みおちゃんに縮小能力があることを知ってしまった僕は、体を100分の1に縮小された。
『どこに閉じ込められるか選ばせてあげる』
というので、彼女の腋の下にしてもらった。
そして、1週間が過ぎた。

「あ~、くっさいワキガに包まれてる~。全身の臭いがワキガに染まっちゃってるよ~、幸せ~」
『いやぁんもう、いい加減にしてよ鈴原くん! 私の腋の中で悶えないでよ、ムラムラしちゃうんだから・・・』
僕の生活はバラ色ならぬ、みおちゃんのワキガ色。虫のような小ささの身体にされて、ぷにぷにの女の腋に包まれて、吸い込む空気もワキガ、汗腺から補給する汗もワキガ。
こんな生活は、ここに閉じ込められるまで想像もしていなかった。
だけど、これこそ僕の理想郷!
「臭いタップリのワキガ汗、もっと吸っちゃおう。チューチューレロレロ~」
『やっ、そんな、やっとオナニーしておさまったのに、またおマンコ濡れちゃう』
あたりがグラグラ揺れ始めた。言葉の通りオナニーを始めたのだろう。みおちゃんは、虫のような男に汗を吸われただけで欲情する変態女だった。
『ねえねえ、マン汁だよ? グチョグチョだよ? 今なら無条件でおマンコに招待しちゃう』
つやつや濡れた指先を、みおちゃんが腋の下に差し出してきた。僕の身長くらいの太さの巨大な指だが、恐ろしいという感情はもう無かった。
「うげっ、近づけるな! マンコ臭いんだよ!」
僕は悪態をついた。
本当は、みおちゃんの愛液の臭いは悪くない。年頃の雌の香りだ。元の大きさで嗅がされていたら、エロい気分になったかもしれない。
でも僕は既に、ワキガの虜になってしまった。この小さな空間で満たされる幸福感の前には、マン汁はチーズ臭いだけの体液に過ぎない。
『鈴原くんのバカ、なんでワキガなのよ・・・女として見てよ、私を・・・』
みおちゃんは再びオナニーに戻った。彼女が興奮すれば、汗と一緒にワキガが濃くなって、ツンとくる臭いが全身に浴びせられる。
「うほぅ、この臭いがたまらん! 一生みおちゃんの腋に寄生してやろうかな~」
僕のその言葉で、みおちゃんの揺れが止まった。
『へえ、一生住みつきたいんだ・・・そうよね、それでいいのよね』
みおちゃんが少し腋を開いた。鏡を通して目が合った。巨大な瞳が僕のことをにらんでいる。
『普通の人間に戻すの、や~めた。鈴原くんなんか、ワキガの素の菌と一緒になっちゃえ』
「え?」

聞き返す間もなく、僕の周囲の世界が巨大さを増していった。気づきもしなかった足元の裂け目が、一瞬にしてクレバスになった。
「わあっ、落ちる!」
尻もちをついた。その程度の感触だったが、見上げると自分が谷底にいるのが分かった。
『あ、もう見えなくなっちゃった。菌サイズってホントに小さいんだ、ビックリ。私の能力ってここまで凄いんだわ』
谷から見える空を天井がふさいだ。肌色の天井の凸凹が、凄い速さで過ぎ去っていく。
『鈴原くん、私が何してるか分かる? あなたがいた辺りを指で撫でてるんだよ。菌になっちゃったら、押し潰されても死なないよね』
一瞬考えて理解した、あの天井は指先の皮膚で、凸凹は指紋だ!
谷底にいて直接触られなかったから助かったが、この谷よりはるかに深い、あの指紋の段差に巻き込まれたら、一瞬で擦り潰されただろう。
ならこの谷はどこなのか・・・そうか、皮膚の角質の間の隙間だ。本当に雑菌のサイズなら、とんでもない小ささにされてしまった。
『ここまで小さかったら、どれだけ汗を吸ってもいいよ。もうなんにも感じないからね、鈴原菌には』
「おい、冗談はよせよ・・・マジ死んじゃうだろ、僕・・・」
『何か言いたい? 残念! 目にも見えない菌の言葉なんて、巨大な人間様には聞こえないわ』
空が再び見えた。途方もなく巨大化し、天空のかなたいっぱいに広がる瞳。もうそこに僕の姿は映っていないのだろうか。
『鈴原くんは念願のワキガの一部になって、短い生涯を終えるの。うん、最初からこうすれば良かった。変に人間扱いしちゃダメだったのよね。ま、頑張って』

巨大な視線が消え去り、空が暗くなった。脇を閉じたのだろう。
安全になったなら、早く谷から外に出なければ。角質の壁をよじ登った。
十メートルほどに思えるこの壁も、ミクロサイズの角質の厚み部分だけだと思うと、気が遠くなる。
肌の地表に出た。火山の山肌のように起伏に富んでいる。みずみずしいはずのみおちゃんの皮膚も、菌サイズから見たら荒涼としたものだった。
「とりあえず、あの山に登ってみよう。みおちゃんが気づいてくれるかも」
数百メートルあるかと思える小山だ。一番近くの山に行くことにした。
体の重さは感じない。小さい身体の副作用だろうか、斜面も超スピードで走れるようになった。あっという間に山の中腹に来たが、何だか山が震えたような気がしたと思ったら、山頂から液体があふれ出した。
「なんだ!?」
僕の身長を軽く超える津波が一瞬で押し寄せてくる。慌てて引き返すのも間に合わない。
「ぎゃあ、飲み込まれる!」
液体に翻弄され溺れる中、口の中に暴力的に流れ込んでくる味で、液体の正体が分かった。
「これ、みおちゃんの汗だ」
それも、流れ出るような量ではない。ただ肌の細胞を潤すための、無意識で出る微量の汗だった。
山の正体は、せいぜい百ミクロン盛り上がっている、ただの毛穴だった。体感では何キロも走破してしまう超スピードは、実際には一ミリさえ動いていなかった。
「これで瀕死の状態にされるのか、僕は・・・」
一瞬で蒸発する程度の発汗でもみくちゃにされている僕。どうやってもみおちゃんの五感に知覚されないのだと理解した。
そして、どういうわけか自分の途方もない卑小さに興奮した。
「ああっすごい・・・みおちゃんが普通に生活しているだけなのに、巨大すぎる新陳代謝に僕は蹂躙され続けるんだ・・・」
あっという間に射精した。その精液の臭いも、もはや彼女が気づくことはない。

汗の津波は間もなく皮膚細胞に吸収され、残りは干上がった。
毛穴の山のふもとまで流された僕だったが、この毛穴に登りたい気持ちは変わらない。いや、大いなる毛穴の奥深くへとダイビングしたい。
「うへっ、うへへ、あそこに入れば、みおちゃんのワキガの元凶の中に漬かることが出来るんだ・・・」
単細胞にも劣る大きさになった僕の脳みそに浮かぶ欲望は、完全にワキガ菌と同じものになってしまっていた。