遂に、時がやってきた。
 これが私達、最後の任務かもしれない。
「オペレーター、対象の状況は?危険域到達まで、どの程度だ!?」
「はい!張りの臨界まで、残り15秒!」
 速い、予想以上!
「ダメです!対象は現在、屋外を移動中!開放が間に合いません!」
「これから先、絶対に目を離すな!!」
 猶予は無い!だが、そのための奴らだ!
「各層のポリマー大隊に通達、第一級戦闘態勢!」
「確認しました!既に各隊、万全で待機しています!」
「そうか、さすがだ!」
 頼んだぞ、我らが精鋭達!この任務、全身全霊を捧げよ!

「あっ!そ、そんな!」
「どうしたオペレーター、何が起きた!?」
「臨界点シミュレーティングが再計算されていきます!対象が、移動速度を上げているようです!誤差修正、マイナス10秒!」
「対象も自覚したか・・・開放するための安全地帯に急行しているようだが、その運動で圧力も加わる。危険な賭けだ。だがもはや問題はない!第一層大隊、浸水に備えろ!」

 じわっ。

「臨界、突破しました!第一層に到達!」
「ポリマー大隊、吸水開始!」
《大隊の皆さん、総員、吸水開始です!繰り返します、吸水開始です!》
 全域に響くアナウンス。間に合った。これでしばらくは、持ち堪えられるはずだ。
 対象たる大いなる存在に、我々の声は届かないのだろう。しかし、是非願いたい。
 ポリマーに志願した者達の犠牲を無駄にするな、早く開放してやってくれ。

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「待ってください、これは!し、信じたくありませんが!」
 ん?
「速い、速すぎます!第一層ポリマー大隊、現時点で吸収キャパシティの93%!限界までわずかです!」

 な、んですって?

「そんなバカな、何秒も経っていないでしょ!?大隊の奴らは一人一人が、体重の1000倍以上を吸収できるはずなのに!!」
「間違いありません!既に皆、巨大娘化のリミットを超えています!」
 そんな、はず、ない!?
「キャパシティ、98.9%に到達!第一層、これ以上は吸収不能です!」
 なんてこと・・・六層もの布陣は鉄壁だと、思っていたのに。
 もう再計算しなくても、簡単な話。
 たったの!
 六層でしかない!!
「あっ、救援要請!第二層です、救援要請を送ってきています!」
 そんなもの、あるわけがないでしょうに・・・・・・こうも混乱するなんて。
「返信、伝えなさい。お前達は阿呆だったのか?寝言を言っている間に、永遠に眠るつもりか?命令は一つ。溺れる前に吸い尽くせ、だ」
「は、はい・・・!」
 私は、人生で最も深いため息をつく。そうせざるを得なかった。

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 せめて、心中で謝っておきたい。麗しき母なる乳に。
 その衣服への染み出しも防げない、私達の不甲斐なさを。

 まったく薄過ぎたようだ―――並行世界番号四十九の疑似人類が威信をかけて建造した、母乳パッドなど。