信徒は礼拝堂を目指す。
一人一人がおぼつかぬ足取りで盲目に足を進める。
その瞳に命はなく、皆が一つの目的に従事する為の光を宿す。
ただの疑いも迷いもない。
礼拝堂の中で神に祈りを捧げる事こそ、彼等の存在意義なのだから。

一人の少年が礼拝堂へ続く扉の間に立つ。
後ろの者は立ち止まる。
少年だけが扉を開き、その奥へと足を踏み入れる。
後ろの者はその先に何があるのかを知らない。

扉の先には聖女がいた。
黒き衣に身を包み、深く広い祈りを捧げるその様は聖女と呼ぶに相応しい。
聖女のもとまではまだ遠く、少年は吸い寄せられるように歩き出す。

長くを歩き、聖女の前に立つ事を許された少年は跪く。
聖女は少年の姿を高みから見下ろして告げる。

「迷いある信徒よ・・・・私と共に、神へ浄罪の赦しを願いましょう」

聖女の口が開かれる。
少年は立ち上がり、眼前に開かれた聖堂への入り口を見やる。

「さぁ・・・・・・」

そして導かれるままに少年は聖堂の中へと吸い込まれていく。
明りが差し込まれた聖堂の中は赤く、天井からは幾本もの滝が滴り落ちてくる。
足場は軟く、足を乗せるとわずかに沈む。
空気は熱気に満ちており、聖堂の奥からは熱風が吹きつけてくる。
足元に注意を払いつつ進んでいると礼拝堂への扉が見えてくる。

扉は固く閉じていて少年の力では開かない。
その先へと進むためには聖女の赦しがなくてはならない。
そして聖女は少年に進む許可を与える。
自らの聖域へ侵入する許可を。

開かれた聖門は何者も拒まない。
拒むという行為そのものが冒瀆になると知っているのだから。
一度開けば後は自ずと流れに身を任せるだけでいい。
抵抗などは有り得ない。
聖門を降り、神秘の管を通り抜けたその先が、彼の目指す唯一の場所。
そして彼はそこで浄罪を得る。
それこそが彼等信徒の務め。

軟らかな床が意思を持ったかのように動き出す。
差し込まれていた光も徐々に消え始めている。
それらを合図とみなし、辺りが闇に包まれる前に少年は聖門へ身を投げ出す。
二度と戻れぬ浄化の地へ彼は旅立って行った。

神聖なる導管を降る。
全身に押し寄せる圧迫が少年を在るべき場所へと誘っていく。
垂直の壁は聖堂から滝が流れ込み、存分に少年を濡らしていく。
粘る液体に全身を包まれ、彼はなおも降下していく。
その旅の果ては近い。
彼の目指す礼拝の地はもう目前にあった。

頭から、ゆっくりと礼拝堂へ侵入されていく。
聖女の導きが終われば、あとは浄罪の時を待つのみ。
全てを溶かし尽くす礼拝堂で、聖女との融合を果たす事で、彼は浄罪を赦される。

地震にも似た揺れ。
肉壁の礼拝堂は内部に取り込んだ憐れな者を溶かさんと活動を始める。
空間全体が収縮する。
周囲の壁からは黄色の聖水が染み出してくる。
その中で少年は、ただその時だけを待っていた。

時間は要さなかった。
染み出した液体がかさを増したところで空間が揺れる。
水面は揺れて波となり、礼拝堂という肉壁に取り残された少年を容易く飲み込んだ。
少年が居た場所には、激しく泡立つ液体が残るだけだった。



聖女は祈りを捧げていた。
今体内で一体化しつつある生贄を浄罪するために。

人が神に赦しを得るには、神に赦された者と同化する。
聖女に吸収されれば、聖女の体内で永遠の時を生き、永遠の赦しを約束される。
それこそが彼等の浄罪。


人は罪の赦しを願い、聖女は罪を背負う者を喰らい、その罪を自らの体内で浄化する。

それは総ての人が罪の赦しを得るまで、聖女は人を喰らい続ける。

だが、人の罪が赦される事など永遠に無い。

故に、聖女は永遠に—————