わたしはこの通りぜんぜん平気だから、ね?」
ニーニャは私の手のひらの上でガッツポーズを取りながら、元気いっぱいに微笑んだ。
『でも・・・でも・・・私は・・・あなたを・・・』
「護ろうとしてくれたんでしょ?」
私はぶんぶんと首を横に振った。
『ちがう・・・ちがうの・・・。私は・・・私・・・は・・・』
「ねぇ?おねえちゃん。ひとつだけきいてもいい?」
『え?う、うん・・・』
「おねえちゃん、魔物をやっつちゃう前に、『村ごと握りつぶしちゃうぞ!』っていったでしょ?あれってわたしたちを、おねえちゃんから遠ざけるためにわざと言ったんだよね?」
『ううん・・・、私は本気であなたたちを殺そうとしたのよ・・・。
たぶんあの魔物が現れなかったら、間違いなく村ごとあなたたちをこの手で・・・』
「どうして、そんなふうに思ったの?」
『私は破壊神だから、今まで色々な星のあなたたちと同じような小人たちを殺してきた・・・。
思い通りにならない事なんてなかった。
みんな私の姿をみるだけで怖がって逃げ惑う。
それが当たり前だったの。
でもあなたたちは他の小人たちとはぜんぜん違った。
私が姿を見せてもぜんぜん怖がらなくて、私が予想できない行動ばかりして・・・ぜんぜん思い通りにいかなくて、それがすっご悔しくて・・・』
「だから、あんな事言ったの?」
『うん・・・』
「そっか・・・」
ニーニャは少し考えるように頭をさげて、なにかを考えるような仕草をすると、しばらくして再び私の方に顔を向ける。
「ねぇ?おねえちゃん、私の『家族』になってくれないかな?」
『えっ?』
またしても、まったく予想もしていなかった彼女からの提案に私は思わず目を丸くしてニーニャの事をじっとみつめてしまった。
「やっぱり、神様と家族にになるなんて、だめ・・・かな・・・?」
ニーニャは少し不安そうに私の顔を目をうるうるさせながら、見つめてくる。
「だ、だから私は神様なんかじゃないって・・・」
「ううん、神様だよ!おねえちゃんは、わたしたちの守り神さまだもん!」
『う・・・・』
そ、そんなうるうるした目で見つめないでよ・・・。
そ、そんな顔で見つめられなら、嫌って言えないじゃない・・・
『わ、わかったわよ・・・。その『家族』っていうのになってあげてもいいわよ・・・』
************
おねえちゃんはわたしの提案にとっても複雑な表情をしていた。
やっぱり、だめなのかな・・・。
そう、わたしがあきらめかけてかけたその時・・・
『わ、わかったわよ・・・。その『家族』っていうのになってあげてもいいわよ・・・』
おねえちゃんは少し照れくさそうに頬を赤らめながら、そっぽを向いてそう言ってくれた。
わたしはその言葉に思わずうれしくなって、おねえちゃんの手のひらの上に乗っている事も忘れて、おねえちゃんの頬に向かって思いっきりジャンプした!
『ちょ・・・ニーニャ!?あぶなっ・・・きゃ!』
どず〜〜〜〜〜〜ん!!!!!
わたしが急に走り出したのにびっくりして、おねえちゃんは大轟音と大激震を生みながら、後ろに倒れこでしまった。
でも、そのおかげで無事に頬の上に乗る事ができたわたしはその白くておっきなふかふかのじゅうたんに頬擦りしながら体全体でおねえちゃんの温もりを肌で感じながら頬に顔を埋めて、その喜びを噛み締めた。
*************
『ちょ・・・ニーニャ!?あぶなっ・・・きゃ!』
私はニーニャが手の上から自分の顔に向かって、いきなりジャンプしてきたからびっくりして思わず後ろのめりに盛大に尻餅をついて、そのまま倒れこんでしまった。
どず〜〜〜〜〜〜ん!!!!!
