借金の取り立て、明日までお待ち頂けないでしょうか?
お金は用意できませんが、代わりのものを。
金箔、でございます。
準備していた知人の飲食店が、この度の休業で用途がなく、特に譲っていただけることになりまして。
工芸品や高級料理の飾りとなる原材料ですが、職人でもない一般人が、おいそれと入手できるものではございません。
金銭に換算してしまえば利子にもならないものです。
ですが、皺ひとつない未使用の純金箔は、それだけで美術的価値がございます。
せめてもの心づけ、お受け取りいただけますか?
ありがとうございます、明日、お待ちしております。
いらっしゃいまし。
お約束の品、こちらに用意しております。
それでは、厚みはいかほどになさいますか。
そう、1mmほどもあれば、さぞや満足でございましょうね?
ではご覧にいれますわ。
「貴方様の感覚で1mmの厚みを感じられる金箔」でございます。
ささ、お手に取ってくださいな。
おや。
どうかなさいましたか。
動けない?
圧し潰されそう?
うふふ、これはまた。
重さ0.03g、薄さ1万分の1mmの金箔一枚を乗せられたくらいで、大の大人が大袈裟ですわね。
それほどに有難みを感じていただけるなんて、お膳立てした甲斐があるというものです。
金箔の豪奢な掛布団、そのお具合をご堪能いただいている様子、私も微笑ましく見つめております。
綺麗な金箔の中央辺りで浮き上がった小さな小さな皺が、微少によじれていく。
貴方様がそこにいらっしゃる証、そんなものなのですよ。
時間はたっぷりございます。
どうぞ、心ゆくまでご笑納いただければ。