えすけーぷ ふろむ ますく escape from mask
part 1

「ね~え、まだそうしていたいのぉ?」

 うふあぁ……ものすごく、こうしていたい。
 不織布の向こうから浴びせられるのは、かぐわしくて甘すぎて、だけど、熱い暴風のようなサナさんの吐息。

「仕方ないわね、もっとサービス欲しいんだったら……はあぁ~あ、はあっ」

 サナさんはその可憐な手でマスクの上から覆って、息を吐きかけて暖めた。
 二重にしてつけているマスクの中で、キツキツに挟まれていてほとんど動けない、小人になってしまった僕の全身を。
 ふわぁ、幸せでとろけ……っ!
 っていう前に、のぼせて失神しそうなのだ。いくら天国の吐息でも物理的に、高温多湿すぎて。

「もう、ハル君ってば、早くぅ。カッコよく脱出するところ見せてよ。虫けらおつむの下僕にされたくないんでしょ?」

 きっとかなり小さい囁きだろうに、僕には歯が立たない分厚いマスクの布を易々と突き抜けて、可愛い声が全身をつんざいていく。
 くう……そうなんだよな。このままサナさんの息で、脳味噌もろとも蒸されっぱなしでいたら、本当にまともに考えられなくなると思う。

 僕は、握りしめた手を恐る恐る、口元に近づけた。脱出のために使うといいよ、と、小さくされる前から持たされているカプセル。やっとの思いで指を開いて、それを見てみる。小人になっても飲めるような大きさ。とは言っても、渡された時にゴマのようにしか見えなかった状態と比べたら、喉につっかえそうなくらい存在感があった。
 これを飲んでどうなるかは告げられてなくても、想像は全然難しくない。きっと2通りしかなくて、そのうちの、サナさんの愉悦を満たす方になるんだ。

「おや?あれあれ?もぞもぞしなくなったのは、決断したってことかしらね!嬉しいから、前祝いのキスあげるね、ハル君」

 サナさんの唇が押し付けられた。マスク越しでも柔らかいとはいえ、上半身が楽々とうずめられてしまう優しい暴力で、僕の手の主導権を器用に奪うサナさん。
 つまりはなんの判断も許されることなく、僕はカプセルを飲まされたのだった。