『いったたた・・・・はっ!』
私はもしかして地面に落下してそのまま下敷きしてしまったかも知れないと思い、慌てて起き上がろうとしたが、ふと自分の頬の上でなにかがもぞもぞ動いているのに気づく。
『ニーニャ?ニーニャなの!?』
「うん・・・うん!」
そのいつもの彼女の声に、私はほっと胸をなで下ろした。
でも声が僅かに震えている。
もしかして怪我しちゃったかな・・・
『ねぇ、ニーニャ?声が震えているけど、どこか痛いの?』
「ううん・・・ちがうの・・・。おねえちゃんがわたしの家族になってくれるって言ってくれたから、それがうれしくて・・・そしたら涙がでてきちゃって・・・えへへ・・・」
『涙?』
「おねえちゃん、涙、知らないの?」
『う、うん・・・』
「さっきおねえちゃんも目から流していたでしょ?あれが涙だよ」
『あ・・・』
そっか・・・。
あの水滴みたいのが涙っていうんだ・・・。
きっと悲しい時に流すものなんだろう。
あの時の私がそうだったのだから・・・
『ごめんね・・・。よくわからないけど。泣かせちゃって・・・』
「ううん、わたしは悲しくて泣いているわけじゃないから♪ごめんね、びっくりさせちゃって・・・えへ♪」
『じゃあ、なんで泣いてるの?』
「うれしかったから・・・」
『うれしいのに、泣いてるの?小人って本当に不思議な生き物ね』
「さっき、おねえちゃんだって泣いてたでしょ?」
『え?』
そっか、私はうれしかったんだ・・・。
自分の存在を受け入れてくれたこの小人たちのことがいつのまにか好きになってたんだ。
そして、そんな彼ら好意を踏みにじって殺そうとしたのに、それを恨む事無く許してくれたニーニャや他の小人たちへの深い感謝の気持ちがあふれ出て、それが涙となって私の目からこぼれ落ちたんだね・・・。
ふふ・・・。
なんかへんな気持ち・・・。
私、すっかり毒されちゃってるなぁ・・・。
嫌な気分じゃないけど・・・。
むしろ、負の波動を喰らっていた時よりも、なんか体の中が満たされて、あったかくて・・・。
とっても気持ちいい・・・。
・・・・・・・。
よし、決めた!
破壊神なんてやめてやる!
この星でニーニャたちと一緒に暮らそう・・・。
きっとニーニャたちのほうが私よりも先に死んじゃうけど、そしたらのその子供を私が護っていこう!
私の中に眠る『破壊衝動』も体内に蓄えた負の波動を変換した魔力で押さえつければ、たぶん・・・数百年は持つはず・・・。
やばくなったら、この星を脱出すればいい。
ここからは、私の精神力勝負だ。
だいじょうぶ・・・。
ニーニャたちが私の事を好いていくれる限り、私は・・・『破壊衝動』なんかに負けたりしない!
見てて、ニーニャ!
私変わるから!
あなたの言うとおり、この星の『守護神』になってみせるから!
私はそう心に強く誓うとニーニャに向かって微笑んだ。
その私の顔をみて、ニーニャもうれしそうに満面の笑みで微笑み返してきた。
「あっ!」
いきなり、ニーニャが口に手を当てて、何かを思い出したように大声を上げた。
『どうしたの?』
「そういえば、おねえちゃんの名前、聞いてなかったなと思って、教えてよ!」
『名前?・・・私の・・・名前は・・・』
名前なんて今まで考えた事もなかった・・・
そもそも破壊神だった私にとって、まったく必要のない物だったし・・・
なんて答えればいいのかな・・・
うまい言い訳がでてこない・・・
*************
おねえちゃんは少しこまったような顔をして、手を顎にあてて『う〜ん、う〜ん』と唸りながら悩み始めてそのまま、固まっちゃった。
(もしかして、おねえちゃん・・・。自分の名前がないのかな・・・)
わたしはそんなおねえちゃんの顔を見て、直感的にそう感じ取った。
(でも、わたしの考えが間違っていたらおねえちゃんに失礼だし。ちゃんと確認したほうがいいよね)
「おねえちゃん、もしかして、名前・・・ないの・・・?」
わたしの問いかけに、おねえちゃんは少し恥ずかしそうに、こくんと頷いた。
「じゃあ、わたしが考えてあげるよ!う〜ん、なにがいいかなぁ・・・」
私は悩んだ・・・
どうせだったら、お姉ちゃんと血の繋がりがあるような名前がいいけど、おねえちゃんは守り神様だから、ふつうの名前じゃおかしよね・・・
う〜ん・・・
どうしよう・・・
なかなかいい名前が浮かんでこないよ・・・
***********
ニーニャが私のためにこんなにも真剣に悩んでくれている。
そんな彼女の心遣いだけで私の心の中はうれしさで満ち溢れた。
自然と頬も緩んでしまう。
今まで『化け物』とか『怪獣』とか『巨人』とか『魔王』とか・・・
他の小人たちからはそんな『恐怖』を表すような名前で私の事を呼んできた。
そのころはなんとも思わなかったけど、今ならそれはすごく悲しい事なんだって思えてくる。
ありがとう・・・ニーニャ・・・。
こんな汚れきった私を受け入れてくれて・・・。
そんな思いを込めて、あたしはニーニャに言った。
『どうせなら・・・ニーニャと似た名前がほしいな』
***********
『どうせなら・・・ニーニャと似た名前がほしいな』
「え?私と似た名前?」
『うん・・・』
「えっとね、一様候補はあるの。でも本当にいいの?おねえちゃん?」
『私は、あなたといつまでも繋がっていたいから・・・ね?』
「おねえちゃん・・・」
そのおねえちゃんの言葉にわたしはすっごくうれしくなって、飛び跳ねたい気持ちを必死に抑えて、一番最初に思いついた名前を口にした。
「じゃあ、『アーニャ』なんてどうかな?」
『アーニャ?』
「うん・・・。もし、おねえちゃんがあたしの本当のおねえちゃんだったらいいなって想像したら浮かんできたの」
『アーニャ・・・。これが私の新しい名前・・・』
「どうかな・・・。嫌なら他の考えるけど・・・」
わたしの言葉におねえちゃんはかなり激しく首を横にぶんぶん振った。
気に入ってくれたのかな?
『アーニャ・・・アーニャ・・・』
おねえちゃんはわたしが考えた名前を何度も何度も噛み締めるように口ずさむ。
『アーニャ・・・うん!アーニャ!!私、この名前気に入ったわ!』
「ほ、本当?」
『うん!もうやっぱり変えようって言ったって絶対に変えてあげないんだから!』
そんなおねえちゃんなりの冗談に思わずわたしは苦笑しながら微笑んだ。
『な、なによ・・・』
おねえちゃんは少し頬を膨らませながら、私の顔をじーと見つめてきた。
「ううん、なんでもない♪」
わたしも血の繋がりはないけど、新しいおねえちゃんが出来てうれしくて、うれしくて・・・。
また少し、涙が出てきちゃった・・・。
私は涙を拭いて満面の笑みで微笑み返した。
「これからよろしくね!アーニャおねえちゃん!!」
『こちらこそ、よろしくね!ニーニャ、見ててね、私、変わるから!』
「うん!私たちの守り神様♪だーいすきだよ!!!」
***********
私は力強く頷いて、ニーニャの澄んだ蒼い瞳を見つめ返した。
それからの私の生活は一変した。
朝は私が知らない色々なことを丁寧に教えてくれて、昼間はニーニャや、他の子供たちの遊び相手になってあげたり、子供たちが『お空、とんでみた〜い』といった時には、手のひらの上に乗せて空へと連れてってあげた。
私の手のひらの上で無邪気にはしゃぐニーニャや他の子供達。
私はそんなニーニャ達をみてるだけで、自然と頬が緩んでしまった。
***********
それから数年後・・・。
「おめでとー!」
「おめでとう!」
「ニーニャ!幸せになれよ!」
わたしは村でよく一緒に遊んでいた幼馴染の男の子に求婚され、結婚しました。
それから、彼との新婚旅行にはアーニャおねえちゃんに乗せて言ってもらいました。
最初は渋ったおねえちゃんだったけど、最後には頷いてくれたから。
ほんと素直じゃないんだから・・・、ふふっ。
乗り慣れたおねえちゃんの頭の中は暖かくて、おねえちゃんの髪の毛はふかふかのクッションみたいで。
体全体で浴びる風はとっても気持ちよくて・・・。
たぶん、こんな最高の遊覧飛行を体験できる人なんて、世界でわたしたちだけじゃないかな♪
************
両手を顎に当てて寝転がりながら見ていた結婚式とかいう宴が終わったあと、白いウェディングドレスに身を包んだニーニャが彼女の夫を連れてにこにこしながら私の元に駆け寄ってきた。
なにかと思い顔を地面に近づけてニーニャの言葉に耳をかたむける。
「ねーねーおねえちゃん!私これから彼と新婚旅行にいくことにしたの!」
『そう、いってらっしゃい』
「う〜。そうじゃなくってぇ・・・、おねえちゃんに連れて行ってもらいたいな♪」
『なんで私が付き合わなくちゃならないのよ・・・』
「え〜ダメなの〜?」
「私からもどうかお願いします!」
正直、私はあまり乗り気じゃなかった。
ニーニャだけならまだしも、よくわからない横にいる男も一緒というのがいまいち納得がいかなかったのだ。
でも、ニーニャが目を潤ませながら何度も何度もお願いしてくるし、相手の男もなんどもなんども腰の骨が折れそうな勢いで深々と頭を下げてくるので、なんかこっちが申し訳ない気持ちなってきちゃって、私は渋々、承諾した。
その時のニーニャのあまりの嬉しさに飛び跳ねながら私に見せた笑顔はこれからもずっと忘れないと思う。
『じゃあ、手を地面につけるわね。気をつけて乗りなさいよ』
私は体を起こし、ニーニャたちが乗りやすいように手の指を地面に半分くらい埋め、二人が手のひらの上に乗ったことを確認すると、ゆっくり手を持ち上げて、二人を自分の頭のてっぺんに降ろした。
「えへへ、おねーちゃんの頭の上に乗るの久しぶりだな♪いいにおい〜。ね、あなたもそう思うでしょ?」
ニーニャの問いかけに予想以上の高さに少しへっぴりごし気味だった彼女の夫も笑顔で頷く。
『いい、飛ぶわよ。髪の毛にちゃんとつかまってなさいね』
「はーい♪」
「了解です!」
私は大地を蹴り、空へと舞い上がった・・・。
いつまでも、いつまでも、こんな楽しいくて、満たされた一日がずっと続いていけばいいのにな・・・。
私は心の中でそう強く願った。
けど・・・、そんな私の願いなどあざ笑うかのように、別れの日は刻一刻と、私たちに忍び寄っていた・・・。
7話へと続く。